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マルクトール王国編
134話 主人公、結論を出すー2
しおりを挟む「他に情報はある?」
アランがみんなの顔を見て、発言をうながす。
「エレーナ、あれはみんなも知っておいた方がいいと思うんだけど。」
僕はエレーナに、ヤスナの事情のことをみんなに言ってもいいか確認する。
「タクミ。そういうことなら、チカゲに直接聞いた方がいいと思う。これは重要なことだから、憶測で話をしてはいけないわ。」
「そうだね。じゃあ、僕がチカゲを呼んでくるよ」と言おうとするが、ミライが即座に動く。
「チカゲ呼んでくるね~。」
それを見たアランが、感心したようにつぶやく。
「タクミが言わなくても、ミライは動いてくれるんだね。絆ができているってこういうことなんだ…。」
ミライはすぐ戻って来た。
「タクミ!チカゲ、すぐそこにいたよ!」
チカゲが丁寧に頭を下げる。
「何かご用ですか?」
「チカゲ。確認したいことがあるの。ヤスナのことだけど。ヤスナは脳の寿命で長くは生きられない。そうよね?」
エレーナがズバリと聞く。
聞かれたチカゲは、悲しそうに答える。
「その通りです。症状を抑える薬を飲んでいますが、もうあまり時間はありません。」
脳の寿命ということに、みんなが衝撃を受けている。
「この世界では、老衰以外の死因の人はとても珍しいわ。ヤスナは相当なストレスを抱えていたのね…。」
「はい。チカゲはこの街のことで常に悩んでいました。それがストレスとなっていたのです。」
「おい!精霊はストレスを無くすためにいるんだろ!お前はナニやってたんだよ!」
ショウゴがチカゲに怒鳴る。
「ヤスナにとって、この街は悩みの種ですが、それ以上に心からこの街を愛しています。だから、この街から離れる選択はできなかった。」
「ショウゴ。そういう生き方を選択する人もいるんだよ。」
僕はショウゴの目を見て、話す。
まだ若い君には分からないかもしれないけどね。
「ショウゴには、まだまだ経験が足りないの。いろいろな価値観を受け入れるのは、この世界のルールなの。」
タツノオトシゴくんがショウゴに言い聞かせる。
「そういう理由があるなら、できるだけヤスナの希望通り、街も残せる方法を考えましょ!」
シェラが仕方ないわねという顔をしながら、言う。
「シェラ、いいのかい?」
「アラン。私、自分のことしか考えてなかった。エスティオなんて、適当にこなせばいいと思ってた。でも『それじゃダメだ、そんな考えのままじゃ大人にはなれない』って、パートナーに言われたわ。そうよね。私達、もうすぐ成人なんだもの。大人にならなくちゃね。お互いに譲り合うのが大人なんでしょ?私も譲るわよ。」
シェラも自分の精霊と良く話せたようだ。
「よし!じゃあ、みんなの考えをまとめるよ。できるだけヤスナの希望通りにすることで異論はないね。」
ショウゴ以外のみんなが、大きくうなずく。ショウゴはパートナーに突かれて、慌てて首を振る。
「この街を残すためには、誰か住んでくれる人が必要だ。そのためには、フロムとエレーナの案が有効だね。職人の街にするか、学問都市にするか…。」
「もう私はその考えにこだわってないわ。それより、ヤスナの後に神官になってくれる人を探して、その人に任せた方がいいと思うの。シェラの言ってたように、その人が王宮の人なら安心なんだけどね。」
「私もフロムと同じよ。職人の街か学問都市かは、その人に決めてもらうのがいいと思う。もちろん、その人に別の案があればそれでもいいわ。この街が存続できるなら。」
「フロムもエレーナもそれでいいんだね?シェラとタツコもいいかい?」
「うん。ワタシは元々この街も残せるなら、それがいいかなぁと思ってたし。問題ないよぉ。」
タツコも賛成している。
「ショウゴもいいね?」
「オレは別になんでもいいんだよ。無くすのが一番シンプルだと思ったから、そう主張してただけだよ。」
「チカゲ。ボク達はヤスナの後に神官を務めてくれる人を探して、その人にこの街と神殿の存続を頼もうと思う。だから、その人がこの街特有のルールを無くしたいって言った時は、それを受け入れてほしいんだ。いいかな?」
アランがチカゲに確認をとる。
さすがアランだ。細かいところにも気を配っている。
「はい。私とヤスナは覚悟ができています。それに…。譲り合えるのが大人ですからね。」
チカゲがシェラを見ながら、ニッコリ笑う。
「私とヤスナにとって、この街と神殿の存続が一番です。それが出来るのなら、ルールを無くすことは些細なことです。それに、ルールは生きている人のためのものです。誰もいなくなったこの街のルールは、無くなるのが普通ですからね。」
「ありがとう、チカゲ。じゃあ、タクミが提案してくれた案でいこうと思う。ヤスナの後に神官をしてくれる人を探そう。フロムが見つけてくれた人にお願いしてみようか?」
「でも、いきなりそんな話をしても、引き受けてくれる人なんかいないと思うけど。」
シェラの指摘にアランも同意する。
「そうだよなぁ。困ったね。」
「あのさ。ちょっと聞いてもいい?背中に綺麗な羽を持った人を知っているんだけど、その人ってテングの血を引いてるのかな?」
僕の脈絡のない言葉にアランは一瞬ポカンとなるが、丁寧に返事をしてくれる。
「その可能性はあるね。羽を持つ種族は多いけど、テングの血を引いてる人は、羽の特徴が強く出る傾向があるそうだよ。」
ってことは…。可能性はある。
ブツブツ言いはじめた僕に、ミライが声をかける。
「タクミ?何か思いついたの?」
「うん。もしかしたら、早く解決するかも…。」
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