福来博士の憂鬱

九条秋来

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福来博士の憂鬱 その15 ラグーンへ

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ソフィアがマシンロボットを連れてやって来た。

ロボットが押してきたカートにはヘヤピースや化粧セットが乗っている。
「皆さん頭がさみしくなったようですから、かつらを用意しました。お好きなかつらを選んでつけてみてください」とソフィアが言った。
真っ先に反町が自分に合いそうなかつらをつかみ頭に乗せて「どう似合う?」とか言って笑っている。
そして鏡に映った自分の頭を見て満足そうな顔をした。
それから全員が自分用のかつらを探して頭に乗せて見比べあっている。

福来博士は今までの自分とは違ったかつらを選んだ。茶髪系のかつらにメッシュが入っている。
どうせかつらを付けるなら今までの自分とは違うイメージにしようと思ったからだ。

「博士、凄いイメチェンじゃないですか格好いいですよ」と反町が誉めまくった。
白ひげマスターは前と同じ白い毛のかつらをえらんでつけてみた。
頭は元通りになったがひげの無いのがさみしそうだった。
「ちゃんと付けひげもありますから、ご安心ください」とソフィアが言った。
顎全体をカバーしていた付けひげは無いが、とりあえず鼻の下を飾るような小さい付けひげにした。
まゆ毛はソフィアがそれぞれの顔に似合う、眉をメイキャップで描いてくれた。
これで全員が前の顔を取り戻した。

それから医療センターに行く事になった。

そこは人間ドックみたいなところで、各自の身体の細胞レベルまで完全に精密検査され、悪いところは完全に治療された。
そして全員に薬のカプセルを渡された。
「健康診断の結果、皆さん1人ずつに適した薬を調合しました。一日1カプセルを服用してください」
長い話しになったが、これで全員が母船の内部に入っていける事になった。

内部へのゲートが開かれ入って行くと、そこはラグーンだった。

宇宙船の内部はジャングルになっていると聞いていたが、まずはその入り口のラグーンの美しさに全員が心を奪われ感嘆の声をあげた。

ラグーンの向こう側は高い岩壁に囲まれこっち側は砂浜とヤシの木や、バナナの木やココナッツの木で囲まれている。
ラグーンの水面から自分たちを迎えるようにイルカが数匹はねあがり出した。
真っ先に反町がラグーンに向かって走り出した。
そしてラグーンに服のまま飛び込んだ。
ソフィアがラグーンのヤシの木に囲まれた奥へ全員を案内した。
そこは天然の樹木をそのまま組み合わせた大きなログハウスらしい。水が自然に流れ込む調理場らしいところがあった。
「ここでラグーンでとれた魚やヤシガニを料理して食べていただきます」とソフィアが言った。
「こりゃいいわい。わしが料理の腕を見せるチャンスがやってきたわけだ」と白ひげマスターが腕をまくって言った。


「素晴らしい。木星の衛星軌道にこんなところがあるなんて、まるで映画をみているようだ」と反町が感嘆の声をあげた。
「母船の中にこんな素晴らしいラグーンがあるとは信じられない」
「奥のほうはジャングルになっていますがまずは入り口のここラグーンでしばらく過ごしていただきます。我々もよくこのラグーンで休暇を過ごします。宇宙の仕事ばかりしているとノイローゼになるのでここで心を癒すのです」
「なるほど、それは言えるな。私も天体望遠鏡で宇宙を観察していた事があるが、ノイローゼになりかけたので止めた事がある。やはり人間にはこう言った自然が必要だと思います」と福来博士は言った。
「このラグーンは地球のあらゆるラグーンを巡ってそれを模写した人工のラグーンですが、我々はこここそ宇宙で最高のラグーンだと自負しています。いかがでしょう皆さん」

それから全員ラグーンで自立生活をする事になった。
ピノコもここが気に入ったようでヤシ見つけて追いかけ回している。
反町と星野が大きな小屋の枠組み造りにとりかかる。設計図は地面に描いた簡単な図だけ。あとは適当に想像力で造り上げていく。

