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イリステラ王国編
146話 主人公、恋を知るー1
しおりを挟むタムからの緊急連絡で急いでイリステラ王国に来た僕は、ドキドキしながらタムを待っていた。
「ミライ、本当にここであってる?」
「あい!イリステラ王国の出会いの街、フェンダルで一番大きな宿泊施設で待ってるってメッセージだったよ。」
「緊急って、何があったんだろう?心配だな…。」
「ここに着いたよって連絡はしてあるから、そのうち来ると思うよ。」
「そうだね、ミライ。ここで待ってたら会えるよね。」
今ここには、僕とミライしかいない。
タムから連絡をもらった僕は、リオンとシオンにイリステラ王国に行きたいとお願いした。2人はこの世界での僕の保護者だ。どこに行くにも一緒にいるようにと言われている。
ところが、「もうミライもいるし、1人でも行けるよね?」と僕とミライだけで行くように指示される。
「ソラにも言われたんだよね?もっと色々なことを学ぶようにって。僕達はここでライルを手伝っているから、タムに会いに行って、イリステラ王国を体験するといいよ。」
「そうそう。イリステラ王国には、1人で行った方がいいからね。そして色々な人との出会いを体験した方がいいよ。」
『1人で行った方がいい』の意味がよく分からないが、僕とミライを信用してくれているということだろう。
「リオン、シオン。ありがとう!手伝えなくてごめんね。」
僕は素直に感謝した。そして、この世界に来てはじめてのひとり旅として、イリステラ王国に向かったのだった。
ふぅ、それにしても…。
ミライがいるから不安はないけど、はじめての国は緊張するなぁ。
少し慣れて来た僕は、周りをキョロキョロと見回す。
「ここってすごい豪華だね。日本の高級ホテルみたいだ。一階がロビーで、二階以上が宿泊施設なんだよね?」
「あい!このイリステラ王国には、こういう宿泊施設がいっぱいあるんだよ。この国は、他の国から出会いを求めて、いっぱい人が来るからね。この国の宿泊施設には必ず案内人がいて、いろいろ相談に乗ってくれるから安心だし。」
「案内人?」
「ほら、あそこ見て!」
ミライが指し示す方向には、机を挟んで向かい合う人達がいた。
「あそこで案内人に相談することができるんだよ。」
「何を相談してるの?」
「この街は、出会いの街。どんな人と出会いたいのかを相談すると、出会える場所を教えてくれるんだよ。例えば、一夜限りの出会いが欲しい人はそういう場所を教えてくれる。」
一夜限りって…。
まだまだ子供だと思ってるミライから、そんな言葉を聞くことになるとは…。
「この世界では、普通のことだよ。早くタクミも慣れた方がいいよ。」
「そっ、そうだね…。」
なんだか複雑な気持ち。
「この街には様々な人達が集まっているから、必ず自分の好みの人と出会うことができるんだよ。例えば、ライルの好みの永遠の14歳と出会うこともできるし。」
「えっ?成人した人しかいなんいんだよね?」
「もちろん!成人前の子供に何かするのはダメだよ!見た目がそういう人が集まってるってこと。この街は、需要と供給のマッチングで成り立ってるんだよ!」
「需要と供給のマッチング?」
「例えば見た目が子供みたいな人と出会いたい場合、案内人に相談すると、出会える場所を教えてくれるんだよ。この街にはそういう人が集まってる場所があるからね。」
「ふうん。」
「って!タクミは興味無いの?彼女欲しいでしょ?」
「付き合ってみたい気持ちはあるけど、どうも僕はそういうことに向いてないんだよ。」
「どゆこと?」
ミライが首を可愛く傾げる。
「可愛い女の子がいても、可愛いなと思うだけで付き合いたいとは思わないんだ。小説とか漫画だとさ。その子を見ただけでドキドキして夜も眠れないし、常にその子のことを考えちゃうって描写が出てくるけど、僕には理解できないんだよ。」
「それはさ。まだ恋愛したことが無いからじゃない?運命の人に会えば、きっと恋に落ちるよ!」
ミライの言葉に、僕達の近くにいた女性が「ぷぷっ」と声を出して笑う。そして、微笑みながら話しかけてきた。
「その子はキミの精霊?良いこと言うね。私もそう思うよ。きっと運命の人に会えば必ずドキドキして、夜も眠れないくらいになるって。」
見た目は20歳くらいの可愛い女性だ。顔は少し童顔で、にっこり笑った表情はとても人懐こい。だが、どこか落ち着いた雰囲気もある不思議な魅力を持った女性だった。
「はじめまして。私の名前はティアだよ。キミは、この国は初めて?」
「あっ、はい。友達に呼ばれて、初めて来ました。僕の名前はタクミです。」
「タクミって名前なんだぁ。ティアはね。この国に住んでるの。運命の人に出会いたいから。でもなかなか会えないけど。」
「そうなんだ…。やっぱり、なかなか会えるものじゃないんだね。」
「ううん、そんな事ない!きっと会えるって、私は信じてるよ。だからキミの運命の人も、まだ出会えてないだけで、きっとどこかにいるよ。」
「そうかな?だといいな。」
僕はティアの目を見ながら、そう返事をする。
んっ?ティアの目って、光の具合で色が変化するんだ?綺麗な瞳だなぁ。
思わずティアの目をジッと見つめていると、後ろから不気味な声がした。
「女の子と見つめ合うなんて…。タクミはもう女の子の知り合いが出来ただか?来たばかりのはずなのに…。なんて恨めしい、じゃなかった。うらやましいんだ。」
振り向くと、血色の良さそうなタムが立っていた。
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