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マルクトール王国編
144話 主人公、歴史の闇を知るー1
しおりを挟む疲れきった顔をしているライルは、今まで見たこともないようなだらし無い格好のまま、お茶を飲みはじめる。
「やはりリオンがいれてくれるお茶が一番美味しいなぁ。」
「ってか、それ。ウサ子がいれたハーブティーだから。」
シオンがすかさず、ライルにツッコミをいれる。
「それより、いつからこの状態なの?ご飯食べてる?」
リオンが優しく声をかけると、ライルが感激で震えている。
「あぁ、リオンは最高です。好きです!付き合ってください!」
「ハイハイ。」
リオンはライルを軽くあしらうと、僕達に向かって真剣な顔をする。
「この状態はヤバイよ。かなり苦戦してるみたい。これ以上、悪化する前になんとかしないと。」
「そうだな。みんなでライルを手伝うことにしよう。1人だと気づけないこともあるかもしれないからね。」
ライルの状態を見たシオンも、リオンの意見に同意する。
「リオン、シオン。ありがとうございます…。」
ライルが感極まって、涙を浮かべている。
かなり苦戦してるっていうリオンの言葉は当たっているのだろう。ライルの情緒が少し変だ。
「けど、その前に!ライルは風呂だな!はい、こっちに来て!」
シオンがライルを引きずって連れていく。少しお風呂でゆっくりするといいよ。頭がスッキリして、いい案が浮かぶかも。
それからしばらくすると、表情が明るくなったライルが戻ってきた。
「おっ!スッキリしたようだね。じゃ、始めよっか。ライルは流浪の民の紋様がある古文書を解読してたんだよね?何をそんなに困っているのさ?」
普段通りの精神状態に戻ったライルが話し出す。
「シオン。じつは解読は出来たのですが、解読した古文書から共通の目的が掴めなかったのです。」
「流浪の民は秘密結社のような、目的を持った集団だったと推測した。だから、流浪の民の紋様がある古文書は何か目的があって書かれたに違いないと思ったんだね?」
「そうです。その痕跡を探したのですが。例えば、その時代の料理について書かれた古文書には本当にそれだけしか書いてありませんでした。何か暗号のようなものがあるのでは、と丹念に読み解いたのですが、無駄でした。」
「ライルは昔から、古文書に何かの意味を見出そうとするけど、それが間違ってるんじゃないかな?」
シオンの言葉に不思議そうな顔をするライル。それを見たリオンが言葉を続ける。
「シオンが言いたいのは、誰かが書いたものを評価するのは常に読み手だってことだよ。ライルがそう思っているだけで、それを書いた人には深い意味なんか無いのかもしれない。だから、まずは事実だけを整理してみない?」
「先日、古文書を何個か集めた時に気になってたんだよ。どれも何かの知識についての本だったから。この世界の古文書で多いのは、何かの記録だ。後世の人に残そうとしている場合は、何年にこういうことが起こってっていう感じの年表記録も多いのに。流浪の民の紋様がある古文書の中に、年表記録はあった?」
「そういえば、無いですね……。言われてみれば、何かの知識に関する書物ばかりでした。」
「じゃあ、知識に関する書物が多いってのが事実1だ。次は年代だよ。流浪の民の紋様がある古文書は、地域も年代もバラバラだ。でも共通していることがあるんじゃない?例えば、空白の歴史と呼ばれる期間のものは少ない、とかね。」
「そうですね。1000年より前は除くと、エレメンテの歴史は、大まかに3つに分類されます。今から1000年前から800年前までの空白の歴史と呼ばれる200年間。800年前から500年前までの戦争が多かった300年間。そして、500年前から現在までの期間です。」
「普通に考えると、空白の期間がもっとも少なくて、次の戦争の期間はそこそこで、紋章システムができてからはほとんどの書物は記録されるようになったから、多いはず。実際はどう?」
「はい。空白期と戦争期が多くて、紋章システムができてからの方が少ないですね。」
「じゃ、それが事実2だね。でも変だな。紋章システムができてからは、流浪の民の紋様がある本はほとんど無いってのは、どういうことだ?」
「あっ!私も気になっていたことがあるの!」
エレーナが発言する。
「先日、ザーラ神殿で見せてもらった古文書にも流浪の民の紋様があったわ。でもその内容は、1人の鍛治職人が自分の納得がいく刀を作るまでの話。試行錯誤の過程を書いた本で、彼の子孫がさらに工夫して良い刀を作るって内容なの。」
「じゃ、何世代にもわたって書かれたものってこと?」
「そう。でもその記録は500年前までなの。戦争が多かった時代だから、受け継ぐ人がいなくなったからなのかしら、と思ったのだけど。」
「受け継ぐ人がいない……。」
「「あっ!そうか!!紋章システムが出来たからだ!!」」
「リオン、シオン。どういうこと?」
「タクミ。戦争が多かったから受け継ぐ人がいなかった可能性もあるけど、一番は紋章システムが出来て、世襲が無くなったからじゃないかな?」
「なるほど!それなら、説明がつくね。流浪の民は秘密結社ではなく、世襲で成り立っていた。最初のメンバーが何人かいて、その人達の子孫が役目を引き継いだってことだね?」
「でも一体なんの役目を引き継いでいたんだ?」
すると、話をジッと聞いていたトールが、自分の考えを話しはじめる。
「リオンとシオンがソラにもらった古文書が最初だとすると、流浪の民は精霊王を祀る神官達です。その神官達は調査専門の人達を使って、世界の不思議を調べて記録していた。その調査専門の人達が流浪の民の紋様を目印として使っていたと考えると、調査が目的なのでは?」
「トール、それは違いますよ。1000年以上前の古文書にも、今のとは少し形が違いますが、流浪の民の紋様が付いたものがあるのです。」
「では、精霊王の神官達が最初の人々という考えは間違いだということですね。」
トールが沈んだ声を出す。
流浪の民の紋様がある古文書は、1000年以上前のものもあるのか…。トールくんの仮説は間違っているのか?
みんなが考え込んで、沈黙の時間がしばらく流れた後、シオンが大きな声を出した。
「いや、それだ!それだよ、ライル!流浪の民の紋様の形が違うっていうのが、事実3だよ。」
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