表裏一体

驟雨

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一話目

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「皆さんこんサク~。アイドルブイチューバーの桜サクです!」

 元気の良い挨拶から桜サクの配信は始まった。ゼットチューブのゴールデンタイム、21時きっかりに。

「今日は雑談配信~。まったりまったり行こ~」

 桜サクはバーチャル機能を駆使して、椅子と机を取り出す。椅子に座り、だらしなく机に身を預けると「ん~」と声を漏らし、今日あった事などをバラバラと話し始めた。

 桜サクが話し始めると、ゼットチューブの広場に集まったリスナー達も桜サクの周りにだらだらと腰掛け初めた。

 35000、配信に集まった人数が桜サクの斜め上に表示される。金曜日だからか、いつもより沢山の人が集まっている。

 桜サクが話をする度にリスナーの頭上に、「草」や「確かに」などのコメントが現れる。拾いこそしないが、見ているだけで安心する。

 小一時間ほど配信があり、「ではではこれで~、おつサク~」と桜サクは卵の殻のようなものに包まれる。桜サクが包まれた卵が光の粉となり、消えた頃には桜サクはリスナーには見えなくなっていた。
 
 リスナーが「おつサク~」と頭上に浮かべているのをしばらく眺め、私は首からネックフォンを外した。

 ゆっくりと目を開け、数十秒間眼前に広がる天井をじっと見つめていた。「今日は何曜日だっけ?」頭の中で考えながら、ベットから起き上がり椅子に座りながら小型バーチャル接続機、Dメガネをかける。

 『5月12日金曜日22:45』表示を確認してから、ため息をつく。あと1時間か、2時間したらおじさんが帰ってくる。おじさんは仕事の出来次第で機嫌がかなり変わる。

 仕事の出来が良い時は、少し明るい声で「ただいま」と元気よく言ってくれる。対して、仕事の出来が悪い時は何も言わずにリビングに行き、さっさと食事を取り寝てしまうのだ。更に機嫌が悪い時は玄関で殴られ、カバンを叩きつけられる。

 おじさんは、時々私の部屋に来て自分勝手に私を犯す。おもちゃ同然に扱われることもあれば、小学生が冬の水溜りにできる氷を扱うように優しく扱われることもある。

 それはおじさんの気分によって変わるもので、おじさんが私を思って優しくしているのではない。

 私は嫌な思いを振り払うように、ウイッターを開いた。机の上に手を添えて、仮想キーボードを起動する。『今日も配信来てくれてありがとー』少し考えて、『今日も足元が悪い中配信来てくれてありがとー』に書き換えて投稿する。

 投稿して数秒後、何人かのリスナーが『足元www』や『バーチャルに天気は関係ないよww』などの返信をしてくれた。自然と頬が緩んでしまう。

 私は上機嫌になり、明日の配信のサムネ作りを始めた。明日はダンス配信をする予定だ。右端にピースサインをしている桜サクを載せ、左端に『ダンス』の文字を入れる。

 タイトルを決めようと思案していると、玄関が開く音が聞こえ私は一瞬ビクッとしてしまう。数秒後「ただいま」の元気の良い声が聞こえ、ほっと一安心した。

 私は部屋を出で行き、階段をおりた。おじさんに「お帰りなさい」と随分と上手くなった愛想笑いを浮かべる。「ただいま」と笑みを浮かべたおじさんは「今日は起きておけよ」と耳元で囁きながら通り過ぎる。

 顔を前に向けたまま精一杯首を縦に振り「うん」と絞り出した声は、リビングに入って3Dテレビをつけたおじさんには聞こえていなかった。

 愛想笑いが解け全身に入れていた力が抜けた私は、そのまま風呂場に向かいシャワーを浴びる。また汚れる、また汚れる、また汚れる、また汚れる。シャワーを浴びているはずなのに、どんどん汚くなっている。

 ふと鏡を見ると、自分の体が性器の部分から徐々に黒ずむ。黒ずんだ場所は黒みを増していき、真っ黒になっていく。やがて顔すらも真っ黒になるが、胸の真ん中だけは肌色のままだ。

