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ガンガルシア王国編

異世界ルール まとめ9

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 《これまでに学んだ異世界のルールを、各国の王様が解説してくれました》


 ◯この世界の人々が必ず守らなくてはいけないルールは、『人を害してはいけない』だけです

 〈セシル〉
 500年前、紋章システムを開発して7つの国を興したタイジュは、困っていた。この世界には、様々な種族が暮らしていて、価値観も違う。一緒に生活するのは困難だと思われていたからじゃ。
 でも、どの種族も衣食住の充実を求めておった。タイジュはこの世界に生きるものすべての望みは結局、物質的な充実と精神的な充実であると理解したのじゃ。
 だから、衣食住の保障という紋章システムを開発し、全種族に共通の禁忌である『同族殺し=人を害してはいけない』を唯一のルールとした。そして、何か揉め事が起こった場合は当事者同士で解決する、と決めたのじゃ。

 すべての人が納得するような法律は作れないし、警察みたいな組織が絶対正しいというわけではないからのぅ。同じヒトである限り、間違いはある。冤罪もそのひとつじゃ。

 そこで考えたのが、パートナーという存在。グールに取り憑かれるのを防ぐため、使用者の精神安定を目的として誕生させたが、さらにいろいろな機能を追加して今のようなパートナー精霊になったのじゃ。
 システム開発後の試行段階では、物を出すだけの便利な道具として、皆に認識されておった。そのうち、こんな便利な道具はいいなと広まったところで、防御結界、捕縛機能、記録機能などを追加したのじゃよ。

 今の日本の人々は、スマホという便利な道具を使うためなら、利用料が高くてもお金を払い続けておるな?

 紋章システムもそれと同じじゃよ。便利な道具に慣れてしまった人々は、機能が追加されても使い続けた。

 これは長い間、商人としてやってきた経験があったから、実行できたことじゃ。馬鹿正直に、『捕縛機能もありますが使ってください』では、紋章システムは受け入れてもらえなかったじゃろうな。

 この紋章システムの普及によって、この世界はひとつのルールでもなんとか成り立っておるのじゃ。

 パートナー精霊から提供される使用者の感想を蓄積し、紋章システムの内容をバージョンアップさせてきた。常に満足できる道具であるようにと、日々研究は続いておる。

 人々がもう紋章システムは必要ないと言い出す日までは、続けるつもりじゃ。

 時代は常に進化しておる。そのうちもっとすごいものが開発されるかもしれないからのぅ。



 ○この世界は、どんな人でも自分らしく暮らせる世界です

 〈タイジュ〉
 よぉ、オレはタイジュ。セシリア王国の初代王だ。今日は、ある出来事の話をしようと思う。オレは15歳まで日本で生活していた。そん時の話だ。

 オレが小学生の時、オレの家の近所にあった公園で遊ぶのが禁止されたんだ。理由は騒音。公園の隣のアパートに、夜勤の仕事をしている男が住んでいた。その男が、公園の騒音で眠れないと訴えたんだ。その公園は、朝は小さな子供、昼からは小学生や中学生。とにかく子供達が多く集まる公園だったんだよ。
 男は子供の声は騒音だとして、大きな声を出して遊ぶ子供がいると警察に通報するようになった。住んでいる地域によって、騒音の基準値が決まっているのは、知ってるか?男は騒音を測定していたんだよ。
 結局、測定までしている男が近くに住んでいる公園で遊ぶ子供はいなくなった。みんな、そんな問題に巻き込まれたくなかったんだよ。そして、何かあるといけないからということで、遊ぶのが禁止になった。

 さぁ。この出来事では、誰が悪いでしょうか?

 答えは誰も悪くない、だ。

 男がやっていることは、やり過ぎだが、違法ではない。通報したときの測定値は、基準値を超えていたからだ。
 子供達が遊ぶときに大きな声を出すのも、普通のことだ。静かに遊べ、なんて無理だよ。

 男は仕事のために安眠することが大事だと信じている。
 子供は公園で遊ぶことは悪いことだと思っていない。

 価値観の違いってヤツだ。何を大事にするかが違えば、正義は違う。

 だから、『答えはどちらも悪くない』なんだよ。

 日本は、法律によって統治されている法治国家だ。法律はすべての人に平等だが、完璧ではない。この出来事は法律では解決できないものだ。

 法律や決まりは作りはじめるとキリがない。そして、どんどん禁止されていく。今の日本では、苦情が出るとすぐに禁止されるよな?でもそんな世界って、住みやすいか?オレは、イヤだな。

 今の日本には、いろいろな価値観の人がいる。この出来事の当事者たちに、パートナー精霊がいたら結末は違っていたと思うな。

 男には、夜勤の仕事があるなら、子供が集まる公園の近くのアパートに住むことを回避するようにアドバイスするだろう。
 子供には、大きな声を出して遊びたいなら、周りに住宅がない場所に行くようにアドバイスするだろう。

 人が集団で生きていくためには、結局、譲り合いが重要なんだ。ちょっとしたことが大事なんだよ。

 この出来事がヒントになった。最新の情報を知っていてアドバイスしてくれる存在がいれば、無駄な争いが起こることはない。そう思って、パートナー精霊の機能を追加していったんだよ。そのおかげで、この世界ではこんな揉め事は起こらなくなったな。

 オレは紋章システムを開発して、こんな世界にした。でも、それが正解だったのかは、いまだに分からない。

 世界は正解の無い問題だらけだ。

 日本人はそういうものに答えを出すのが苦手だよな。だから、安易に禁止をする。とりあえず禁止にしておけば、問題になることはないからな。でも、それでいいのか?

 日本人が答えを出せない原因は、教育にあるとオレは思ってる。オレは日本人として、小学校と中学校に通った。そこで習うのは、正解のある問題だけだ。

 大人になって一番必要なのは、『正解の無い問題に答えを出す方法』なのにな。それを教えてもらえないから、大人なのに答えを出すのが苦手なんだよ。

 人を批判ばかりして代案を言わない大人、とかな。批判はしてもいいが、それだけでは問題は解決しない。

 この世界の子供達が成人する前にエスティオを経験するのは、そのためだ。全員一致の答えを出すのはとても大変だ。でも、それを経験していないと、答えの出し方を知らないまま大人になってしまう。

 人生とは、正解の無い問題に答えを出しながら生きていくってことだ。誰も答えなんか教えてくれない。自分で判断するしかないんだよ。

 その答えを出すためには、正しい情報が必要だ。そのための道具を開発することが、オレの役目だと思ったんだ。

 紋章システムのような道具がアースにもあれば、どんな人でも自分らしく暮らせるようになるかもしれないな。

 すべての決まりを知っていて、アドバイスしてくれる存在。今のアースで開発されているAIのような存在が、これから人を助けるようになるだろう。いや、そうなってほしい。

 今の日本はストレスだらけだ。他人にまで気を使える余裕のある人が減っている。ストレスを無くすことができないなら、それを緩和できる道具の開発が必要だよ。

 オレはカシムに、今のアースでも開発可能なモノを提案した。じつはこれに、すごく期待している。これで、アースでも些細な争いが無くなればいいなと思うし、そのような未来になってほしいと願っているんだよ。

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