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第六章 解呪編

53、真実

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目の前には、あの日俺を愛していると言ったそのままの姿で、ダンが佇んでいた。
俺はその人の名を、つい呼んでしまう。

「だ、ダン?」

しかし、その答えは俺の求めていたものじゃなかった。

「否、余はブルーパールドラゴンである」
「……嘘だ」
「嘘ではない。この姿は前の第5王子の姿であり、余が手に入れた体である。これがあれば余は何処へでも行くことができる!そしてイルを愛する事も出来るはずなのだ……」

ダンの姿で、ダンではない行動を取るブルーパールドラゴンに、俺は混乱していた。
ダンが第5王子でブルーパールドラゴン!?
なによりその事が信じられなかった。


「ダンは俺のこと全く知らなかったはずなのにどうして……」
「外界に行かせた際に、記憶は消しておいたのである、余計な知識は違和感が出てしまうからな。そのおかげで自然にイルと打ち解けることができたであろう?」

確かにウルは、ダンが過去を覚えてないと言っていたけど……。

「じゃあ、いつ記憶が戻ったって言うんだ?」
「それは、イルが初めて『刻の調律』を使ったときである。時が止まったとき、青い世界であったろう?この空間とその空間は繋がっておるからな」
「ダンが少しおかしいと思ったのはそのせいだったのか……?」

もしかしてたまに目の色が青く見えたのも、ブルーパールドラゴンの影響だったのかもしれない。

「そうであろうな。どうだ、イルはこの男の事気にいっておるのだろう?余とともにいればこの男と一生一緒にいる事ができるのだぞ?」
「……違う」
「なんであるか?」
「お前はダンなんかじゃない!ダンはそんなこと言わないし、俺の嫌なこともしない。だってそうだろ、ダン!俺の声がもし聞こえているなら答えてくれよ!!!」

俺はダンの姿をしたブルーパールドラゴンに向かって叫んでいた。
その声が、どうかダンへと届くようにと……。

「そんなことしても無駄であるぞ。この体の意識は……ぬ?」

思いが通じたのか、ブルーパールドラゴンの動きが止まり、突然苦しみ出したのだった。

「ぐぅ……な、何故だ……体、が……いしき、が、ゆうことを……き、かぬ……」
「だ、ダンなのか!?ブルーパールドラゴンに意識を乗っ取られてるんじゃないぞ!早く元に戻らないなら他のやつと幸せになってやる!!!」

その叫びとともに、ブルーパールドラゴンの動きが完全に止まった。
そして、ダンが顔を下げたまま口を開いたのがわかった。

「そんな事を言われては、仕方がないよな」

でも、その雰囲気はいまだ俺の知るダンとは違う気がして、俺は願うように問いかけていた。

「ダン?本当にダンなのか?」
「残念ながら、それもまた違う」
「だ、誰だ!?」

顔を上げたダンは、今まで見たことがないほどの笑顔を俺に見せていた。
その姿に、俺は再び絶望してしまう。

「イルレイン、お初にお目にかかる。俺の名前はダランティリア、君のひとつ前にいた第5王子とは俺のことだ」
「前の第5王子……じゃあダンの意識は?」
「それは俺自身であり、勿論記憶もある。俺はずっとお前を見てきたし、この気持ちはダランティリアの記憶が戻った後でも変わらなかった。だから今の俺はイルとずっと一緒にいたいし、二度と手放したくないと思うほど、イルのことを愛してるんだぜ?」

その仕草は間違いなくダンだ。
それなのにどうしてだろう、これをダンだと認めたくない自分がいる。

「それに別れる時に言っただろう?ダンとはお別れだって……次に会えたとしてもダランティリアとしてだということはわかっていたからな、だから仕方がなかったんだ。でもな、ダランティリアとしてイルにようやく会うことができて、俺は嬉しいんだぜ」
「そんな……」

俺の好きだったダンは、もういない……?

いまだに真実を認めたくなくて、俺はダンにしか見えないダランティリアに困惑していた。
そんな俺を見て、ダランティリアはニヤリと笑った。

「でもまさか、こんなに上手くいくとは思わなかったな」
「……どう言うことだ?」
「俺は呪いを解くために違う方法を試していた。それが人間をやめる事だったんだが、失敗する可能性の方が高かった。だけどイルのおかげで、俺はこうして呪いを解く事ができたんだ。本当、ブルーパールドラゴンを騙した甲斐があったな」
「まさか……!」

ダランティリアは自分の呪いを解くためだけに、ブルーパールドラゴン、そして俺さえも利用したんだ。

「そのまさかだよ、何故呪いの解呪なのにドラゴンの封印を解く必要があったのか……そして何故俺がドラゴンに体を譲ったのか。全てはこの日のため、俺が呪いから解き放たれて助かるためだったんだ!」
「だから俺の呪いは解けていないのか……」
「でもイルは俺の近くにいる限り、魔力は元通り使えるんだぜ?でも魔術は使えなくなっちまうけどな。そうだ、今すぐに念願の魔法を使えるようにしてやるよ」

ダランティリアは俺に近づき、その手で俺の頭に触れようとした。
それに少し恐怖を感じた俺は二、三歩後ろに下がってしまう。

「そんなに警戒するなよ?少し触るだけだぜ」
「ッ!?」

オデコを軽く突かれたと思ったとたん、体が今までにないほど軽くなったのがわかった。
呪いが解けたわけではないが、魔力が流れた事で魔素が溜まった状態ではなくなったからだろうか?

そんなことを考えていると、突然俺の首元で揺れていたネックレスが激しく輝き始めた。

「ん?なんだ……」
「これは……」

ルーディアに貰ったネックレスだ!
俺が驚いている間に、そのネックレスは光とともに弾け飛んだのだった。
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