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第2章 入団試験編

第一試験を受けますよ!

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「今から第一試験について話をする!一度しか言わないのでよく聞くように!」

 大きな声を張り上げる騎士を見つつ、何がくるかわからない内容に息を呑んでいた。


「第一試験は基礎体力試験を行う!!基礎体力と言えども騎士となるに必要最低限の基礎能力を測る事になる」

 意外にまともな内容が来た事に、周りからは安堵の声が上がっていた。
 なんでも酷い年はいきなりバトルロワイヤルが始まる事もあったようだ。きっと今年の試験を考えた人がまともな人間なのだろう。

「基礎能力についてだが、最初に魔力量を測ってからスタートさせて貰う。魔力を持っている者と魔力量が足りないとされた者は、それぞれ別の基礎体力試験を受ける事となる」

 一瞬周りが騒めいた。
 今までの試験について少し話を聞いた事があるが、魔力適性をするなんて話は聞いたことがない。


 最近魔法騎士の在り方が変わったと聞いた気がするので、上層部で新しい応用でも見つかったのだろう。その為今年から魔法騎士を増員する為に増えた項目なのかもしれない。

 魔力量には自信のある私には助かる措置だ。


「今から全員に簡易魔力測定器を配るので結果が出たものから、魔力有りのものは赤い線が引いてある方へ、それ以外の者達は青い線の方へと移って欲しい。もし不正を働いた者は失格とする!!」

 こんな中でも不正をする者は居るのかと思いながら、私は簡易魔力測定器を受け取る。
 そして説明を軽く読んでみたが、どうやらこの簡易測定器は軽く自分の血を落とさないといけないようだ。

 測定器と言っても見た目はただの試験管だ。中の試薬液に血を入れると、魔力量で色が変わる仕掛けになっている。
 魔力量が低いと元の色とあまり変わらない青色、そして高くなれば成る程赤色に染まる。


 やり方はわかっている。
 それでもちゃんとした測定器しか使った事がない私は、血を出すために剣をザクりとやるのを躊躇っていた。

 だってちゃんとした測定器は、掌を当てるだけで良かったのよ。
 これなら血を出す練習をしておけば良かった!


「クレアさん、大丈夫?」

 自分の血を出す為にどれぐらい傷つける物かと考えていたら、私の様子を見て心配になったのかライズさんが声をかけてきた。

 その際にライズさんの結果がチラリと見えた。その色はオレンジ色だった。
 確か今回は黄色以上の色であれば適性ありだと言っていたはずだ。

「あ!ライズさんは魔力適性ありだったんですね!」
「そうなんですよー。俺そんなに魔法使うの得意じゃないから心配だったんですけど大丈夫だったみたいでホッとしました。それよりクレアさん、手を出して下さい」
「あ、はい」

 何も疑わずに手を出すと、ライズさんが手に何やら細い物を刺した。
 一瞬驚きで凝視してしまったが、チクリともせず全く痛くない。不思議に思っているとライズさんが手を引っ込めた。

「不意打ちみたいですみません。これなら痛みも何も感じないですし、すぐに血も止まりますから」

 言われた事が理解できず、私は自分の手を見た。
 人差し指からは僅かにぷっくりと血が浮き上がっている。慌てて簡易測定器に血を落とす。
 測定器の液体の色がみるみる赤色に変わっていく。その様子に私はホッとした。

「クレアさんも適性ありですね!じゃあ一緒に赤い線の方に行きましょう」



 赤い線の前方には簡易測定器の結果を確認する為の試験官を勤める騎士と、宮廷魔術士と思われる人が一緒に確認していた。
 黄色以上とはいえ判定が曖昧な事もある為、専門知識のある者が駆り出されているだろう。


 とりあえず私達も同じように並ぶ。
 私は気になって青い線の方をチラリと見た。どうもあちらには試験官は居ないようだ。

 確かに魔力が高いのに、わざわざそちらに行っても得は無いのだから、試験官は要らないのだろう。
 そしてその奥では、既に基礎体力測定に入っているようだった。


「クレアさんは魔力量が多いのですね」
「あ、はい。私の両親が魔力が強かったものですから。私は両親から良きものを貰ったと感謝しております」
「…………それは、羨ましいですね」

 その一瞬の間が気になって、ライズさんの顔を見上げる。しかしその顔は相変わらず笑顔のままだった。
 気のせいかと軽く目を擦る。それが悪かったのか、左目に何か違和感を感じてしまいさらに目を擦っていた。

「大丈夫ですか?」
「すみません、目に何か入っただけなので大丈夫です!」
「それなら、俺が見ますよ」
「いや、あの……」

 そういいながら、私の目を見ようと顔を近づけてくるライズさんに、「もう取れましたから!」と口を開くもその声は届かなかった。
 何故なら、訓練場に響き渡った怒鳴り声が私の声をかき消したのだ。


「うるせぇぇぇぇ!!!」


 その声の方を見ると、それは今まさに試験官へ簡易測定器を見せていた男によるものだった。

「よく見ろ!これはちゃんと黄色だろ??なんでダメなんだ!!」

 その男が持っている測定器は確かに黄色だ。だがその黄色はほんの少し黄緑色がかっている。
 誰が見たって適性無しに見える。

「ですから、あなたのものは黄緑色です。適性量には達しておりません」
「そんな馬鹿な!!よく見ろ!!!」
「何度見ても適性なしです」

 その男がプルプルと震えるのと同時に測定器を試験官に投げ飛ばそうとした。
 その手が離れるのが遠くからでもよく見える。同時に周りの喧騒が一層強くなる。


 測定器の中身に入ってる試薬は濃度の高い魔力が込められている。もし肌にかかれば魔力酔いどころでは済まないのに!


「危ない!」


 私は咄嗟に風魔法を使った。
 喧騒に紛れて突風が吹き抜ける。
 手から離れた測定器が、風に乗って私の手に届くのに時間はかからなかった。

 測定器をしっかり手に握った私は、未だに何が起きたかわからない顔をした男と、試験官である騎士の方へと歩いて行く。


「騎士様、横から失礼致します。お怪我が無くて良かった」
「あ、あなたは!」

 その騎士はきっと私の事を知っているのだろう。顔を見ると私に頭を下げた。
 男は一瞬同様したが、私が女だと気づくと強気な態度で近づいてくる。

「お、お前は何だ!!?」

 私は溜息を一つ溢し、わざと衆目を集める為大きな声で名乗りを上げた。


「私の名前はクレア・スカーレットです!」

 
 皆同じようにこちらに振り向く。
 そして私は好奇の瞳をただ黙って受け止めた。
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