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イリステラ王国編

149話 主人公、恋を知るー4

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「ベアルダウン王国の会は、ベアルダウン王国で一緒に住んでくれる相手を探してる人とベアルダウン王国でそういう暮らしをしてもいいよって考えてる人が集まる場所なんだ。」

 一緒に住んでくれる人を探してる=需要
 そういう暮らしをしてもいい人=供給

 なるほどな。
 ミライが言ってた需要と供給のマッチングって、こういうことか!この街は、いろんな条件の人達が出会える場所を提供してるんだ。

「んで。もしよかったら、タクミも一緒に行ってくれないだか?オラ、こういう所は初めてだから不安で…。タクミもいつか、イリステラ王国に行きたいって言ってたから、オラの気持ちを分かってもらえると思っただよ。」

「それで、僕に連絡をくれたんだね?」

「タクミにも都合があると思うから、無理にとは言わないべ。」
 タムは少し不安そうな表情をしている。

「大丈夫だよ。一緒に行くよ。でもその集まりって、僕みたいな付き添いでも参加していいのかな?」

「それは問題ないべ。じゃあ、今日の夜は、お願いするだよ。ところで、タクミはもう泊まるところは決まってるだか?」

「ううん。まだだよ。」

「オラの部屋の向かいが空いてるから、良かったらそこはどうだべ?」

「うん。ありがとう。そこにするよ。けど…。タムのパートナーの碧が落ち込んでるように見えるけど、大丈夫?」

 タムの右肩辺りに浮いている碧は、元気が無さそうだ。

「タクミは優しいね~。それに比べてタムは優しくない~。せっかく兄ちゃんが、語尾の『べ』を言わないようにってアドバイスくれたから、注意するように言ってるのに~。直らないし~。」

 碧は、何度言ってもタムの口癖が直らないことを気にしているようだ。

「仕方ないべ。これはおっ父の口癖だべ。直そうとも思っただども、この話し方を含めてオラだ!オラはこのままのオラを好きになってくれる人を探すべ!」

 おぉ!タム、カッコいい!
 ありのままの自分を好きになってくれる人を探す。そうだね。そんな人と出会えたら、いいよね。

「じゃあ、タクミ!夜になったら行くべ!」



 その日の夜、僕とタムは案内人に教えてもらった場所に向かう。そこは、レストランのような場所だった。

 扉を開けると、受付のお姉さんがいた。

「移住してくれる人をお探しの方ですか?移住希望の方ですか?」

「オラは一緒に住んでくれる人を探しているべ。」

「はい。ではこちらのマークをお願いします。」
 すると、お姉さんはタムの右手の甲に何かのマークを刻印する。
「これは募集中のマークです。頑張ってくださいね。あなたもそうですか?」

「いえ。今日は付き添いというか、見学というか…。」

 僕がどう説明したらいいか迷っていると、お姉さんが察してくれる。

「大丈夫ですよ。雰囲気を試してみたいという人もいますから。では、見学のマークにしておきますね。」

 お姉さんにマークを刻印してもらった僕とタムは、中に入っていく。そこには、たくさんの人達が集まっていた。

「この右手のマークを見て、相手を見つけるだよ。オラのは募集中のマーク、タクミのは見学のマーク、そして、移住希望のマーク。オラは移住希望のマークがある女性を探して話をしたいだよ。」

 なるほどなぁ。ここは婚活パーティーなんだな!テーブルの上には、美味しそうな食事や飲み物が並べてある。立食形式ってことかな?

「このレストランは、ベアルダウン王国から直接食材を取り寄せてるだよ。ここのオーナーは元々、ベアルダウン王国でファーマーしてただ。でも今はここで料理人をしてる。そして、オラ達みたいなファーマーに、出会いの場を提供してくれてるんだって聞いたべ。そのかわり、料理と飲み物の感想を教えてほしいって言われてるだよ。」

 オーナーさんは場所を提供する代わりに、自分の料理や飲み物の感想を聞けるってことか。ベアルダウン王国でファーマーをしてる人達なら、新鮮な食べ物には敏感だろうから、ためになる感想を聞けるよな。うーん。これがwin-winの関係というヤツだな。

「タクミも何か飲むだか?」

 そういえば…。この世界に来てから、お酒を飲んだことは無かったな。酒は弱い方だったから、気にもしてなかった。

「あっうん。普通の飲み物でいいよ。」

「分かっただ。ちょっと待つだよ。」

 タムが飲み物を取りに僕から離れた瞬間、1人の男性が僕に話しかけてきた。

「今いいですか?少しお話ししませんか?」
「はい。何かご用ですか?」
 何か用があると思って返事をするが、相手は笑っている。
「こういう所は初めてなんですか?あぁ、見学のマークなんですね。残念です。またどこかでお会いできたら、嬉しいです。」
 そう言うと、すぐに去っていく。

 なんだったんだろう?不思議に思っていると、後ろから「ぷぷっ」という笑い声が聞こえた。
「あっ!ティア!」
 タムを待っていた時に出会ったティアが、そこにいた。

「うふふっ。タクミってば。こういう場所、初めてなんだね。」

「なに?なんで笑ってるの?僕、何か変だった?」

「さっきの男の人は、タクミを誘ってたんだよ?分からなかった?」

「誘ってた?どこに?」

「ぷぷぷっ!本当に分からなかったんだ?キミのパートナーなら、分かると思うよ。聞いてみなよ。」

「ミライ、分かる?」

「あい!あの男の人はタクミを良いなと思って、誘ってきてたんだよ!」

「えっ!でも男の人だったよ。僕、女の子に間違えられたの?いやいや、いくら僕が童顔だからって、女の子には見えないよ。あの人、目が悪いのかな?」

「ぷぷぷっ!タクミは本当に面白いね。」

「タクミ、ここはエレメンテだよ。タクミの常識は非常識!この世界では、恋愛の対象は男女問わないんだよ!」

 !!!

 ってことは…。さっきの男性は、男の人が好きな人ってこと?

「いやいやいや!僕の恋愛対象は女性限定だから!無理無理無理!」
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