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グランエアド王国編
107話 主人公、公開するとは?を学ぶー2
しおりを挟む「紋章システムを作った初代王はね。このシステムを使用する人達には、"寛容"になってほしいって言ってたらしいよ。」
「寛容?」
「自分とは異なる意見や価値観を受け入れるってことだよ。500年前は戦争が多かったって聞いたよね?」
「セシルさまは、だから紋章システムを開発したって言ってたけど。」
「その頃は、異種族間で戦争するのが多かった。ヒト種と獣人種、ある特定の思想を信奉する人とそうではない人。つまり、異なる意見や価値観の人達同士で戦争をしてたんだ。」
「えっ?そうなの?でも今のこの世界は混血ばかりだって聞いたよ。」
「うん。紋章システムが出来てから、両親が子供を養う必要は無くなった。国が衣食住を保障することで、両親の庇護が必要無いようにしたんだ。そして初代王は、色々な種族の子供達を集めてホームとファミリアを作った。ここに住んでる全員は家族なんだから、仲良くしろよって言って。」
「そうです。子供の頃から様々な種族の者同士で暮らすことによって、偏見や無理解は無くなりました。これにより、異種族間の子供が増え、混血ばかりになったのです。」
「昔、セシルに聞いた事があるんだ。どうしてファミリアを作ったのかって。『この世界に生きる者は、すべて同じだ。違いなんか無いんだから、戦争するより一緒に仲良く暮らせばいいんだ』って言ってたよ。」
「争いは、価値観の違いと無理解によって起こりますからね。」
「紋章システムで創作として公開されているものの中には、色々な作品がある。それこそ、見ただけで気分が悪くなるような作品もね。でも、それを良いって言う人もいるかもしれないし、そんな感情を揺さぶることができる作品を創作できるっていうのは、ある種の才能だと思う。ボクは、グロいの苦手だから、まったく理解できないけど。」
「こういう行為も世の中にはあるのかもしれない、こんな人もいるかもしれない、いや、こんな人はいたら困るな、などと色々想像しながら作品をつくるのが創作です。自分は、創作で猟奇的なものを書いていますが、じつは戦争中に実際に行われた拷問の方が残虐なんですよ。」
中世ヨーロッパ、魔女狩りの時代には様々な拷問器具が開発されたって本で読んだことがある。それこそ、どうやって使うんだよ!って思う道具で残虐な行為が実際におこなわれていたという。
「そう。『本のせいで悪いことをしたのだから、そういう本は無くしてしまえ』っていう主張は大間違いだよ。結局、それを読んだ人の心の問題だ。本を読んでなくても、悪いことをする人はいるんだから。」
「アースにも似たような言葉があります。『本を焼く者は、やがて人間も焼くようになる』と。」
「この世界で創作が限りなく自由なのは、そういう考えもあるんだなっていう寛容さを学ぶためだとボクは思ってる。自由であるはずの創作に、この作品はダメだ公開するなって主張する人は、やがてこんな作品を作ったこの人はダメだ、と人間を攻撃するようになる。」
「寛容さの無い人は、どんどん他人を攻撃するようになります。
そして、誰からも自分を認めてもらえない人も、他人を攻撃するようになります。」
ホンファもそんな気持ちで批評を書いてしまったのだろうか。でもたしかに、誰からも認めてもらえないのは悲しいし、暴力的な気持ちになることもあるかもしれない。
「でも、この世界にはパートナー精霊がいる。他人から認めてもらえなくても、パートナー精霊は常に見てくれていて、認めてくれる。だから、頑張れるんだ。
みんながうらやましいよ。ボクには、精霊がいないからね。」
「エア様には、王宮に仕える皆がいますよ。1人ではありません。」
「そうだね。」
エアは一瞬、悲しそうな顔をしたが、すぐに表情を変え、話を続ける。
「ホンファに足りなかったのは、寛容だよ。世界には色々な人がいることが分かれば、あのおっさんの意見なんか聞き流せるようになる。そして、パートナー精霊だけは自分を認めてくれるって、心から理解できたら、もっと良いものが書けるようになると思うよ。だからジークは、ホンファには経験が足りないって言ったんだ。」
なるほどね。
「タクミ。この世界の創作が自由でいられるのは、パートナー精霊がいるからだってことが、理解できた?」
「うん。人には感情があるから、感情に任せて行動してしまうこともある。その状態で公開するって、とても怖いことだ。でもこの世界では、自分でも止められないものをパートナー精霊が補ってくれる。だから、自由でいられるってことだね?」
「そうだよ。この世界の自由は、秩序のある自由だ。ボクから見たら、アースは無秩序な自由の状態だ。特にネットに関しては、誰も止める者がいないだろ?自由だからって、何をしてもいいわけじゃない。
アースには、パートナー精霊がいないからね。公開する怖さも知らずに無責任に匿名で意見を言う人も多いだろう。特定の個人に対して匿名で意見を言える状態が変なんだよ。何か言いたいなら、こちらも実名を晒すべきだ。もっと、言葉に責任を持つべきなんだよ。大人ならね。それに、子供が自由に書き込みできる状態も変だよ。エレメンテではあり得ないことだ。」
「この世界では、成人までの試用期間に言葉の重みを叩き込まれます。一度口から出た言葉は取り消せません。暴言は、言った方は忘れていても、言われた方は忘れません。
この世界の争いは当人同士で解決するのが普通です。そのため、パートナー精霊に記録機能がある。記録されていると知っているので、不用意な発言はしません。」
「でも、それって監視社会ってヤツじゃ?」
「それは、自分ではない誰かにされているからそう感じるのです。この世界では、それぞれの精霊が記録しています。自分ことを一番に考えてくれるパートナー精霊が記録してくれているのですよ。これほど安心できるものはありません。」
「そうか。いま日本でも何かあった時のために、ドライブレコーダーを付ける人が増えてるって聞いたことがある。どこかの監視カメラをアテにするより、何かあった時のために自分で記録してた方が安心だ。」
「そうだよ。だから、この世界には警察や裁判所は無い。自分が何をしたかなんて、自分が一番知っているだろ?もし、何かの病気で正常な判断ができない状態になったとしても、パートナー精霊が止めてくれる。この世界は、それで成り立っているんだよ。」
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