上 下
31 / 110
第三章 調合編

24、言ってやりたいこと(前編)

しおりを挟む

スライム達に救われた翌日。
いつまでも光り輝くスライム達のせいで、俺は寝不足だった。

だけどライムは、まだ俺の横で穏やかに眠っている。
ステータスを確認したが、ほぼ通常と変わらない数値に戻っている事にホッとした。

そして俺は、昨日あれだけ魔素を吸われたからか、凄く体が軽い。
こんなこと今までにない感覚だった。

いつも魔術で魔素を吐き出した後は、体に負荷がかかっていた。
でも今回みたいに魔素を吸収された場合、きっと魔素を吸い出した側には負荷がかかるけど、魔素を奪われた側には影響がないのかもしれない。

そう思うと昨日のスライム達が少し心配になりつつ、最近の負荷がかなり酷かった事を実感していた。

なにより俺の一つ前に転生した第5王子は、早死にしている。
俺の考えが当たっているのなら、その人は俺と同じぐらい魔術を使っていたはずだ。
やはりこの魔術は、体への負荷が少しずつ酷くなっていくのかもしれない。

だから魔術を使うのはなるべく控えるべきなのだが、現状そういうわけにもいかない。
だからこれは、俺の胸の内だけに秘めておくことにする。
ライムが気づきでもしたら、魔術禁止令がでてしまうからな。

俺はため息をつき、ダメだダメだと頭を振る。
だって今日だけは絶対に落ち込んでなんていられないから……。
だからその事を今は忘れて、今日という日の事を考えることにした。


何故なら、今日は俺の誕生日だからだ!

もちろん、俺の一番大好きな兄である第3王子のデオルライド兄上が、お祝いしに来てくれる予定なのだ。
だから本当なら来てくれるまでウキウキなんだけど……。

そう思いながら、俺は現実逃避をやめてこの部屋を見回した。
現在、俺の部屋には何処を見ても、スライム、スライム!スライム!!スライムが敷き詰められていた。

これをどうにかしないと、デオル兄上を部屋に入れる事は出来ないだろう。
俺は頭を抱えて、暫くうんうん唸ったのだった。


「……?……あ、主?」

どうやら俺の声がうるさかったのか、ライムが目を覚ましてしまった。
それなのに俺は、丁度いいタイミングに起きてくれた!とライムに抱きついてしまった。

「ライム!大丈夫か?体におかしいところとかないか?」
「……っ!?こ、これは夢でしょうか……私は生きていますし、い、イルレイン様の方から私に抱きついて頂けるなんて……!」

ライムは何故か感激しながら、俺を抱きしめ返してきた。そんなライムに、俺は起きたらまず最初に言ってやりたい事があった。
だから一度体を離そうとしたのに、ライムの力が強すぎて全くびくともしない。
仕方がないと諦めた俺はライムの耳元で叫んだ。

「ライム、これは現実だ!それにいいか、まず言わせてもらうけどな……俺なんかのために命をぽいぽい捨ててたら、いくつ命があっても足りないんだぞ!」
「は、はい……いえ、すみません。では本当にこれは夢じゃないのですね……」

そう言いながら、ライムはさらに強く俺を抱きしめる。

「そうだって言ってるだろ。それにまだ話は終わってないから、ちゃんと聞いてくれ!」
「はい、すみません……」
「とにかく俺が言いたいのは、勝手に俺を救って、勝手に死のうとするんじゃない!ライムが俺の死を悲しんでくれるように、俺だってライムが死んだら悲しいってことぐらいわかってくれよ!!」

その叫びにライムは体を離すと、俺の顔を見てハッと目を見開いた。
そんなライムをじっと見続けていたら、ライムの指がそっと俺の目元にふれた。

そこで初めて俺は、自分自身が涙を流していることに気がついた。
でも、出てしまったものは仕方がない。
俺は目元に触れるその手を離して、やけくそ気味に言った。

「俺は絶対に死にたくない。だから俺が諦めてもないのに、お前が勝手に諦めるな……」

腕でゴシゴシと涙を拭った俺は、悲しげに眉を寄せるライムを見つめる。
そして俺の瞳に耐えきれなくなったのか、ライムは俯いてしまった。

「……主、確かにそうでしたね。主だけ生き残っても誰が面倒を見るのでしょう」
「そうだぞ、俺の面倒をここまで見てくれるのはライムしかいないんだからな」
「そうですよね。……では、私はまだ主の面倒を見てもいいと言うことでしょうか?」

心配そうに顔を上げたライムに、俺は笑顔で言ってやった。

「もちろん!これからも俺のこと、よろしく頼むからな」
「……っ!お任せください。私は許される限り、一生イルレイン様のものですから」
「言い方が大袈裟だよ!!!」

執事の愛が相変わらず重いけど、、少し元気になったようでよかった。
俺は安心すると、改めて周りを見回した。
そこにはスライム達が俺らの様子を見守ってくれていたようで、顔がないのにこちらを見ているように見える。

そして俺はこのスライム達の事を、ライムにもちゃんと知って欲しかった。
そう思った俺はライムに改めて向き直るのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...