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第二章 錬金術師編
16、素材を探しに
しおりを挟む生茂る木々の中、俺はまたもやダンにお姫様抱っこされていた。
そして俺の悲しき叫び声が、先程からずっと森の中にこだましているのだ。
「いい加減下ろしてくれ!!」
「セイ、まだだめだ。下は毒沼になっているからな、俺は毒耐性のある服を着ているからいいがセイはそうじゃないだろう?」
「だから、俺は飛ぶからいいんだよ!!」
叫ぶ俺は何故こんな目に合うのかと、嘆いていた。
そんな俺は今日、調合に必要な素材を取りにダンと森に来ただけだった。
そして俺は、ルーディアに教えてもらったそれぞれの調合素材を思い出す。
祝福の鈴が朝露の滴、光のマテリアル、金色の鈴。
刻の調律が大黒蛇の皮、白蜂の針、鈍色の魔石、銀色の歯車。
それらを全て集めればあとは調合するだけである。
そして今日採取しに来たのは、朝露の滴だけだった筈で、他のは取れたらラッキー程度にしか考えていなかった。
そんな俺達は今、妖精の森と呼ばれるダンジョンの中に存在する白仙の泉に来ていた。
何よりここが妖精の森と呼ばれている理由は、この森自体が不可思議な植物が生えたり、現象が起きたりするためである。
そしてここ白仙の泉では、この泉の周りにある朝露を飲むと幸せが訪れるというジンクスがあり、朝露の滴という素材にもなっている。
だから朝イチでダンと一緒にこの泉まで転移して、朝露の滴を取ったところまでは良かった。
後は帰るだけだとダンの方を振り向いたその瞬間、上から大量の液体が降ってきたのだ。
驚いて「え?」とか言っている間に泉の周りは毒だらけになってしまったのだった。
その出来事を思い出しては、俺は何度目かわからないため息をつく。
因みにこの液体の原因は、遠くでカエルの鳴き声が聞こえるのため、間違いなくポイズンフロッグのせいだ。
「妖精の悪戯なんて言われているけど、これはポイズンフロッグが縄張りを荒らす奴らに向けて吐くただの毒液なのが本当に嫌だ。そしてなによりこの体勢も嫌だ!!」
「もう少しの我慢だからな。ポイズンフロッグは毒が効かないとわかれば、すぐに姿を現して敵を攻撃してくる」
その姿を想像してしまい俺は強気でいる事を諦めた。そしてカエルの姿を見ないようにダンの胸に顔を埋めた。
「おいおい、突然大人しくなったと思ったら可愛い事しだしてどうした?それにこうしてるとなんだ昔の事を思い出すじゃねぇか……。でもな、今の俺は手が動かせないんだから、セイが倒してくれないと困るぜ」
「じゃあこの体勢をやめて、ダンが倒してくれ!」
さっきまで平気な顔をしていたが、俺はカエルが苦手なんだ!絶対にカエルを見たくない!!
ジリジリと待たされたせいで、嫌な気持ちが強くなってしまったようだ。だから少し冷静を欠いた俺は、ついダンの胸板にグリグリしてしまった。
「まったく……セイ、それはずるくねぇか。あー、まあしょうがねぇ!じゃあそれなら、俺の願いを一つ聞いてくれるなら倒してやってもいいぜ?」
「わかった!なんでも聞くから頼む!!」
「よし、約束だからな!」
そういうとダンは俺を片手で抱えるように持ち直し、突然空高く跳躍した。
そして敵の位置を確認したのか、空中で軌道を変えると一直線に剣を突き刺したのだった。
ゲェゴォォオオ!!!!
という雄叫びが響き渡る。
カエルを見ないように途中で目を閉じた俺は、その巨体が倒れる音だけを聞いた。
「終わったから、目開けても大丈夫だぞ?」
俺はおっかなびっくり目を開けると、目の前には巨大なカエルが真っ二つにされて死んでいるのを、目の当たりにしてしまう。
余りの大きさに俺は驚き、再びダンの胸板に顔を押し付けたのだった。
「お前……カエル駄目だったのか」
知られたくない事実を知られてしまった俺は、なんだか恥ずかしくて泉に戻るまでダンと口を聞いてやらなかった。
「なぁ、誰にも言わねぇから機嫌なおしてくれよ」
ここで話しかけられても無視だムシ!
泉に戻るともう毒液は綺麗さっぱり無くなっていた。カエルを倒しただけなのに何故だ!?
そこがこの森の不思議な所なのかもしれない。
少し休憩して落ち着いた俺は、先程の事で気がついてしまったことがあった。
「ダン!さっき俺がお願いした後、ポイズンフロッグを簡単に倒しただろうが?何故最初からやらなかったんだ!!?」
ダンは最初、ポイズンフロッグが飛び出て来るのを待って攻撃すればいいと言った。
それなのにこの男がした事といえば、高く飛び上がって敵の位置を確認し即座に殺したことだ。
「しかも俺にあいつを倒せと言っただろう!最初から一人で殺せた癖に、あんな約束させたのか?」
「だってよぉ、自分で飛び上がるの好きじゃねぇからな。やっぱ、やる気が出るような事がないとな!」
そんな事言われたら、約束をちゃんと守らないといけなくなっちゃうじゃないか!!
俺はため息をつくと眉を寄せて、ダンを下から見上げる。
「それで、俺に何をして欲しいって?」
「うーん、そうだなぁ……こんな事なかなか無いからな、少し考えさせてくれ」
そう言ってダンは俺の手を掴むと、ある一点をじっと見つめてくる。
どこを見ているのかと俺も視線を追ったら、俺の左手の甲にあるルーディアが描いてくれた魔法陣に目を向けていた。
と、思ったら突然ダンが叫んだ。
「そうだ!!俺が選んだアクセサリーつけてくれねぇか?」
「……え?そんな事でいいのか?」
思った事よりだいぶマシで少しホッとしたが、先程手の甲を見ていたダンの事を思い出し、何かあるのだろうかと俺も魔法陣を見たけど全くわからなかった。
「ならどうせこの後、金色の鈴と銀色の歯車を買いに行く予定だったからその後に行くか?」
「そりゃいいな!」
そして俺たちは町に戻り、買い物を開始した。
金色の鈴と、銀色の歯車は量産タイプの魔術アイテムであるため、すぐに買う事ができた。
そして今はアクセサリーショップに来ている。
「ダンは俺に比べたらお洒落だしイケメンだから何つけても似合うけど、俺がつけて意味あるのか?」
「何言ってやがる。お前だって見目は悪く無いだろう?今はフードを被ってるから見えないけどお前の髪色、俺は好きだぜ」
そんな事をサラリと言えるダンはやはりイケメンなのだろう。本当に何故彼女がいないのだろうか……。
「お、これなんかお前に似合うんじゃねぇか?」
ダンが俺に渡してきたのは黒色の片ピアスだった。
シンプルな四角形なので、金色の髪から微かに見えるワンポイントとして、良く映えそうである。
「でも俺、ピアス穴空いてないけどな」
「なら俺が開けて、そのままつけてやるよ」
そう言うと、ダンの手が俺の右耳をすりっと撫でる。
その動作が少し恥ずかしくて、意識している間に手が離れていくのが見えた。
「ほら、出来たぞ。黒色がよく似合ってる」
「あ、ああ。ありがとう」
俺の返しに満足したのか、ダンは店主に金を払いに行ってしまった。
戻って来るまで俺は近くにあった鏡を見て、貰ったピアスの新鮮さにとても嬉しくなっていたのだった。
そしてこれも間違いなくライムに言及されるだろう事を、このときの俺は全く気がついていなかった。
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