 ここには桜サクがいる。そう思うだけで私は生きていける。ここにあるのは桜サクであり私の光。そして夢で希望で生きがいなのだ。

 思わず涙が出そうになる。「う、うぅぅ…」下を向いて目頭を押さえていると、急に風呂場の扉がノックされる。

「空、まだ入ってるか?お父さんも一緒に入っていいか?」

 おじさんの上機嫌な声が聞こえ思わず背筋がゾッとする。私は一度顔をシャワーで流し覚悟を決めた。「いいよ」とおじさんからは見えやしないのに笑顔で返した。

 ゴソゴソと服を脱ぐ音が聞こえ、おじさんはお風呂場に入ってきた。中背中肉の体に悍ましいものがついている。目に入るだけで心底嫌気がしたが、少しも気を緩めず表情に出さないようにした。

「空、お前また成長したな。俺が背中流してやろう」

 おじさんはいやらしい目つきで私をじっくりと見た。楽しそうにボディソープを手に取り、クチュクチュと手で泡立てる。そして、上から下に撫でるように背中を洗い始めた。

 きっと今もいやらしい目つきをしているに違いない。寒気がする、さらに背中が汚れていくような気がした。

 おじさんは徐々に、背中からお腹の方に手を回してきた。お腹から上がっていき、私の胸をゆっくりと撫でる。

 吐き気を催し、口を抑える。こんなに拒否反応が出たのは久しぶりだ。おじさんには悟られまいと、なんとか吐瀉物を胃に押し込み声を抑えように「あっ」声を出す。

「我慢しなくていいんだよ」

 耳元でおじさんが囁く。また寒気がしたが気にせずに首を縦に振った。

 後ろから右肩を抱くように押され、体が180度回転する。そのまま唇を重ねられ、舌を入れられる。なすがままされて息が詰まる。「うっ」声を出すと、おじさんは嬉しそうに口の中をかき混ぜた。

 ほとんど息ができなくなり、酸素を求め顔を後ろにさげる。しかしおじさんは口を離すわけもなく、どんどん息ができなくなる。

 酸欠になり、手足の感覚が徐々に無くなり始めた頃おじさんはやっと口を離した。薄気味悪く笑うおじさんの顔は、いつまで経っても恐怖心を拭えない。

 顔に恐怖していると、右手を掴まれた。そのまま、おじさんの悍ましいものを握らされる。ボディーソープを集め少し硬くなったものを擦りながら、いつものセリフを言う。

「どう?けいすけ、気持ちいい?」

「うん気持ちいいよ、空」

 甘い声に愛想笑いが崩れそうになる。下を向いて集中するふりをし、一層速く手を動かした。最初よりも随分硬くなったところで、おじさんの手で止められた。

 おじさんはシャワーをつかみ、悍ましいものについた泡を洗い流す。

「いいよ」

 つまり、舐めろと言うことだろう。仕方なく口で悍ましいものを包み込む。何度も出し入れしたり、舌を使って先端を舐めたりする。

 舐めている間はいい。愛想笑いも感じている演技も、しなくていいのだから。丁度吐き気も収まってきた頃合いだ。だんだんなにも感じなくなってきた所に、おじさんから静止が入った。

 口を離して、唾と飲みながら立ち上がった。これで最後だ。そう想うだけで、立ち上がれる。

 おじさんは、また悍ましいものにボディーソープを塗り、一気に私の中に挿れた。

 挿れたれた瞬間、わざとらしく喘ぎ声を出す。おじさんが動くのに合わせて、喘ぎ声を大きくする。どんどん自分の出す喘ぎ声が、遠くなっていく。喘いでいるのが自分じゃなくなって行く。気が遠くなっていく。終わりに向けてどんどん感覚が内側になっていく。

 終わりは一瞬だった。おじさんの動きが速くなり、ゆっくりと名残惜しそうに止まった。おじさんの疲れた表情と大きく上下する肺に、密かな達成感が湧き上がる。

 おじさんはなにも言わずにシャワーを浴び始めた。邪魔にならないように、浴槽で体育座りをして私の番を待った。終始無言でシャワーを浴びたおじさんは、そのまま体を拭き寝室に消えていった。

 私は、しばらくそのまま体育座りを続けていたが「クシュン」と一回くしゃみが出たのをきっかけに、シャワーを浴びて風呂を後にした。

 自分の部屋に帰った後は避妊用の錠剤を飲み、明日の配信のタイトルを決めようと椅子に座る。Dメガネを起動したところで、急激に眠くなって行き、結局その日は机で寝てしまった。
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