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ベアルダウン王国編

172話 主人公、自給自足を経験するー2

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「アタイはドラゴノイドだ。ドラゴノイドの先祖はドラゴン。いろいろ調べたけど、ドラゴンについては良く分かってないことだらけなんだ。ドラゴンに関する遺跡や神殿が極端に少ないって理由もあるけど。」

「じゃあ、ユーリが国外専門の冒険者になったのは…。」

「そうさ。国外にある遺跡や神殿を見つけるためだよ。」

「国外って7つの国以外ってことだよね。広いの?」

「この世界の半分は海で、半分が陸地だ。その陸地の5分の4にあたるのが、7つの国。そして残りの5分の1が、暗黒大陸や小島などだ。」

「じゃあ、その5分の1の陸地を冒険してるってことだね。」

 暗黒大陸は、アースの南極大陸くらいの大きさだと言っていた。だとしたら、かなりの広さだ。

「そんな広いところを冒険してるの?紋章システムが使えないから、大変じゃない?」

「国以外の場所は、誰のものでもないから、ルールも何もない。それこそ、人を害してはいけないってルールもないからね。危険だよ。でもアタイは、ドラゴノイドだ。身体能力も高いし、精神耐性もある。この仕事は、まさに天職だと思ってるよ。それに、アタイは元々、あまり紋章システムを使わないし。ただ、パートナー精霊と話せないのは少し寂しいけど。」

 そうか。紋章システムが使えないということは、物が出せないだけじゃなくて、パートナー精霊も具現化できないんだったな。

「ユーリはミライのこと知ってるの?」

「ジルのチームが開発した人工精霊って聞いてるよ。だから具現化しているんじゃなくて、実体がある。そしてこの世界初だから、秘密なんだろ?誰にも言わないから、安心しなよ。」

 国外に一緒に行くなら、ミライのことは知っておいてもらわないとな。
 ユーリはベアルダウンの王宮に所属していると言っていたから、守秘については安心だ。

「じゃ、その島に行って、神殿を調査するってことだね。いいよ。国外活動装置もあるし、ユーリも紋章システムが使えるなら、すぐに行って帰って来れるよね。」

「いや、それが。あの島にはちょっと事情があって。それに、リオンとシオンに鍛えてくれって頼まれたから、今回は紋章システムは使わないよ。」

 リオンとシオンに?
 2人をチラリと見ると、笑っている。

「タクミって、サバイバル体験したことないでしょ?」
「この世界の子供達は、全員体験してることだからね。ユーリにお願いしたんだよ。」
「大丈夫!そんなに広くない島だから。食材も水も豊富にあるし、ユーリが一緒ならまず飢えることはないから!」

「そうさ。その島には、アタイはいつも手ぶらで行くよ。気候は温暖だし、果樹も多いし、川もある。問題ないさ。」

「いや、でもさすがに何も持っていかないっていうのは無理だよ。サバイバルなんて、経験ないし。」

「大丈夫さ。その島までは、このハドリー岬からホバーで行ける距離だから。ホバーで海を渡るんだ。島に着いたら、コッソリ建てておいた森の中の小屋にホバーを置いて、神殿に向かう。そんな予定だ。」

「直接、ホバーで神殿に行けばいいんじゃ?」

「じつは事情があって、神殿の近くではホバー禁止なんだよ。今は詳しく話せないけど、神殿が近くなったら説明するよ。」

 よくわからないが、事情があるなら仕方ない。それに、途中まではホバーで行けるなら、案外楽勝かも!

「それじゃ、明日の朝、出発だ。頼んだよ。」

 こうして僕は、謎の神殿があるという島へ行くことになったのだった。



 次の日の朝。
 ユーリの言ったとおり、ホバーに乗り、何も持たずに島に向かう。

「ホバーって海の上でも走ることができるんだね。」
 感心してつぶやくと、ミライが答えてくれる。
「あい!ホバーは空中に浮いて進む乗り物だからね。海の上でも全然問題ないよ。」
「でもホバーの動力は精霊なんだよね?海の上で使えなくなるなんてことは…。」
「今から行くのは、暗黒大陸じゃないから大丈夫だよ。精霊濃度が低い場所があるだけで、精霊は存在してるんだから。問題なく乗れると思うよ。」

 あっ、そうか。精霊が居ないのは、暗黒大陸だけだったな。

 海の上を1時間くらい進むと、目の前に島が見えて来た。砂浜から島に上陸し、森の方へホバーを走らす。森の中をしばらく行くと、質素な小屋を見つけた。

「これがアタイが建てた小屋だよ。その辺の木を切って、自力で建てたんだよ。」

「ホームにいる頃に、簡単な小屋の建て方を習うって聞いたけど、ユーリだけで建てたの?すごいな。」

「この世界の人なら普通だよ。それにこれは一番簡単な小屋だし。まぁ、倉庫代わりに使ってるだけだ。じゃ、ホバーをこの中に入れて、ここからは徒歩で神殿に向かうよ。」

 ユーリはそう言うと、背中に大きなリュックを背負う。

 ユーリが乗ってきたホバーは、座席の下に収納スペースがあるタイプだったようだ。

「あれっ?手ぶらで来るって言ってたよね?」

「あぁ、コレのことは歩きながら話すよ。まず行き方だけど、ここから神殿までは、最短距離で数キロだ。」

 数キロ?じゃあ、すぐ着くな。

「ただし!最短コースには難関がある。2000メートルの岩壁があるんだよ。それを登りきった上に神殿は建っている。」

 2000メートル?

「まさかとは思うけど、それを素手で登るの?」

「なに言ってるのさ。タクミもドラゴノイドに変現できるようになったんだろ?手や足を鋭い爪に変化させて、それで登るんだよ。」

 なるほどね。それなら登れそうだ。あとは僕の体力が持つかどうかだけど。

「あっ、そうだ。僕がドラゴンに変現して飛んで行けば早いよ。」

「それは却下だ。ドラゴンに変現するのは無し。」

「どうして?」

「それが、ホバーで神殿に近づけない事情とこの荷物の理由だよ。その神殿の近くには、紋章システムを放棄した人達が、住んでるのさ。」

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