丸一日かかり、小屋の大まかな枠組みが完成して食事タイムになった。
食事の材料はヤシガニや小魚、椰子のジュース、バナナ、何でもありだ。
テーブルに乗せたヤシガニの身をビノコが夢中になって美味しそうに食べる。
「どう?ピアノちゃんヤシガニは美味しいかしら?」とリルが聞いた。
「うん美味しい」とピアノがこたえた。
これには全員が驚いた。

「いまピアノちゃんがしゃべりましたよね博士?」
「確かにしゃべった。この耳で確かに聞いた」と福来博士はこたえた。
「わしも聞きました」とマスターは言った。
「環境が変わったで喋れるようになったのかもしれん」と博士は言った。
「いや環境とかの問題じゃないでしょう」と反町が言った。
「いやわからんぞ、今までは自分が猫だから喋るのを遠慮していたのかもしれん」
「それは言えますね」とソフィアが言った。「とにかく木星軌道に来たおかげでピノコちゃんが喋るよいになったのは事実です、みんなで祝ってあげてください、ねえピノコちゃん・・・」
「うん美味しい」とピノコが言った。
今んとこ美味しいだけ喋るらしい。

ラグーンでの生活は最高だった。
鮫や人間に害を与えるクラゲもいないし。
魚は釣竿やモリでいくらでも取れた。日が沈むとマスターがヤシガニや魚を料理してくれた。そして食事が終わると焚き火を囲んでウクレレを弾いてみんな適当に好きな歌を歌い出した。
ピノコも真似して何かを歌いだしたが何を歌っているかさっぱりわからないが、それを聞いてみんな拍手したりして盛り上がった。

それから大まかな枠組みが完成した小屋に各自で思いつきで自分が寝るスペースを作っていく。
「博士のスペースはかなりピカソ的なイメージになっていますね」とマスターが言った。
「どうせやるなら常識を超越した大胆な小屋にしたいからね、なんせフリンジ科学者のプライドがありますからね」
「そりゃいい。わしも負けずにゴッホハウスを目指します。どうせやるなら人生の記念になるようなのを作りますよ」
と言うわけで2人はアート感覚イメージの小屋の完成を目指した。

夜になると焚き火を囲んで釣った魚を焼いたり、ヤシガニを焼いたりして夜食パーティーが始まった。
「博士、明日はデッカイいかだを作りませんか、名前はジュピター。全員が乗れて中央には小屋を作り調理場も作り釣った魚をすぐに寿司にして食べれるような、僕は寿司アルバイトの経験があるので最高の寿司を食べさせてあげます」と反町が提案した。
「ジュピター・・・いいね。その名前に決定しよう」福来博士が賛成した。「それにこのラグーンの向こうはしの崖の下には何かがある気がする」
「何かって。なんですか?」
「いや、わからんけど・・・」
「そうですか、とにかく期待してみます」

こうして次の日に備えて全員がラグーンの波の音を聞きながら熟睡した。

反町が独り言のような寝言のようなものを言っているのが、聞こえる。
「ここは最高だ。ヤシの実もあるし、バナナやココナッツもパパイアもマンゴーもあ
る。ヤシガニは食べ放題だし、取り立ての魚で寿司も食べ放題、まさに楽園だ、もう地球の都会生活に戻りたくない」
それに答えて、やはり寝言で答える声が聞こえる。

「そうよね、一生ここでくらしたいかな・・・」
「わしもそう思う」
「楽園最高、ジュピター最高・・・」
「らくえんにゃ~ジュピターにゃ~」
これはピノコの声らしい。

「明日もよき日でありますように・・・」
「間違いなくよき日になるわよ」

「お休み」

「おやすみなさいにゃ~」

「愛してるよ」

「誰を」

もはや誰が何を言っているのかわからないが、まあいいか・・・。

そして寝言どおしの会話はしばらく止む事もなく続いた。
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