ハイアンドアンダー

iroha

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第十一話

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「……納得いかない」
「それはこちらのセリフ! ブチハイエナの数の少なさ、分かっている? こんな可愛いコ、ハッキリ言ってオレたちの中にはいないからね」
 レグルスの一言にバルの中で憤然とした様子で言い返してきたメイオに、メイオの群れの仲間たちが口々に賛同した。メイオは自分より少し身長が高いレグルスの前で腕を組み、鋭く睨みつけている。その恰好はいつもの店員の姿ではなく、なかなか際どい格好をしていてようやくレグルスはメイオが女性だと気づいたのだ。この場にいるハイエナ族はほとんど女性だという話だが、レグルスすら見分けがつかないくらいに体躯がしっかりとしていて眼差しにも柔和なところはあまりない。そして、メイオは彼女たちを統べるリーダー……斑たちが言うところの、『女王』だった。

「斑くん、このライオン族の人に嫌気が差したらいつでもこの街に戻っておいでよ~~」
 斑と似た、笑うと少し垂れがちになる黒目をしたハイエナ族の男が酔っぱらって気が大きくなったのかメイオとレグルスのやり取りにハラハラしていた斑に思いっきり抱きついた。メイオはいら立ちを紛らわすように思いっきりその男の大きな耳を引っ張ると男が悲鳴を上げる。

「納得はいかないけど、斑があなたを選んだなら仕方ないね。斑、辛くなったらいつでも頼ってきていいのは本当だよ。オレの嫁になって」
「ありがとう、メイオ。でも、俺は男だよ」
 えへへ、と斑が笑うと先ほどまで殺伐した雰囲気が穏やかなものへと変わっていく。「そういえば」と先ほど思いっきり耳を引っ張られていたハイエナ族の男が無遠慮にレグルスに近づくとまじまじとその顔を見やった。

「どうでもいいけどさ、あんたの顔どこかで見たことあるんだよな~。ほら、俺達あんましライオン族の顔なんて覚えたりしないんだけど、あんたの顔には見覚えあるんだよ」
「そんな、顔を見たことあるなんて大貴族様じゃないんだからさ~~」
 あははは、とメイオが笑い飛ばしたところで、バルの両開きの扉が勢いよく開かれ、バルの中にいたほぼ全員が扉の方に注目した。

 そこに現れたのは一人の大柄なライオン族の男で、場が一気に緊張する。何しろ、ここはハイエナ族の根城のようなものだ。だが、ライオン族の男は「見つけた!」と大声を上げると大股で駆け寄り、レグルスの前で片膝をついた。

「探しました、レグルス様! もうとっくにエス・カマリに着いているはずなのに、連絡しても貴方が到着されていないと……必死に探しましたよ! まさかこのハイエナどもに監禁されていたのですか?!」
 男は大きな声で一気に言い終えると、ハイエナたちを睥睨するように立ち上がった……が、その耳に届いたのはレグルスの嘆息だった。

「アル、この場にいる者たちへの無礼は私が許さない。連絡ならデネボラにしている。どうせ、デネボラからの連絡を無視したか、デネボラに確認もせずに単独行動をしたのだろう?」 
 増々深くなったレグルスのため息にアル、と呼ばれたライオン族は「は?」と間抜けな声を出した。そして、その顔を見て斑は思わず声を上げていた。

「お、俺を半殺しにしたライオン族だ!!」
 声を上げた斑の顔を見て、アルも「あの時の!!!」と大声を立てたが、近寄ったレグルスから腹に膝蹴りを喰らい、あっさりと床に沈む。

「折角の場を騒がして申し訳なかった。出来が悪いが、部下の一人なんだ」
「いらないならオレたちがもらってやろうか? 骨の髄まで喰らいつくしてあげるけど」
 にやーっとハイエナたちが笑うとアルはぎょっとしたような目で自分を見下ろしてくる複数の黒い瞳を見やった。

「そうしてやりたい怒りはあるが、これにも妻たちと幼い子どもがいる。……それにしても、お前が斑を半殺しにした犯人だったのだな。後でたっぷりと事情は聴かせてもらうぞ」
 レグルスには部下なんていたんだ、あれ、でもこのライオン族は宝飾店の主で……。
 斑が目を白黒としているうちにレグルスがか細い声で助けを求めるアルの声を聞かないようにして斑を抱き上げると、そのままバルから出ていく。


「れ、レグルス、レグルスってもしかして……お医者さんじゃないの? 偉い人……だったり?」
「私が偉い訳じゃない。先祖たちが偉かっただけで、その跡を継いでいるだけだ。医師の免許は持っているから、医師というのも偽りじゃない」
 言葉を濁したレグルスに斑が不安げな視線を向けると、ようやくレグルスが立ち止まった。

「……ハイエナ族にはメイオのような『女王』がいるように、ライオン族にも『王』がいる。今はほとんど形骸化しているし、私の代で終わるだろうが」
「ライオンの王サマ?! そ、それじゃ子どもがいなきゃだめだよ! ……どうして」
 レグルスは焦り始めた斑の背中を優しくぽんぽんと叩いてからゆっくりと地に下すと、向かい合うように立つ。

「私は、家族を失った日に、もう誰とも深い関係を持つことは諦めた。家族も群れも、番とやらも。唯一、その考えを変えたのが斑だけだった」
 感情がよく現れる斑の顔が一気に赤くなったかと思うと、急にレグルスに抱き着いた。そういう動作はめずらしくて、レグルスが驚いていると、顔を真っ赤にしたまま斑が小さな声で何かを呟く。

「斑?」
「……この間来たばっかりなのに、ヒートが来たみたいになんか、身体が熱い」
 ぼそぼそとだが、何とかレグルスに聞こえるように頑張っている斑だが段々とまた声が小さくなっていく。
 その様子が愛おしくて番の証に再び口づけると、ちょっと間の抜けた斑の悲鳴が星の瞬く夜闇に溶けていくのだった。 
  
Fin.   
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みんなの感想(1件)

るか
2020.11.12 るか

このお話好きです!
とても面白かったです!

iroha
2020.11.12 iroha

るか 様

読んでくださってありがとうございました!
好きと書いて頂けてとても嬉しいです!!

解除

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