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ベアルダウン王国編
170話 主人公、スローライフを満喫するー6
しおりを挟むソラとタムが一緒に作ってくれたのは、パスタのような麺料理だった。
野菜がいっぱい入っていて、トマトベースのソースが絡めてある。
「うわぁ、美味しそうだ!さすがソラとタムだね!」
「んだな。ソラはコツを掴むのが早いだよ。料理は勘も必要だべ。」
「ふふん、ボクは異世界最強のドラゴンだぞ。ご飯くらい作れるよ!」
女の子の姿で可愛く威張る姿は、微笑ましい。姿が変化するだけで、こちらの受け取り方も違うんだなぁ。見た目も重要ってことか…。
「ところで、ドラゴンもご飯食べるんだね?」
「んっ?タクミだって食べるでしょ?それと同じだよ。ボク達ドラゴンは、こうやって摂取することで、エネルギーを得ているんだよ。ヒト種もそうでしょ?」
「んだよ。ヒトは植物や動物の生命をいただいて、生きているべ。それが自然なことだ。」
そうだね。食べるってそういうことだ。
「でも紋章システムが出来て、合成食物を作り出そうとする人々もいただよ。」
「合成食物ってナニ?」
ソラが不思議そうに聞く。
「合成食物は、いろいろなものから栄養素だけ取り出して、そこから作る食べ物のことだべ。」
タムの説明だけではピンと来ない僕にミライが、補足してくれる。
「タクミ、アースにあるビタミン剤みたいなものだよ。」
「えっ?でもビタミン剤とかは、補助的に摂取するものだよね。それだけで生きていけるものなのかな?」
「合成食物に関しては、このエレメンテでも賛否が分かれてるべ。今でも研究してる人もいるだが、セシリア王国の初代王は、それには反対だったらしいだよ。」
「初代王って7つの国を作った王様だよね?」
セシリア王国の初代王は、いまのセシリア王セシルさまの前世でもある。
「んだ。初代王は、生物を食べて生きるのが自然な姿だ。それを否定するのは自然を否定することだと言って、合成食物の開発だけはしなかったそうだべ。」
意外だ!セシルさまって、色々なものを開発しているイメージなのに。
「合成食物を開発している人の中には、生物を殺して摂取するのに反対の人もいるんだよ。肉は食べないって主義の人。」
ミライが解説してくれる。
「あぁ、ベジタリアンってことだね?」
「ベジタリアンってなんだべ?」
「菜食主義って言って、肉を食べない生活をしてる人のことなんだよ。魚や卵、牛乳は食べてもいいって人と全くダメって人と、菜食主義にもいろいろあるらしいよ。」
「ボクから見たら、肉も魚も野菜も生物だ。違いはないよ。野菜はよくて、肉はダメっていう理屈は分からないな。」
そりゃ、異世界最強ドラゴンのソラから見たら、どれも生物ってくくりになるだろうなぁ。
「んだな。この世界でも、菜食主義の人はいるだ。でもその人達は、成人してから自分の体調を考えて菜食主義を選んだだけで、他の人にも菜食主義を強要する人はほとんどいないだよ。」
「じゃあ、その合成食物を開発してる一部の人達だけが主張してるってこと?」
「んだ。それに、食べるものを選べるのは幸せなことだべ。本当に飢えていたら、選べないだよ。そこにあるものを食べるしかないんだから。」
「タムは、そんな経験があるの?」
「んだよ。10歳頃、パートナー精霊が誕生してる子供は、サバイバル体験に参加するだよ。3日間、森の中で自分の力だけで生きのびるっていうのを体験するだ。オラは病気がちで力が無かったから、大変だった。特に水や食料の確保が難しいべ。だから、その時は食べられるものは、何でも食べただよ。」
「この世界の子供達ってたくましいね。僕の生まれた国の子供なら、無理だよ。」
「いいや、小さな頃から時給自足を学んでるオラ達でさえ、3日間生き抜くのは簡単なことではないべよ。1人で水や食料を確保して、寝る場所を探して。やる事はとてもたくさんあるだ。ホームでは分担していたから、そんなに負担では無かった。その体験後は、やっぱり家族っていいなって思ったし、ヒトは1人では生きていけないなって感じただよ。それに、碧の存在も重要だったべ。心が折れそうな時も碧がいてくれた。だから乗り越えられたんだべよ。」
「この世界の子供達は、成人までにそういうことを学ぶんだね。そのルールは、初代王が決めたの?」
「ヒトの基本は衣食住、それをしっかり確保できるのが大人だ。セシルはそう思って、そのルールをつくったんだよ。」
ソラは何かを知っているような話し方をする。きっと、初代王とも知り合いだったに違いない。聞いても教えてはくれないだろうけど。
「じゃ。そろそろボク、帰るね。タム、また明日!」
食べ終わった皿を片付けた後、ソラは明るく帰っていった。また明日来るのだろう。
「ソラは今日も元気だったべな。」
「うん。まさか料理ができるとは思ってなかったよ。」
「あははっ、それはオラも意外だったべ。でもなかなか上手だっただよ。さぁ、昼ご飯も食べたし。オラは今から、肥料や水やりの分析をする予定だども、タクミも見るだか?その分析結果をもとに、精霊球へ指示するだよ。」
「おぉ!なんか技術者って感じだね!ぜひ見たいな。お願いします!」
朝起きて、牧場や農場を見回って、採れたての野菜を食べる。こんな幸せな生活をしていたある日、リオンとシオンから連絡が入る。
「タクミだけ、先に来てほしい」と。
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