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ガンガルシア王国編
最終話 主人公、未来を選ぶ
しおりを挟む「ソラ、戻ってきたんだね!やっぱりその姿の方が可愛いよ!」
ティアが何でもないことのように言う。
ティアが平然としているということは、これがソラの本当の姿?
「ふふっ。タクミの言った通り、時代は進んでいた。紋章システムの知識ですっかり元気になったよ。すり減った魂のチカラは戻らないけど、身体の方は元通り。」
「……。ソラだか?」
タムのつぶやく声が聞こえる。
うん、分かるよ。ビックリするよね。僕達と農場を駆け回ってたソラと同じ顔だけど、まるで別人だ。
「タイジュ。ここまできたら、本当のことをみんなに話すしかないよ。」
ソラの説得するような言葉に、タイジュは悔しそうに口を開く。
「いま、新しい紋章システムの開発をジルと進めているが、時間がかかりそうなんだ。作ろうとしているのは、全く新しい紋章システムになる。今の紋章システムが正常に動かなくなるまでの残りは約6年。それまでには完成しそうに無いんだよ。」
「ということは、どういうことです?」
ライルの疑問にソラが即座に答える。
「結局、今の紋章システムの寿命を伸ばすしかないってこと。タイジュがジルと開発に取りかかってから、ボクは別のことを模索した。各地で発生している異常種のことを考えると、残りは6年もないかもしれない。だから、ボクは今の紋章システムの寿命を伸ばす方法を探したんだよ。」
「それは見付かったのですか?どうしたら継続できるのですか?」
「タクミ。タクミがボクにチカラをくれたことを覚えてる?あれの応用だよ。紋章システムの核になっている姫の身体にチカラを注ぎ込むの。でもそれには、チカラをずっと与える必要がある。」
「ずっとって?まさか?」
「そうだよ。この城で姫と同じように眠りにつくしかない。ボクはその具体的方法を考案した。考案したボクには責任があるからね。ボクが眠りにつくよ。その間に、新しい紋章システムを開発してくれればいいよ。」
ソラは、タムの方を決して見ようとしない。
きっと、決心が鈍るからだ。
僕はこの城に来るまでに、ある人に運命の相手のことを詳しく教えてもらっていた。
運命の相手とは、魂の伴侶。惹かれ合う宿命をもった相手のこと。そんな相手と目が合ってしまえば、好きだという気持ちが溢れてしまう。だからソラは、タムを見ないようにしている。
そこまで好きだと思える相手に出会えたのに眠ることを選ぶなんて、間違ってるよ。
「ソラ。ソラの案には僕は反対だよ。その役目は僕が引き受ける。」
「なっ、何言ってるの?ボクの方がチカラが強いって言ってる!タクミには無理だよ!」
「いや、それは違うな。ソラの考案した方法は、あくまでも姫のチカラを補助するだけのもの。タクミにも十分可能だ。」
タイジュの指摘に、ソラが黙る。
「やっぱりね。僕はここに来る前、ドラゴンの家にいた。そこで、アズマにある術を教えてもらっていたんだよ。」
「アズマ?龍王のことか?あのオッサン、まだ生きていたのか?」
龍王の記憶があるタイジュが驚いている。
「もう亡くなってるよ。でも、建物に染み付いた記憶が残っていて、いろいろなことを教えてくれるんだ。偉大な方だよ。」
アズマは「ソラの幸せを願っている」と言い、僕の無茶なお願いにも、快く応じてくれた。
ドラゴンにとって、運命の相手との出会いは本当に奇跡なのだという。運命の相手と出会ったのに、別れることを選んだドラゴンはいない。なのに、ソラはそれを選ぼうとしている。
「タクミ。新しい紋章システムの開発には、どれだけの年月がかかるか分からない。タクミはこの世界でいろいろな人に出会った。目覚めた時には、もうその人たちは居なくなってるかもしれないんだよ?それはダメだよ。ボクは長命なドラゴンだからね。そんなことはよくあること。だから、ボクの方が適任だよ。」
ソラはあくまでも自分が眠りにつくつもりだ。
でも目覚めた時に、運命の相手であるタムがこの世界から居なくなっていたら、哀しむのはソラだ。それにタムの身体のこともある。
「いや、僕がそうするって!」
「ダメ!タクミには任せられない!」
僕とソラで言い合いになっていると、タムの大きな声がした。
「ソラはダメだべ!ソラはオラと夫婦になるんだから!タクミ、ごめんだべ。ソラとタクミはどちらも、オラにとって大切な人だ。でも。でもオラは、ソラが好きだ!居なくなるのは、耐えられない!」
