上 下
18 / 110
第二章 錬金術師編

15、貴方を手伝いたい(後編)

しおりを挟む

ルーディアは倒れた俺を急いで仮眠用のベッドに運ぶと、症状をみてブツブツ呟き「すぐに良くなる薬を持ってきますから!!」と、部屋の奥へと走って行ってしまった。

俺は苦しみながらも、魔力を排出する為にローブの中にいるマニを触る。
幸い体に入り込んだ魔力の量は少ないので、暫くしたら普通に動けるようになるだろう。
でも今はとにかく冷や汗が酷い、それでもどうにか意識をマニに集中する。

暫くそうしていると、バタバタと走る足音が近づいて来た。きっとルーディアが戻って来たのだろう。
ルーディアは息を切らせて一つの瓶を俺の前に突き出した。

「遅くなりました。これを飲んで下さい!えっと飲めますか?無理なら僕が飲ませますので言ってください」

今の俺は声が出せないほど苦しんでいたため、一人で飲むことはできない。だから俺はルーディアに向けて、首を横に振った。
そしてこのときの俺は、飲ませてくれると言うのは瓶を口元まで持ってきてくれるのだろうと、そう思っていた。

「では、申し訳ないですが嫌かもしれませんので、目を瞑って口を開けて下さい!」

目を瞑る意味は理解出来なかったが、とりあえず頷いて言われたとおりにして待つ。
瓶が開く音が聞こえ、瓶の中身が何かに注がれている音が少し聞こえた。

飲む量が決まっているのかもしれないと、呑気な事を考えている俺の口に柔らかい何が添えられて、ゆっくりと液体が入ってくるのがわかった。

なんか液体は生温いし、飲みにくくて少し口の端から溢れた気がする……。
嫌な予感がした俺は目を開けて驚愕した。

目の前にルーディアの顔があったからだ。
そしてルーディアは真剣に俺に液体を飲ませてくれている。そう、ルーディアの口で……。

「!?!?!?!?!?」

余りの驚きにおれは口に含んだ液体を勢いよく嚥下した。そしてゴクリと音がしたことに安心したのか、ルーディアの顔が離れていく。

「どう、ですか?」

どう、とは?え?キスの事ですか?

「薬は効いて来ましたか?」

薬、薬ね!!
全く恥ずかしがっている気配のないルーディアに、物凄く真面目な性格だからこそ出来る技だなと、俺の方が恥ずかしくなってしまった。

俺は一度深く深呼吸して、体の調子を確認する。
先程まで俺を蝕んでいた魔力の気配が無くなっていた。

ならば呪いにも何か効果がでているのではないかと考えた俺は、さっそくステータスを確認した。
しかし呪いの症状は全く変わっていない。それに他に良くなった場所も特に無くて、少しガッカリしてしまった。

そんな簡単にこの呪いに効く薬があるわけが無いよな。

「もう大丈夫だ。ところでその薬は……?」
「これは僕が開発した薬なんですけど、他人の魔力によって操られた人にかけたり飲ませたりする事で、その魔力を消し去る事が出来る予定なんですけど……まだ少しの魔力しか消しされなくて失敗作なんです」
「いや、失敗作なんかじゃないさ。俺はその薬に救われたんだ……ありがとう」

そう冷静に言う俺は、心の中ではテンションが爆上がりしていた。
自分で開発するなんて凄い、錬金術師っぽい!!!

そんな事を考えてるとは知らないルーディアは「僕、頑張ります……」と俺の手を握って呟いていた。


それから1時間程で完全に復活した俺は、ルーディアと細かい話し合いをする事になった。
必要な素材を確認した俺は、再来週までに素材を集めてくると約束をし、そんなルーディアは「そんなに早く!?」と驚いてくれたりしたのだった。

「ところで、この魔法陣はどうすれば?」
「そのままにしておいて下さい。これは僕とセイの契約書みたいな物なので、必要になれば必ず役に立つと思いますから」
「ルーディアがそう言うのならそのままにしておく」

絶対ライムに何か小言を言われるだろうけど、今はルーディアの言うとおりにしておこう。
そして俺はどうしても知っておきたい事を聞いてみる。

「それともう一つ。この素材で調合すると何が出来るのかを調べて欲しい」

俺は呪いを解く為に必要な素材を使って、一体何ができるのか全く知らない。
そんな調合方法もわからない状態で、どうやって呪いを解くアイテムを作ればいいのか全く手付かずだったのだ。

だから錬金術師のルーディアであれば、もしかしたら何か知っているかも知れないと、予め書いてきた紙を渡す。
ルーディアは真剣に紙を見つめると、申し訳なさそうに答えた。

「今の僕にはわかりません……。ですが必ず解き明かして見せますので、お任せください!」


そう力強く言ってくれるルーディアに感激した俺は、依頼料よりも多くの金銭を渡しその部屋を後にした。
帰りは転移で帰ったので疲れずにすんで一安心。

とりあえず、まだ時間があるから帰りにダンのところに寄って、来週の予定を伝える事にしたのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

処理中です...