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ベアルダウン王国編

171話 主人公、自給自足を経験するー1

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「はぁ、はぁ…。これはキツイ。先に来るなんて言わなければ良かった…。」

 僕が今いる場所は、ほぼ垂直の岩壁。
 そこにへばりつくように、その岩壁を登っていた。

 いくら体力がついたからといって、さすがに岩壁を登る経験なんてないから、これは厳しい。

「おいっ!タクミ、もうへばったのか?」

「ユーリは元気だね。さすが国外専門の冒険者だ。僕はもう無理かも~っ。おっ、落ちる~っ!」

「ははっ、タクミはドラゴンの先祖返りなんだろ?落ちてもドラゴンに変現したらいいじゃないか?」

「人ごとだと思って!ドラゴンの姿は目立つから、変現しないようにって言ったのユーリだよね?」

「はははっ!それだけ話すことができるなら、大丈夫そうだな!ほら!あと少しだから、頑張れ!」

 頂上までは、あと少しだ。
 僕は残りの力を振り絞って、再び登りはじめた。


   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 タムの家でまったりとスローライフを堪能していた僕は、リオンとシオンから先に来てほしいという連絡をもらう。

 事情を聞くと、暗黒大陸に一緒に行く予定の冒険者、ユーリからの依頼だという。
 異常種の出没のこともあり躊躇していると、ソラとタムが自分達でなんとかするから大丈夫だと言ってくれる。2人きりの時間がある方が2人の仲が進展するかもと思っていた僕は、1人でハドリー岬に向かうことにした。


「ここがハドリー岬?寂しいところだね。」
「あい!この辺りは岩と砂だらけで、作物も育たないから住んでる人も居ないんだよ。でも、暗黒大陸に行くにはここからが一番近いんだ。」
「なるほどね。人が居ないってのも、ここを選んだ理由だろうな。暗黒大陸に行くことは秘密なんだよね?」
「あい!暗黒大陸は、別名『呪われた大地』。昔は、その存在さえも秘密になってたようだよ。」
「存在さえも秘密に?それって、精霊王と同じだね。やっぱり何か関係があるのかな?」
「あい!それを確かめに行くんだよ!」
「そうだね。あっ、何か建物が見えて来たよ。あれがリオンとシオンが言っていた拠点かな?」

 海の近くの崖の上にポツンとログハウスが建っていた。
 ジルの工房で住んでいたものと同じだ。リオンとシオンが出した家で間違いないだろう。そこに近付くと、リオンとシオンが誰かと戦闘訓練をしているところが目に入る。

 2対1?しかも女性だ。
 双子はああ見えて、かなりの手練れだ。それでも相手の女性は負けていない。よく見ると、ドラゴノイドのようだ。

 あっ?もしかしたら、あの人がユーリかな?

 リオンとシオンが僕に気付いて、戦闘をやめる。そして、僕に女性を紹介してくれた。

「はじめまして、アタイはユーリ。ベアルダウンの王宮に所属してる冒険者だ。アンタが先祖返りのタクミだね?」

 ドラゴノイドにしては小柄のようだが、油断できない雰囲気が誰かに似ている。

「ユーリは、ガンガルシアのサーシャの妹だよ。」
 リオンが教えてくれる。

 サーシャ!
 そうか、サーシャに雰囲気が似ていたんだ。

「アタイの姉貴と会ったことがあるんだってね。姉と言っても父親が違うから、そんなに似てないだろ?」

「似てますよ。雰囲気というか、オーラというか。」

「ははっ!さすが先祖返りだ。アンタのドラゴンの瞳は、なんでも見通せるらしいね。母さんが悔しがってたよ。イリステラ王国の遺跡でドラゴンの紋様を確認したのは、母さんなんだよ。紋様以外にも、文字が書いてあったって?」

「へぇ、ヴィクトリアにも見えないものがあったんだ?それは、ショックだっただろうねぇ。」
「ヴィクトリアは、サーシャとユーリの母親で、見た目は完全にヒト種なんだけど、ドラゴンの瞳の能力はこの世界一って言われてるんだよ。」
「そうそう。その能力を活かして、イリステラ王国で占い師をやってるよ。」

 リオンとシオンが教えてくれる。

「この世界一だと自負してたからね。あれから母さんは落ち込んだままだよ。」

「それは…。なんか、ごめんなさい。」

「大丈夫さ。次の恋が見つかれば、すぐに立ち直るよ。」

「次の恋?イリステラ王国にいるってことは、お母さんって?」

「そうだよ。イリス様やティアと同じ価値観。」

「「恋してないと死んじゃう~!!」」
 双子が見事にハモって真似をする。

「母さんは、この世界では珍しく多産なんだ。しかも、どの子供もドラゴノイドの血が強い。だから、相手を探すためにイリステラ王国にいるんだよ。」
 ユーリは呆れたような顔をして話すが、お母さんのことが大好きなのだろう。

「ところで、僕にしてほしいことがあるって聞いて来たんだけど。何かあったの?」

「あぁ、アタイの依頼だよ。ここハドリー岬と暗黒大陸の間には、無数の小島がある。その中の一つの島に、不思議な神殿があるんだ。昔、母さんに見てもらった時は、ドラゴンの紋様が薄っすら見えるって言ってたけど、タクミなら他にも何か分かるんじゃないかと思って。」

 ドラゴンの紋様がある神殿?
 ソラは、7つの国で一番古い神殿にドラゴンの紋様を付けたと言っていたから、ソラとは関係のない神殿?

 そういえば、ジルが言っていたな。
 暗黒大陸にはドラゴンに関する神殿があるかもしれないって。

 もしかしたら、その神殿がジルの探していた神殿なのか?
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