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セシリア王国編

47話 主人公、呪われし者の真実を知る

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 それは、唐突な知らせだった。
 フラルアルド王国に急いで来るように、とセシルから連絡がきたのだ。

 紋章システムでの連絡は、精霊が全て管理している。誰からの連絡なのか、急いでいるのか、それを全て把握して、伝えてくれる。

 アースで使っていたメールのようなものだろうか?いや、それ以上に便利なものだ。前にセシルが、精霊は秘書とか執事みたいなものじゃ!って言ってたけど、正にそんな感じだ。

 僕はリオンとシオンに、フードがついた謎のマントを被せられた。これが正装だから、と元気がない声で言う。

 どうしたんだろう?いつも元気な2人の様子が少し変だ。そんな2人の雰囲気に、詳しいことも聞けず、僕は素直に2人の後をついて行った。



 フラルアルド王国には、扉を通って行くらしい。他国なので、一度王宮に向かう。王宮の地下には、他国への直通扉があるようだ。

 王宮の地下では、ローグが待っていた。双子と同じように、様子が変だ。全身からピリピリした雰囲気が出ている。

「セシルさまとエルとトール様は、もう出発されました。向こうで、あなた達の到着を待っています。私は、王宮に残りますので。」

「「わかった。王宮のことは任せたよ。」」

「はい、お任せください。」

 ローグが双子に敬意を払っているのが分かる。リオンとシオンの方が王宮歴が長いからだな。普段、ふざけてばかりだから忘れてしまいがちだけど、2人は僕より遥かに年上だ。いろいろな経験も豊富なんだろうな。

 フラルアルド王国への扉を通ると、セシリア王国と同じような部屋に出る。待っていたのは、同じようなフードを被った人物だった。その人物の案内で、違う扉を開けると、異様な臭いと熱気が襲ってくる。

 目の前には、溶岩地帯が広がっていた。奥に見える山は火山のようだ。セシリア王国で紋章の儀に参加したときのような、祭壇がある。

 双子は無言で、祭壇に近づく。双子の後を追いながら、僕は扉を開ける時に言われたことを思い出していた。

『この先は言葉を発してはいけない。何があっても、声を出さないように。そして目を逸らさず、最後まで見て』と。


 祭壇の中心には、男の人が立っていた。かなりの高齢のようだ。

 祭壇から少し離れた周りには、同じようなフードを被った人達が集まっている。

 何がはじまるんだ?何かの儀式だろうか?

 祭壇に近づくと、フードを被った人物の一人がセシルだと分かる。

 他の人物達は、誰一人動こうとしない中で、セシルだけがさらに祭壇に近づいていく。

 すると、祭壇の中心にいる人物がセシルに声をかける。

「セシルか。わしはダメだったよ。やはり、アイツがいないと自分を保っていられなかった。アイツが儂の精霊だったんだよ。」

「ファラが亡くなってから、一年になるかのぅ。アルドとファラは、良い夫婦じゃった。今のエレメンテで、夫婦として一生を添い遂げる者達は、限りなく少ない。お主達は、最高の夫婦だ。」

「そうだな。ファラは最高の妻だ。そして、儂は最後まで、《強欲》のアルドだったよ。愛する人が居ないことを受け入れられない。この心は変えようがないのだ。だから、最後に役に立ってから、逝こうと思う。後の事は頼んだぞ。セシル。」

「わかった。後はわれに任せて、アルドはゆっくり眠るのじゃ。きっと、ファラも寄り添ってくれると思うぞ。」

「あぁ、そうだな。」
 祭壇の男性は、嬉しそうに微笑んだ。

 セシルが祭壇から、離れる。

 そして、それは始まった。


 男性の周りに、黒いモヤが集まってくる。

 まさか!あれは、グール!
 エレメンテではもう、取り憑かれる人はほとんどいないと言っていたのに!

 グールは男性を覆う。どんどん集まってきて、男性の姿がモヤに覆われ、見えなくなる。

 黒い塊となった男性から、ぐあぁーっという不気味な声が聞こえてくる。

 あの人はグールに取り憑かれているんだ!助けなくちゃ!
 でも誰も動こうとしない。僕は、訴えかけるようにリオンとシオンを見ると、二人は黙って首を振る。

 なんで助けないんだよ! 
 セシルさま!

 セシルを見ると、哀しそうに祭壇を見ている。タクミの視線に気付くが、やはりセシルも首を振る。

 これを黙って見ていろってことか?

 苦しそうな声が響く。それと同時に黒い塊がどんどん大きくなっていき、巨大な何かが現れるのが見えた。

 あれは!ライオン?!
 いや、違う。尻尾に蛇の頭が見える。背中には、コウモリのような羽もある。
 キメラ(合成獣)か?

 ファンタジーには詳しくない僕だが、それくらいの知識はある。

 そんな化け物が、祭壇の上に現れて、暴れようとしている。

 セシルにアルドと呼ばれていた男性が変異した姿。グールに取り憑かれた者の成れの果て、あれが怪異と呼ばれるものなのか?

 化け物は祭壇の上で吠える。不気味な咆哮だ。そして、巨大な爪で、祭壇の近くにいる僕達を襲おうとする。

 が、ガキンッと爪が何かに弾かれる音がした。

 祭壇を覆うように壁がある。アースで見た結界と同じもの?

 化け物は結界の中で激しく暴れる。しかし、結界はビクともしない。そして、化け物を包むように結界の球が縮んでいくのが、感じられた。

 化け物の咆哮が聞こえる。
 哀しそうな声に聞こえるのは、気のせいだろうか。

 そして、結界の球は祭壇の上で、化け物を包んだまま、どんどん小さくなり、最後には手の平くらいの大きさになった。

 すると、祭壇に若い男性が現れる。
 姿が透けている。セシリア王国で見た大樹の化身みたいな存在か?

 炎のような赤い髪をした男性は、その球を大事そうに胸に抱くと、球と共に姿を消す。

 そして、祭壇には静寂だけが残った。



 一部始終を見届けたフードを被った一団は、個々に帰っていく。
 チラリと見えた顔には、見覚えがあった。
 ガルシア様、イリス様だ。でも一人ではない。お供のような人達が一緒だ。王宮に仕えている人達だろうか?

 朔夜と音都羽とカシムらしき人もいた。
 でも誰一人、言葉を交わそうともせず、無言で去っていく。

 そして、最後に残った僕達、いや、僕に向かって、セシルが口を開く。

「田中よ。これが呪われし者の最期じゃ。」と。
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