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ガンガルシア王国編

セシルさまのお悩み相談室【本日のお題 闘争心】

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タクミ
 今日のお題は、『闘争心』です。ガンガルシアの人々はとても好戦的でした。結局、人の世界から戦いを無くすことは不可能なんですか?

セシル
 闘争心とは、誰かと戦って何かを勝ち取りたいと思う気持ちのこと。それは人の正常な感情じゃからな。それを無くすことはできない。

タクミ
 だから、ガンガルシア王国を作ったのですね?

セシル
 そうじゃ。どの種族にも、闘争心が強い者がいる。物理的暴力以外での闘争なら問題ないのだが、中には暴力でしか自分を表現できない者もいるのじゃ。何かを破壊したいという衝動に囚われる者、自己の強さを極めようとする者、彼らの心を満足させるための国が、このガンガルシアじゃ。

タクミ
 満足してるのでしょうね。ガンガルシアで会った人々は、みんな少し変わっていたけど、楽しそうでした。戦いはあるけど、ガンガルシアは平和でしたよ。

セシル
 平和とは、戦争や内乱で社会が混乱した状態ではないこと。たしかに、ガンガルシアは混乱もしていないし、困っている人々はいないから、戦いはあるけど平和ということになる。

タクミ
 アースでは考えられないことです。

セシル
 アースでは、人々の闘争心を発散させるためにスポーツがある。国際大会は、代理戦争だと主張する人がいるくらいじゃ。

タクミ
 スポーツが戦争の代わりになるのなら、その方が平和的で良いですね。

セシル
 本当にそう思うか?スポーツでも、勝つために薬物を使用したり、競技ルールを改正したりなど、いろいろ問題はあるぞ?

タクミ
 本当の戦争をするよりは、いいですよ。この世界でもスポーツで発散させれば良かったのでは?

セシル
 それは無理じゃ。ガンガルシアに来る者は、闘争心が強い者も多いが、ルールを守れない者、ルールを守らない者、自分ルールがある者、そういうヤツラも多いのじゃよ。

タクミ
 ルールがハッキリとあるスポーツは無理ってことですね?

セシル
 そうじゃ。だから、ガンガルシアは無秩序じゃ。無秩序がルールなのじゃよ。

タクミ
 んっ?でも、討伐は先に攻撃したチームが優先だ、とか。怪異に遭遇したら、王宮に連絡をするっていうルールがありますね?

セシル
 それはルールではなくて、暗黙の了解なのじゃよ。歴代のガンガルシアの王と国民達で、そうしたいと決めたから、そうなっただけじゃ。昔はトドメをさしたチームが倒したことになっていたからのぅ。最後だけ現れるチームも多かった。それではダメだと主張するヤツラが多かっだから、今の暗黙の了解ができたのじゃよ。

タクミ
 へぇ、国民の意見を聞くなんて、ガンガルシアは意外と民主的なんですね。

セシル
 いや、ガンガルシアは強い者がルールを作る。ガンガルシアでは年に一度、武闘大会が開催される。そこで優勝したヤツの意見が尊重されるのじゃ。今年の優勝者であるサーシャは、己の強さを極めようとしている者。だから、トドメをさしただけで討伐したことになる、なんてルールには反対なのじゃよ。

タクミ
 なるほど。だから、先に攻撃したチームが優先という暗黙の了解に従っているんですね。

セシル
 そうじゃよ。ガンガルシアでは、強い者の言うことを聞くのが普通になっておる。だから、武闘大会で優勝したヤツ、ランキング上位のヤツラの意見は尊重される。

タクミ
 それで成り立っているのもスゴいですね。

セシル
『揉め事は拳で語り合う』ってのも、昔のガンガルシアのヤツラが決めたことじゃよ。まぁ、ガンガルシアの国土は広い。それぞれの地域によって、ご当地ルールがある場所もある。

タクミ
 地方によって、ルールがあるのですか?

セシル
 ガンガルシアだけではない。この世界のそれぞれの国には、ご当地ルールがあるぞ。そこに暮らす人々が自分達で決めたことじゃよ。

タクミ
 地方自治みたいなものですね。

セシル
 この世界の人々は、どこでも生きていくことができる。自分に合う場所が見つかるまで、探すことも可能だ。

タクミ
 日本では考えられないことですよ。仕事や家族の都合とか周りの環境とかで、自分の好きな場所に住める人なんて、ほとんどいないです。

セシル
 そうじゃな。静かな暮らしを求めて山奥に引っ越したけど、買い物は大変だし、病院は無いし、結局街中に戻る人も多いらしいのぅ。
 でもこの世界には紋章システムがあるから、そんなことは絶対ない。紋章システムから、なんでも出せるし、パートナー精霊が使用者の健康状態も管理してくれているから、病院なんか必要ない。どこでも暮らせるのが、この世界じゃよ。

タクミ
 どこでも生きていけるから、自分に合わない場所で生活している人はいないってことだね?なのに、腕力による上下関係で下にいる人はどういう感覚なんだろう?

セシル
 強いヤツに付き従うのが好きなヤツもいるってことじゃ。

タクミ
 兄貴と子分みたいな?

セシル
 ふふっ!タクミの例えは面白いのぅ。でも、そういう感覚なのだろうな。この世界では、イヤだと思っていることをする人はいない。

タクミ
 どんな人でも自分らしく生きられる世界ってことだね!

セシル
 そうじゃよ。呪いであるグールから人々を守るためには、そういう世界にするしか無かったからのぅ。ストレス無く、自由に暮らすための道具が紋章システムじゃ。

タクミ
 今の日本は、便利で平和な国ですけど、それでも馴染めない人はいます。闘争心が強くても、集団生活が出来なくても、病弱でも、障害があっても、どんな人でも自分らしく生きられる。そんな世界は素晴らしいです。

セシル
 誰かがそういう国にしたいと思ったから、今の日本になっておる。こういう国になってほしいと思っていることがあるなら、自分にできることをやればいいのじゃよ。思っているだけでは変わらない。行動することじゃ。

タクミ
 そうですね。僕もアースのために、何かできることをしたいと思います。本日はありがとうございました。セシルさまのお悩み相談室もこれで終了です。悩みがある時は、今後はこっそり相談しますね。

セシル
 10歳の子供に相談するなんて、恥ずかしくないのかしら?でも仕方ないから、また相談にのってあげる。じゃ、私、帰るね!バイバイ!

タクミ
(はぁ。最近のセシルさまは、二重人格のように見えるから扱いに困るよ。でも、子供らしい笑顔ができるようになって、良かった。これからどんな風に成長するか楽しみだ!)

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みんなの感想(1件)

saisuta1103
2023.02.15 saisuta1103

面白く読ませていただいています。まだ最初の方なのであれなんですが、エルの主人公に対する態度がトゲトゲしすぎてしんどいです。優しい世界と謳っているだけに、目立つ気我します。ドラゴンに対するなにかトラウマでもあるんでしょうか?主人公がハチャメチャな性格ならまだ警戒するのは分かるんですが、私的にはめちゃ好感もてる主人公なので…。いちいちつっかかるなよと思ってしまいました。お話の展開はとても興味深く、丁寧に書かれているので今後の展開が楽しみです。

解除

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