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ガンガルシア王国編

214話 主人公、熟考するー3

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「リオンの主張は、呪いを無くすために姫と王達をアースに移住させるってことだよね?でもそれは、このままでは無理だと思う。」

「どういうことだべ?」

「特A級のワイバーンと対峙して闘ったから分かったんだけど、アレは怪異じゃない。」

「怪異じゃない?じゃ、アレは?」
 タムが驚いている。

「あのワイバーンは、タイジュが言っていた異世界から来る異形のモノだと思う。怪異って絶対ヒトを襲うんだよね?ヤツはヒトに興味がないようだった。動くもの、生物全てを狙っていた。」

「じゃあ、異世界への穴が開いた状態だと、あんなヤツラが入ってくるってことだべか?」

「そんな…。空白の歴史と呼ばれる200年は、まさに暗黒の時代デスね…。あんなのが常に出現してたなんて…。」

「異世界の穴を塞ぐためには、姫と精霊王の城が必要だとタイジュは言っていた。姫がいなくなって呪いが無くなったとしても、あのワイバーンみたいな特A級が出現するようになってしまう。」

「んだな。姫と王達をアースに移住させるっていうリオンの案は、今のままでは難しいだな。」

「この世界は、異世界への穴が開いてることが普通の状態なんだ。でもそれでは、平和に暮らせない。ヒトが安心して暮らすためには、穴は閉じないと…。」

「では、シオンの案はどうデスか?シオンは、異世界への穴をすべて閉じるように言っていまシタ。タクミはどう思いマスか?」

「僕はそれにも反対だな。精霊王が生きている時でも、たまに異世界への穴は開いてたってタイジュは言っていた。精霊王でも出来ないのに、完全に閉じることなんて、本当に出来るのかな?それに、特A級みたいな強い存在を倒すには経験が必要だよ。異世界の穴を完全に閉じたら、討伐者たちは何を相手に経験を積めばいいの?」

「この世界の子供達はファミリアで戦闘訓練するだども、それはこの世界の大型生物相手だ。しかも、それは生き残るための闘い方を学ぶのであって、討伐とは違う。討伐するには、覚悟が必要だべよ。」

 少しでも迷えばこちらが危ないと分かっていても、生物を殺すことにはためらいがある。タムが言っている覚悟とは、生物を殺す覚悟。

「オラは食べるために殺す(屠殺)ことは、出来るべ。自分が生きるために生物を殺すことが、『食べる』ということだから。でも、それ以外には迷いがある。そんな迷いがある討伐者は、自分も仲間も危険にしてしまう。だから、オラは討伐者にはならなかっただよ。」

「何事にも経験は必要デス。それは討伐にも当てはまりマス。」

「このガンガルシアの討伐は、必要なことなんだよ。この世界の成り立ちを考えると、闘いを無くすことはできない。タイジュはこれが分かっていて、ガンガルシアを作ったのかも。」

「闘いとは、自分の暮らしを守るためのものだべ。暮らしを破壊するモノが異世界から出現するなら、対抗するしかないだよ。」

「時として、自分の暮らしを守るために、国と国、人と人が争うことがありマス。それを戦争と言いマス。でも、意思の疎通ができる相手には、『戦争』ではなく『対話』をしてほしいデス。」

 カシムが生まれた国では、国内での対立を解決するため、物理的な戦闘をしている。物理的暴力での解決は野蛮な行為だが、圧倒的な力で押さえつけることで、戦闘が早く終結するのも事実だ。だから、戦争は無くならない。

「対話は意思の疎通ができる相手にしか通用しないだよ。この世界に出現するモノは、ほとんどが破壊衝動しかないモノだ。だから討伐するしかないだよ。」

「僕はやっぱり、異世界の穴を完全に閉じることには反対だ。完璧な道具なんて無い。常に最悪を想定して備えることが危機管理だよ。タイジュの対応は、王様として当然の対応だ。」

 紋章システムは500年後に継続出来なくなるかもしれない。それを知ったタイジュは、もし紋章システムが使用できなくなった時のために、ガンガルシアを今の状態にしたんだと思う。異世界の穴から出現する異形のモノ達に対抗するために。もちろん、討伐者のためという理由もあるが。

「んだな。紋章システムは継続する。異世界の穴を塞ぐために、精霊王の城と姫は必要。そして、異世界の穴を完全に塞ぐことには、反対。タクミの考えはそういうことだな?」

「うん。結局、今のままが一番良いっていう考え。でも、これじゃ何も変わらないよね。それに、アースのことも何とかしたいとは思ってるけど、僕には何のチカラも無い…。」

「そんなことはないだよ。できることは必ずあるだ。それは些細なことかもしれない。でもそれでいいだよ。この世界を幸せな世界にしたいと人々が思ったから、この世界が続いているだ。少しずつでも全員がそう思ったら、大きなチカラになるだよ。」

「この世界は、アース生まれの僕からしたら、奇跡みたいな世界だ。こんな世界に産まれたかったよ。」

「なに言ってるだ?この世界はもう、タクミの生きる世界だべ。ここで生活していくんだから。」

「そうだね。」

 この世界は本当に良い世界だ。この世界を守りたい。でも、カシムの気持ちも分かる。生まれ故郷であるアースのために何か出来ることをしたいと僕も思う。

「結論を出すまでには時間があるだよ。どうするかはじっくり考えるだ。オラは、紋章システムを継続するための手段が他にもあると思うだよ。それを探すだ。」

 考え込んでしまった僕に、タムが諭すように話す。そんなタムの顔色が悪くなってきた。

「タム。少し話しすぎたね。もう休んで。僕とカシムは部屋から出るから、少し眠るといい。」

 タムの部屋を出た僕は自室に戻る。
 そして、タムとカシムと話したことをじっくりと思い出し、悩んでいた。
 一人なら困っていただろう。でも僕は一人じゃない。僕にはミライがいる。

 僕は自分の考えをまとめるために、ミライと話をすることにした。

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