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マルクトール王国編
123話 主人公、考える
しおりを挟む「都市構築研究家とは、街の構造を研究する仕事です。どのような街が人々にとって暮らしやすい街なのか、ヤスナはそれを考察した成果を公開しています。都市を研究するヤスナにとって、1500年続いてきたザンザーラはまさに夢のような場所でした。だから、母親から神官を引き継いだのです。」
「暮らしやすい街を研究してるくせに、この街には誰も住んでないって、おかしな話だな!」
今まで黙っていたショウゴが、茶化すように発言する。
「そうです。ヤスナが本当に困っているのはそれです。膨大な他の都市の例から、こういう街にしたら良いのでは、という提案をしたこともあったのですが、いざ実行しようとすると、このザンザーラでは上手くいきませんでした。」
考察と実践は違うってヤツだな。
「歴史あるところって、独特の慣習があってなかなか変えられないから、大変だったと思う。でもそれを変えていかないと、生き残れないよ。」
「お前、なかなか良いこと言うな!」
僕の言葉にショウゴが同意してくれる。
「その通りです。でも、じつは最後までここに住んでいたのは、この街の決まりを守っている人々でした。彼らはこの決まりが良いと言って、長く住んでくれていました。そんな彼らも老衰で亡くなりましたが。」
この街に住んでいた人は、この独特のルールが良いと言っていた。しかも長く住んでくれていた。それを知っているヤスナは、この独特のルールを変えるのが良いことなのか、分からなくなってしまったのだろう。
でも、この独特のルールがあるせいで、人が定住しないのも事実だ。
これは難しい問題だぞ!
これを解決するの?
成人前の子供達と僕で?
できるのか?
考え込んで黙ってしまった僕達に、リオンとシオンが助け舟を出す。
「はいはーい。聞きたいことは、聞けたかな?」
「このヤスナの悩みを解決するのは、ここにいる7人だよ。全員で答えを出すんだ。」
「それまでは、ここで生活するよ。チカゲ、どの家でも良いの?」
「はい。この街の家はヤスナが定期的に補修していますから、どこでも居住可能です。好きな家を選んで、中を整えて住んでください。」
「と言うことで、各自好きな所に住んでいいよ。で、明日から本格的に解決に向けて動いてね。」
「明日の朝10時に神殿の前に集合だよ。そこで各自の考えを聞くから、今日は良く考えるように。じゃあ、解散!」
リオンとシオンの言葉で、僕達は解散した。
が、その場を離れようとしている僕達に、シオンが声をかける。
「あっ、そうそう。情報が必要な人は僕達かチカゲに聞いてね。」
わざわざ言うなんて…。何かあるのかな?
疑問に思ったが、僕はそのままその場を離れる。
他のみんなも各自で住む家を決めるようだ。
今回は僕は参加者だからね。リオンとシオンと同行することはできない。
エレーナも1人で行動するみたいだし。
この世界の子供達はたくましいな。1人で行動することが普通になってる。これが日本だったら、何人かでグループができて、同じ行動をするのだろう。
「タクミ、何か心配事?」
黙って歩く僕に、ミライが話しかけてくる。
あぁ、そうか!
この世界にはパートナー精霊がいるからだ。だからグループを作る子がいないんだ。
僕は昔から1人でいることが多かったから、グループを作る子達の考えはよくわからない。でもいつも疑問に思っていた。グループって、グループの中の子の考えに同調しないといけない雰囲気があるよね?それって、どうなの?
何か悪い事をする子達って、多くがグループだよな。たくさん集まると、悪い事でもノリでしてしまうのかな。
でも、この世界には他の子に流されて悪い事をする子はいない。だって、パートナー精霊がいるからね。
この世界の方が僕は好きだな。
僕はミライをジッと見る。
キョトンとした顔で僕を見てくるミライに、返事をする。
「なんでもないよ。それより、どこに住む?」
「ミライはね。神殿が見えるところがいいな。あの神殿いいよね。厳かな雰囲気が好きだな!」
「おっ、ミライも?僕もそうだよ。なんだか安心するんだよね。神社に似てるからかな。」
「神社?」
「日本にあるんだよ。いつか一緒に行こうね。」
「あい!」
ミライが嬉しそうに返事をする。
僕達は神殿が見える場所にある日本家屋のような一軒家に決めて、内装を整える。
何もなかった部屋の中が、快適な空間に変わる。
いつ見ても不思議な光景だな。
紋章システムって万能過ぎて、少し怖い。
もし、これが使えなくなったら?
この世界はどうなってしまうのだろう?
「さぁ、部屋が出来たよ!タクミ、この問題はどうやって解決する?」
「んーっ、難しいよね。この問題。」
「そうだね。ヤスナのお願いって無茶だよね。この街の独特のルールは無くしたくないけど、住んでくれる人が増えて欲しいんでしょ?無理だよ、それ。」
「だよな。この都市を残したいなら、住む人が増えないとダメなんだよね?」
「そうだよ。紋章システムは生きてる人が快適に過ごすための道具だからね。誰も住まなくなった都市のお世話はできないよ。」
じゃあやっぱり、この都市を残すには、住んでくれる人が増えるような方策を考えないと。
僕はその日の夜遅くまで、人を増やす方法を考えたのだった。
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