上 下
186 / 247
ベアルダウン王国編

170話 主人公、スローライフを満喫するー6

しおりを挟む
 

 ソラとタムが一緒に作ってくれたのは、パスタのような麺料理だった。

 野菜がいっぱい入っていて、トマトベースのソースが絡めてある。

「うわぁ、美味しそうだ!さすがソラとタムだね!」

「んだな。ソラはコツを掴むのが早いだよ。料理は勘も必要だべ。」

「ふふん、ボクは異世界最強のドラゴンだぞ。ご飯くらい作れるよ!」

 女の子の姿で可愛く威張る姿は、微笑ましい。姿が変化するだけで、こちらの受け取り方も違うんだなぁ。見た目も重要ってことか…。

「ところで、ドラゴンもご飯食べるんだね?」
「んっ?タクミだって食べるでしょ?それと同じだよ。ボク達ドラゴンは、こうやって摂取することで、エネルギーを得ているんだよ。ヒト種もそうでしょ?」
「んだよ。ヒトは植物や動物の生命をいただいて、生きているべ。それが自然なことだ。」

 そうだね。食べるってそういうことだ。

「でも紋章システムが出来て、合成食物を作り出そうとする人々もいただよ。」

「合成食物ってナニ?」
 ソラが不思議そうに聞く。

「合成食物は、いろいろなものから栄養素だけ取り出して、そこから作る食べ物のことだべ。」

 タムの説明だけではピンと来ない僕にミライが、補足してくれる。

「タクミ、アースにあるビタミン剤みたいなものだよ。」

「えっ?でもビタミン剤とかは、補助的に摂取するものだよね。それだけで生きていけるものなのかな?」

「合成食物に関しては、このエレメンテでも賛否が分かれてるべ。今でも研究してる人もいるだが、セシリア王国の初代王は、それには反対だったらしいだよ。」

「初代王って7つの国を作った王様だよね?」
 セシリア王国の初代王は、いまのセシリア王セシルさまの前世でもある。

「んだ。初代王は、生物を食べて生きるのが自然な姿だ。それを否定するのは自然を否定することだと言って、合成食物の開発だけはしなかったそうだべ。」

 意外だ!セシルさまって、色々なものを開発しているイメージなのに。

「合成食物を開発している人の中には、生物を殺して摂取するのに反対の人もいるんだよ。肉は食べないって主義の人。」
 ミライが解説してくれる。

「あぁ、ベジタリアンってことだね?」

「ベジタリアンってなんだべ?」

「菜食主義って言って、肉を食べない生活をしてる人のことなんだよ。魚や卵、牛乳は食べてもいいって人と全くダメって人と、菜食主義にもいろいろあるらしいよ。」

「ボクから見たら、肉も魚も野菜も生物だ。違いはないよ。野菜はよくて、肉はダメっていう理屈は分からないな。」

 そりゃ、異世界最強ドラゴンのソラから見たら、どれも生物ってくくりになるだろうなぁ。

「んだな。この世界でも、菜食主義の人はいるだ。でもその人達は、成人してから自分の体調を考えて菜食主義を選んだだけで、他の人にも菜食主義を強要する人はほとんどいないだよ。」

「じゃあ、その合成食物を開発してる一部の人達だけが主張してるってこと?」

「んだ。それに、食べるものを選べるのは幸せなことだべ。本当に飢えていたら、選べないだよ。そこにあるものを食べるしかないんだから。」

「タムは、そんな経験があるの?」

「んだよ。10歳頃、パートナー精霊が誕生してる子供は、サバイバル体験に参加するだよ。3日間、森の中で自分の力だけで生きのびるっていうのを体験するだ。オラは病気がちで力が無かったから、大変だった。特に水や食料の確保が難しいべ。だから、その時は食べられるものは、何でも食べただよ。」

「この世界の子供達ってたくましいね。僕の生まれた国の子供なら、無理だよ。」

「いいや、小さな頃から時給自足を学んでるオラ達でさえ、3日間生き抜くのは簡単なことではないべよ。1人で水や食料を確保して、寝る場所を探して。やる事はとてもたくさんあるだ。ホームでは分担していたから、そんなに負担では無かった。その体験後は、やっぱり家族っていいなって思ったし、ヒトは1人では生きていけないなって感じただよ。それに、碧の存在も重要だったべ。心が折れそうな時も碧がいてくれた。だから乗り越えられたんだべよ。」

「この世界の子供達は、成人までにそういうことを学ぶんだね。そのルールは、初代王が決めたの?」

「ヒトの基本は衣食住、それをしっかり確保できるのが大人だ。セシルはそう思って、そのルールをつくったんだよ。」

 ソラは何かを知っているような話し方をする。きっと、初代王とも知り合いだったに違いない。聞いても教えてはくれないだろうけど。

「じゃ。そろそろボク、帰るね。タム、また明日!」

 食べ終わった皿を片付けた後、ソラは明るく帰っていった。また明日来るのだろう。

「ソラは今日も元気だったべな。」
「うん。まさか料理ができるとは思ってなかったよ。」
「あははっ、それはオラも意外だったべ。でもなかなか上手だっただよ。さぁ、昼ご飯も食べたし。オラは今から、肥料や水やりの分析をする予定だども、タクミも見るだか?その分析結果をもとに、精霊球へ指示するだよ。」
「おぉ!なんか技術者って感じだね!ぜひ見たいな。お願いします!」



 朝起きて、牧場や農場を見回って、採れたての野菜を食べる。こんな幸せな生活をしていたある日、リオンとシオンから連絡が入る。

「タクミだけ、先に来てほしい」と。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。

Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。 そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。 二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。 自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。

処理中です...