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二章

137、誕生祭のスケジュール

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俺は昨日、イルの誕生会に出る事を決めた。
だけどあれからずっと、俺は落ち込んだままだった。
だってイルがあんな目にあったのは俺のせいだから……俺が最初から会うと決めていればこんな事にはならなかった筈なんだ。
それなのに俺はライムの誤解を解く事ばかり気にして、気がつけばウルに流されて気持ちよくなってしまった事をとても後悔していたのだ。


そんな俺は今、イルの誕生日について話し合いをするからと研究室の横にある会議室に呼ばれていた。
そして部屋に入ると既にダンとルーディア、そしてウルが座って待っていたのだ。
何故一緒の部屋にいたウルと俺が別々に来たかといえば……俺が今も怒っていたからだ。
そのせいで少し別々に行動をしていた俺は、ウルよりも遅れてこの部屋に入る事になったのだ。

なにより俺が怒っている理由は、イルを巻き込んだ事が許せなかったからなのだけど、一応ウルも反省しているのかあれ以降俺に話しかけてこなかった。
そのおかげでウルに余計な事を聞かれずに済んでいるのは良かったと思う……。
だけど今の俺は、こんな気持ちのままイルを祝いたくなんてなかった。
だから気持ちを切り替えたいのに、俺はなかなかウルへの怒りを沈める事が出来なかったのだ。

そんな訳でまだ怒っている俺は、本当ならウルの近くに座りたくなんてなかったのに、空いてる席がウルの隣しかなかったので仕方がなくそこに座っていた。
しかもメンバーは俺で最後だったのか、俺が座るのを確認したダンは立ち上がると話を始めたのだ。

「よし、全員そろったな。今日はイルの誕生会の段取りを説明する為に皆には集まってもらったんだが、まずは手元にある資料を見てほしい。まあザックリ読むだけでわかると思うが、国王の誕生祭を開催する事もあってスケジュールがかなり埋まっている」
「ただでさえこのような行事は挨拶だけでも時間がかかりますからね」
「それから他の参加メンバーだが……イルの他の兄貴達も全員揃えるつもりだ。だから今王都にいない奴らをゼントにかき集めてもらってる」

どうも最近ゼントを見ないと思ったら王都にいなかったようだ。
それなら俺はゼントが帰ってきてから、どうにか話をしに行くしかないようだ。
そう思っていると俺の横で、ウルがうんざりしながらスケジュールを読み上げ始めたのだ。

「えーっと、イルのスケジュールは。国民に向けた挨拶と、他国から来るお偉いさんへの挨拶。それから大ホールで行われるダンスパーティー。そして夜はイルの誕生日を祝う新作魔法お披露目会……なんだか盛りだくさんだね?」
「これでもイルの負担にならないようにだいぶ減らされてるんだぜ?本来なら一週間はお祭り騒ぎになる所を、今年は前国王が亡くなって1年も経ってないから控えめがいいと、イルが言いだしたからな。それで宰相をしてるイルの2番目の兄貴が、無理矢理1日に収めたらしい」

確かに1日で収めた方がイルの負担は減るし良い事だというのはわかる……だからといってイルの誕生祭を控えめにする必要があるのかと、俺は首を傾げてしまう。
だって今までの事を考えればイルはもっと盛大に祝われ、愛されるべきだ。
それに俺の知る歴代国王は新国王誕生として盛大に祝う人が多かった。だから同じようにイルも盛大に祝いたい俺は、疑問を口にしたのだ。

「このスケジュールでは逆にイルの負担になりそうだけど、日数を増やす事は出来ないのか?1週間丸々誕生祭とまでいかなくとも、1日か2日ぐらいなら日数を伸ばせる筈だ」
「残念だが、それについては俺達だって何度もイルに頼んだんだぜ?でもイルの意思は固くてな、絶対に1日でと押し切られたんだ」
「そうか……」

イルがそこまで頑なに言うのなら、仕方がない。
そのかわり来年こそ絶対にイルを盛大に祝って見せる。
俺がそう決意していると、ウルがスケジュールの紙をヒラヒラさせながら文句を言い出したのだ。

「でもさぁ、1日しかないならイルにサプライズをしかける時間もないよね?」
「ええ、そうなんです……スケジュールが整っている事は大変素晴らしいのですけど、このままでは誕生会を開く事も出来ません」

確かにこのままだと誕生会といいながら、誕生日当日に出来ない可能性がある。
だけど今まで場数をこなしている俺なら、この中でイルが抜け出せるタイミングがわかるかもしれないと、そのスケジュールを見る事にした。
その完璧に調整された予定は、宰相をしているシル兄上がとても頑張ったのだとわかる物だった。
因みにシル兄上とは元第二王子のシルリオンの事で、俺の一つ上の兄でありイルを溺愛している兄弟の一人でもあった。
だからこそ、そんな兄上がイルの休憩できる時間を作っていないわけがないと、俺は思っていたのだ。

「このスケジュールを見て一つ気がついた。国民と迎賓への挨拶は王がその場に居ないと成り立たないが、ダンスパーティーだけは貴族からの挨拶が終われば休憩を取ることが出来る筈だ」
「つまり休憩と言う体でイルを連れ出せば……」
「イルを祝う事が出来るかもしれない。それにシル兄上なら最初からその予定でスケジュールを組んでいる可能性が高い」
「よし、それならイルの2番目の兄貴のところにすぐに行って、挨拶が早く終わるように調整出来るのか話し合ってくるぜ!」

そう言うとダンはすぐにこの部屋から出て行った。
きっと今のダンは、イルを祝う事で頭がいっぱいなのだろう。
そんなダンを微笑ましく見送っている俺に、向かいで資料を片付けてるルーディアが話しかけてきたのだ。

「そういえば確認していませんでしたが、デオルライド様はイルへの誕生日プレゼントは準備されましたか?」
「いや、まだ準備していない……」
「やはりそうですよね。それなら早めにイルへの誕生日プレゼントを買いに行かれてはどうですか」
「しかし、俺はここから出ない方がいいのではないのか?」
「本来はその方がイルに会うリスクは少なくていいのですが、デオルライド様のプレゼントがあればイルも喜んでくれますからね。その為に町へと内密に出られるようこちらで手配致しますので、ウルを護衛として連れて行って下さい」

そう言われた俺は驚きながらウルを見てしまう。

「え、ウルと……?」

ウルは少し申し訳なさそうに俺を見ていた。
そんな俺達を見て、ルーディアは当たり前の疑問を口にした。

「もしかして、何か問題がありましたか?」
「いや、大丈夫だ。ウルと一緒に行く事にする」

そうは言ったものの、今の俺達は凄く気まずい。
こんな状態では楽しく買い物が出来る気がしなかった。

「デオ……俺が一緒に行くのを許してくれる?」

そんなションポリしたウルに言われたら、俺は駄目なんて言えなかった。

「今はイルの誕生日プレゼントがどうしても買いたいから、一緒に行ってくれると助かる。だけど絶対に変な事はしないでくれよ」
「ああ、勿論わかってるよ!」

とても嬉しそうに言うウルの笑顔に、俺はドキッとしてしまい首を振る。
……落ち着け俺、こうやって笑顔に騙されて簡単に絆されたら駄目だ。
それに前回決めた通り俺は嫌な事は嫌だと言った。
だけどそれだけでウルが俺を嫌いになる事はなさそうだったのだ。
その事にホッとしながらも、俺は新しいウルを知れた事が嬉しかった。

そして俺は気がついた。
例え俺の記憶が無くてもこうして新しく作っていけばいいのだと……そう思いながら俺は、少し前向きに考え初めたのだった。
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