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セシリア王国編

48話 主人公、呪われし者の真実を聞く

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 あれから、僕達はフラルアルド王国の王宮に滞在していた。

 王様を失った王宮はひっそりとしている。アルド王に仕えていた人達は、王代理を含めた2、3人を残して、後はこの王宮を去ると言う。

『元々、王に仕えていると言っても特にやることはないからのぅ。皆、自分の仕事の合間に、王の話し相手をしているようなものじゃよ。どこの王宮もそんな感じだ。』

 セシルはそう言っていたが、去っていく人達はみんな、すごく悲しそうだ。本当にアルド王のことが好きだったんだろう。とても好かれていた王様だったんだな。

 儀式が終わった後、セシルに連れられて、このフラルアルド王国に来た僕は、王宮の一室にいた。リオンとシオンはいない。王宮を覆うように結界が張ってあるので、王宮にいる間は、一人になっても大丈夫だと教えてもらう。
 そういえば、ガンガルシア王国でドラゴンに変現した時、上空に壁があったな。あれが結界だったんだ。

 セシルと僕しかいない部屋で、セシルが口を開く。

「呪われし者は、ただ紋章システムが使えないだけの存在ではないのじゃ。田中には、そのうち話そうと思うておったが、アルドの事があったのでな。説明より先に、見ることになってしまったな。」

「呪われし者って一体、どういう存在なんですか?」
 僕はズバリと聞く。もし、自分にも同じような事が起こるなら、聞かない訳にはいかない。

「呪われし者は、その名の通り、大いなる呪いの影響を受けた者のことじゃ。素晴らしい才能を授かっているが、大いなる呪いも受けている。その者が、グールに取り憑かれた時には、普通の人以上の怪異となるのじゃ。世界を滅ぼすために。

 田中は、ドゥイガーン王国の話を聞いたな。じつはそのドゥイガーン王国に現れた怪異は、この呪われし者だったのじゃ。

 呪われし者が必ず怪異になる訳ではない。普通に天寿を全うすることもある。ただ、何がキッカケとなって、怪異になるのかは分からない。双子に魔が差す瞬間の話を聞いたな。呪われし者にその瞬間が訪れた時、世界を滅ぼす怪異となるのじゃ。

 田中に結界を渡したのは、お主を守るためではない。お主を閉じ込めるためのものじゃよ。我ら王は、皆、同じ結界を身に付けておる。

 呪われし者である我ら王は、常に怪異となる恐怖と戦っておる。そして王に仕える者は、王が怪異になった時に討伐する役目もあるのじゃ。」

「それじゃ、王宮に仕える者は、武力もないといけないって言っていたのは…。」

「そうじゃよ。アースのグールを散らすためでも、王を守るためでもない。王が怪異となった時に王を討伐するために、武力が必要なのじゃ。」

 そんな……。
 王宮に仕えている人達は、みんなそれを承知で王の側にいるってことか?

「じゃあ、今回の儀式は何?」

「アルドは一年前に、最愛の妻であるファラを亡くしておる。アルドには自覚があったのじゃよ。自分がそのうち、怪異になると。

 王に仕えている者が気付く場合もある。アースでグール狩りをするのは、グールの気配を覚えさせるためだ。王に仕えている者は、王に異変を感じたら、進言するのじゃ。返還の儀をしましょうと。」

「返還の儀?」

「田中が今日見た儀式のことじゃ。ガンガルシアで、ガルシアが紋章システムに似た力を使っていたのを覚えているか?」

「そういえば、自分の国にいる時は、王の力が使えるって言ってましたね。」

「紋章システムに似た力はな。その国の守護精霊と特別に契約しておるからじゃ。紋章システムのような力を授かる代わりに、最期はその身を捧げるという契約なのだよ。

 アルドは、ファラを亡くして一年後の今日に、返還の儀をすることを自分で決めておったのだろう。」

 セシルは淡々と話を続ける。

「天寿を全うした王の返還の儀は、ひっそりと行われる。王の亡骸を祭壇に捧げて、守護精霊が出現するのを待つだけじゃ。

 しかし、今回のような場合は、すべての王と側近が集まる。怪異となる姿を見せて、王という呪われし存在はいつかこうなるのだ、と分からせるために。

 呪われし者は、言うなれば生贄のようなものじゃ。怪異が現れない時期が長ければ長いほど、次に発生する怪異は、巨大で強大なものとなることが分かっておる。だから、自覚のある王は自らが怪異となり、次の怪異が強大にならぬようにするのじゃ。

 アルドの前に怪異となって返還の儀を行なった王は、二代前のマルクトール王じゃよ。」

 モイラさんから、トール様って呼ばれてた顔色の悪い男の人?

「そのトールは、身体が弱くてな。病気で長くは生きられぬと知っておったのじゃよ。病気で死ぬくらいなら、怪異となって、皆の役に立ちたいと言っておった。」

「でも、グールは心が弱ってる人に取り憑くのでしょう?」

「そうじゃ。アルドは、最愛の妻を亡くして自らも死んでしまいたいくらい悲しんだ。先先代のトールは、病気で心が弱っておった。まだやりたい事はいっぱいあるのに、どうして自分が病気になるのだ、と。」

「じゃあ、僕もいつかそうなるかもしれないんだね。」

 僕の言葉に、セシルは僕をジッと見る。

「呪われし者が同時に存在するのは、必ず7人なのじゃ。これはわれが紋章システムを開発してから、500年間そうだったからな。間違いない。だから、田中が呪われし者である可能性は少ない、と我は思うのじゃ。しかし、お主はドラゴン。今までドラゴンに紋章を授けたことは無いからのぅ。もしかしたら、それが原因なのかもしれないが。

 これまでにも、数は少ないが、紋章を授かれない者がいたのじゃ。紋章システムは、万能という訳ではないからな。その者達には様々な理由があったのじゃが、原因が見つかった者は、紋章を授かることができた。だから田中も、原因さえ分かれば紋章を授かることができるはずじゃ。」

「原因が分からなかった人はどうなったんです?」

 セシルが一瞬、黙る。そして、「怪異となって、討伐された者もいた。」と、真実を告げる。

「皆が持っている便利な紋章が無いというのは、相当堪えるらしい。どうして、自分だけがこんな苦労をしなくてはいけないのだ、と精神を病む者もいた。」

 そうか。紋章が無いってことは、自分だけ仲間外れにされてるようなものなんだ。それはツライな。僕もそう思う日がくるかもしれない。僕が危険な存在であるのには、違いないんだ。ドラゴンは精神耐性が高いらしいけど、僕は元々、そんなに我慢強くない。

「田中よ。それでじゃな。」とセシルが言葉を続けようとすると、誰かが声をかけてくる。

「セシルさまよ。その小僧を俺に預けてみないか?」
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