福来博士の憂鬱

九条秋来

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福来博士の憂鬱 その2 アンドロイド・リル57A

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やがて夕刻になり、アンドロイドのリルが食堂のテーブルに夜食のスープカレーを運んできた。
スープカレーの香りがふわっと鼻に染み込んでくる。


「博士の好きなスープカレーを作ってみました、召し上がってください、私が初めて作った料理なので自信はありませんが」
「ありがとう、私が自分で作る食事以外を食べるのは久しぶりだ」
「召し上がって感想を言ってください」
「君は食べないのか?」
「私はアンドロイドですから食べるシステムはありません、だからはっきり言って味がわからないので、レシピ通りに作っただけなのです」
「残念だなできれば2人で食べたかったがしかたない」
福来博士はまずスープカレーひと口をスプーンで口に入れ味わった。
「なかなかのもんだ、いや最高にうまいと言えるな」
「おほめにあずかり、ありがとうございます」とリルは言って丁寧にお辞儀した。
その姿のはどう見ても人間としか思えないので博士は感動して、時代はここまで進んでいたのか私はまるで時代遅れの浦島太郎みたいなもんだなと思った。


博士の食事が終わるとリルはそれを片付ける。
「このあと君はどうするんだ、ベッドで人間の様に眠るのか」
「人間のような眠りはありません。エネルギー節約体制に入るだけです」
「そうか、では夢なんか見ることはないわけだ。『アンドロイドはどんな夢をみるか』とかのタイトルで考えたらいい小説になるかも知れないと思ってね。気分転換で小説でも書いてみようかと思ってたんだ」
「夢とか一度体験してみたいですが無理ですねアンドロイドですから」と言って博士に手を振ってリルは自分の部屋に帰った。


さあこれからどうするか?と考えているとテレビ画面に住宅供給省の反町タカシの姿が現れた。
「福来博士、どうですか今日のその家の生活体験は?お気に召してくれましたか・・・」と反町は言った。
「ありがとう、勿論気に入りました。この家を紹介してくれて感謝感激です」
「そうですか、それは良かった。私は博士の研究の隠れファンなので嬉しい限りです。ところでアンドロイドのリル57Aは試してみましたか?」
「試すとはどういう意味なんだ?」
「リル57Aはセック○機能もあるアンドロイドです、それを試すも試さないも博士のご自由です。とりあえずそれをお知らせしておきます。お気に召さなければこのお知らせは聞かなかったことにしておいてください。なにしろセックス○機能のあるアンドロイド提供はわが省としても初めての試みなので、お聞きしておきたかったのです。それではこれで連絡を終わります」

セック○機能のあるアンドロイドとは福来博士にとって驚きだった。
そんな時代になっているとは夢にも思わなかったからだ。
しかしそれを試す機会はまず訪れないだろう。
博士の体自体がもうそんな機能を失っていたからだ。

福来博士はジャグジー付きの風呂に入り気持ちよく今日の疲れを洗い流し、寝室のベッドの柔らかい布団に潜りこんだ。 


そしてこんな夢を見た・・・


若い頃の自分が今の自分に応援している夢だ。
「若返りの研究はいいアイデアだ、やってみろよ」と若い自分は言った。
「わかったやってみるよ。駄目もとでやってみる価値はある」と博士はこたえた。
今までフリンジ科学の研究は色々やったが、若返りだけは研究したことはなかった。
しかし、いい研究材料はある、それは初老になってしまった自分自身の現在の状況だ。
もしアンドロイドのリル57Aが現れなければそんなことは思いつくはずもなかったが、もしかしてこれは神が与えてくれたチャンスかも知れないと思った。
そんな妄想にふけっている夢だった。

期待していた怪奇現象はその日は起こらずだった・・・


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