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第3章 騎士見習決闘編

屋台のご飯は最高ですね!

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 ヨシュアと決闘をしてからもう数週間が経っていた。騎士団に入団してから本当に時間が経つのは早いものである。

 そして今日は待ちに待った城下街でのお買い物の日だ!

 ロイさんと約束をして暫く経っていたので、私は既に忘れかけていたが、ロイさんは覚えていたらしい。
 そしていつ空いているかと互いに確認したところ、二人の休暇がたまたま合っていた今日という日になったのだった。



「いいですか、城下街を歩くときは俺の事をローと呼んで下さい。それからクレアさんの事はクーと呼びますからね」
「はい!わかりました!ローですね!」
「敬語もダメです」
「ぐ……」

 そう言われてしまったら仕方がない。
 敬語は諦めよう。でもそれはロイさんにも敬語をやめて貰えるということかしら?
 なんだかロイさんが私に敬語じゃないところを見て見たいわ!

 そんな好奇心に負けて、私はロイさんに同じようにお願いしたのだ。

「それじゃあローも今日は敬語はやめてね!」
「仕方ありません……おほん。仕方ないなー、クー逸れるなよ~」
「はーい!」

 敬語じゃないロイさんなんてレアだわ、とテンションの上がった私は元気に返事をしたのだった。


 何故、私達が今こんなやり取りをしているのかと言うと、今日向かう先は貴族が住んでいる地域ではなく、一般市民が多く集まる場所だからだ。
 そして今は屋台の沢山ある市場の方を歩いている。

 だから今日の私とロイさんは、街を歩いてもおかしくない格好をしていた。
 なんだか一般騎士の休日っぽいイメージで、動きやすい服に帯剣するというぱっと見、冒険者スタイル。勿論マント付きでカッコいい!

 そして貴族とバレないように、私とローは兄弟という設定だ。
 兄弟というからには私は男装しているわけで、本当は私のが一個上なのだけど、見た目はロイさんのが上に見える為、ロイさんがお兄さん役で私は弟役である。

 なんというか兄という存在にいい思い出がない私は、実家にいる頭の固いお兄様の事を一瞬思い浮かべたが、すぐに端に追いやる。
 それと比べたらロイさんはなんと優しいお兄様である事か。私の兄と交換して欲しいものであると真面目に考えてしまった。

「クー!早くしないと置いていくよ~」
「まって、すぐ行くから!」

 余計な事を考えていたら、ロイさんがドンドン先に進んでいた。
 目指す先は食べ物を売っているところだ!



 それからというもの、私はお目当てである屋台を最高に満喫していた。

「ん~!おいしぃーー!!!」

 至福過ぎて今の私は人様に見せられない顔をしているだろう。その食べっぷりを見て、他の屋台の親父さんがこれもこれもどうだい!と、勧めてくる。
 そのせいで両手には食べ切れないほどの串焼きや飴細工を持つ事になっているが、私はお金を渡し感謝を述べつつも口は止まる事をしらず、次から次に頬張っていた。

 あぁ……なんて幸せなのかしら。やはりこの世の中で一番の楽しみは食べ物に違いないわ!
 それにこんな屋台の食べ物なんて、箱入なお嬢様のままだったら一生味わう事なんて出来なかっただろう。


「クー、美味しいかい?」
「ふぁい!!」
「ふふっ、それはよかった」

 先程からロイさんは、たまにこうやって話しかけてきては嬉しそうに見守っている。
 これでは兄というより保護者のような気もする。
 今持っている物をとりあえず飲み込むと、ロイさんにコッソリ尋ねた。


「あの、どうして誘ってくれたんですか?」
「どうしてー……、どうしてだろう?」

 その返答に首を傾げる。
 何故だかロイさんは本当にどうして私を誘ったのかわかってないように見えたからだ。

「それじゃあ、こんなのはどうかな~?俺はクーに外の世界をもっと知って欲しかった。うーん、この回答じゃ不満かな~?」

 ウィンクをしながら言うロイさんに、私は首を横に振る。きっとロイさんは私の世間知らず過ぎるところを、無意識に心配してくれたのだろう。
 そう結論をだしていると、近くの屋台の女性から声がかかった。


「ちょいと、そこのイケメンのお兄さん達。さっきからいい食べっぷりだね!うちのも食べてかないかい?」

 イケメンのお兄さん達……ふふ。ちゃんと私も男性として周りから認識されているわね。

 これも全てロイさんのおかげだと、私はニコニコとロイさんの方を見ると、ロイさんも嬉しそうに私をみて頷いてくれた。
 だから私はロイさんと一緒に、その屋台のお姉さんの方へと歩き出していた。
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