「あらぁ、すごい告白ねぇ。」
イリスの茶化すような言葉にも構わず、タムは続ける。
「オラはソラががどんな姿でも好きだべ。ソラと会えなくなってから、胸にぽっかりと穴があいたような気持ちが続いた。オラには、それがどういう意味なのか分からなかったべ。だから、経験豊富なおっ父に相談した。おっ父は言っただ。もう一度ソラに会った瞬間に嬉しくて苦しくなって、ずっと一緒にいたいと思ったら、それが好きだということだ!って。」
「タム…。」
ソラがタムを見つめている。
「だって、タムはボクのこと嫌いになったと思って…。」
「嫌ってなんか無いだよ!あれは…。ソラがあんなことをするから…。」
ソラとタムは見つめあって、モジモジしている。
はぁ、そうだった。二人とも恋愛初心者だったな。お互いに相手の気持ちが分かってなかっただけか…。
「恋愛で大事なのは、素直になることよぉ。駆け引きなんかダメ。そんなの時間のムダよぉ。好きな人には素直に好きって言えばいいの。ソラもタムも自分の気持ちに素直になりなさいね。」
さすがは、愛の国の王様。説得力がある。
「でも。それだと、タクミが犠牲に…。」
泣きそうなソラに向かって僕はニッコリと笑う。
「大丈夫!僕には秘策があるから!これは、ミライっていうパートナーがいる僕にしかできないことなんだよ。だからソラは安心して、タムと幸せになってほしい。」
こうして、僕は眠りにつくことになった。
この世界は素晴らしい世界だ。そして、この世界に暮らしている人々が好きだ。だから、この世界を守りたい。
僕はこの世界のすべての国を見て体験して、自分にしかできない仕事、誰かに必要とされる仕事がしたいと思っていた。その願いが叶ったのだ。
◇◆◇ エピローグ ◇◆◇
「タム。身体の調子はどう?」
「タクミ!久しぶりだべな!もうすっかり元気だべ!今日は会いに来てくれて嬉しいだよ!いま、ソラを呼んでくるから、少し待つだ。ソラはいま、裏の畑で野菜を収穫してるだよ。タクミに美味しいものを作るって張り切っていただ。」
僕はミライと、タムとソラの家に遊びに来ていた。
「良かったよ。タムとソラは上手くやってるようだね。それに、タムもこれ以上病気になる心配はないし。」
あれからタムはソラと結婚した。ドラゴンにとっての結婚は、お互いの魂を分け合うこと。精霊王と王妃がそうだったように、タムが死ねばソラも死ぬ。でも、強いチカラのソラと魂を分け合ったことで、タムの病気の原因はすべて吹き飛んだようだ。しかも、ソラは長命。魂のチカラがすり減っているとは言え、ヒトより長生きになるのは間違いない。それでも、タムはそれを受け入れた。
『その方が、タクミとも長く一緒にいられるべ』と笑っていた。
「タクミ、タムが元気そうで良かったね。明日は誰のところに行く?」
ミライの言葉に即答する。
「ミライが行きたい場所でいいよ!僕はミライが居ないと、どこにもいけないんだから!」
そう。僕の本体は精霊王の城で眠っている。
いまここにいる僕は分身体。僕と繋がっているミライがいるから、僕は前と変わらずに動くことができる。
アズマに相談して教えてもらったのは、精神を移す術。アズマはまだまだ未熟な僕には無理だと言ったのだが、ミライの存在によってそれが可能になった。ソラの分身体と違い、時間制限もない。
ミライという存在がいる僕だから、出来ることだ。もちろん、ご飯を食べることもできる。
「この世界のみんなは幸せそうだよね。この世界に移住することができて良かったよ。ミライとも会えたしね。」
「あい!僕もタクミと会えて嬉しいよ。そうだ!そろそろアースの日本に行ってみたいな!タクミが生まれた場所!」
「そうだね。行ってみようか。でもこの状態でも行けるのかな?」
「大丈夫だぞ!ボクが一緒に行ってあげる!」
畑から戻ってきたソラが、僕とミライの話を聞いていたようだ。
「ダメだべ!もうすぐ予定日だ!大人しくしていてほしいだよ。」
タムが慌てて、ソラに釘をさす。
タムに言われて、大きなお腹をさするソラの顔はとても幸せそうだ。
運命の相手との子供は、純血のドラゴンになる。もうすぐ、僕とソラの同族が産まれる。この世界にドラゴンが増えるのだ。こんなに嬉しいことはない。
「ミライ、今日も平和で良かったね。」
「あい!」
タムとソラの子供達のおかげで僕は長い眠りから解放されることになるのだが、それはまた別の話だ。
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