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第79話 1554年(天文二十三年)6月 周防 其の三
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戸田湊に毛利の軍勢が上陸する。その一番手は備中松山城城主、三村紀伊守家親。
家親に毛利の世鬼衆が知らせをもたらす。
「陶の軍勢一万余騎、夜市にて尼子軍を囲むも攻めあぐねております」
「かたじけない。直ぐに陶を討ちに参る所存。御屋形様と大殿に伝えて下され」
入れ替わりに毛利隆元からの伝令がやってきた。
「急ぎ陶の背後を突くべし。好機を逃すでないとのこと」
「相わかった。御屋形様に良しなにお伝え下され。船を降りた者からそのままついてまいれ!」
三村軍はすぐに進軍できるような態勢を整え船に乗っていた。降りたそばからすぐに進軍を始める。戸田湊から陶と尼子の戦場まで距離にして一里と二町。四分の一刻後には三村兵二千は陶軍を捉えた。とても速い!
「見えたぞ!全軍突撃ー!!」
三村家親は吠えた。今まで毛利と尼子の戦いの中でなんとか生き残り備中をほぼ掌握した。しかしその二家の大名は今や中国地方を二分し、お互いに利を求め結びつき、己の野望を満たすため動き出している。儂はどうなのだ。備中一国かろうじて纏めたに過ぎん。足りぬ、足りぬぞ。この戦を足がかりとして三村の版図を拡げるのだ!
溜まりに溜まった鬱憤、憤怒、焦りを目の前に陣取る陶晴賢に全てぶつけるべく三村家親は先頭を切って走っていった。
「尾張守様、まだでございます。しっかりと周りを囲み押していけば尼子を潰すこと、可能でございます」
近習の柿並隆正が必死になって動かぬ陶に声を掛ける。伊香賀房明も同じく懸命に話しかける。
近習の声を聞いていたのか、聞こえていなかったのか。陶の頭はゆっくりと動き出した。
須々万沼城の陥落。これが一番効いた。あり得ない。何故だ。このままでは毛利がやってくる。どうする。若山城で籠城し跳ね返すか。いや、山口まで戻り軍を再編後、改めて毛利に対峙するか。目の前に陣取る尼子をどうする、ほうっておくか…
世は無情であり無常でもある。陶晴賢の命運を断ち切ろうとする者が西から現れた。
「申し上げます!西より軍勢が、備中の三村家親が向かってきます!!城へお戻りください!!」
備中の三村だと…ははっ、そうか。そうなのか。元就がやってきたか。ついに元就が…
尋常ならざる快速で陶晴賢の軍勢に突撃した三村軍は陶の中央の軍をかち割り、一気に本陣に迫った。
「急げ。殿をお守りしろ。城に引くのじゃ!」
近習たちが必死に体を張り三村兵を食い止める。弘中隆包は新手の尼子に手一杯で本陣に向かう余裕などない。青景隆著が本陣に向かおううとしたが、八幡宮に陣取る尼子兵から連弩と鉄砲をうけ、崩れていく。そのうち尼子兵が八幡宮から降りてきて、さらに猛烈な射撃を浴びせかけてきた。混乱が極みに達し‥爆ぜた。青景隆著が率いた軍勢は若山城に向けて潰走を始めた。
中央に位置していた陶の軍は三村の一撃を受け何もできずただ討ち取られるばかりであったが、やっと動き出した。というよりは逃げ出した。青景旗下の軍勢が潰走するのに釣られるように若山城に逃げていく。その波になんとか乗り陶晴賢と近習たちも逃げていく。後ろから三村軍が追いかけてくる。捕まってはならない。
続々と戸田湊に毛利軍が上陸する。毛利隆元は逐次世鬼からの報告を受けている。
「よし、若山城に向けて進軍する。今日が陶晴賢の最後の日ぞ!」
上陸済みの五千の兵を率いて若山城に向かう。夜市に着いたとき尼子軍が陶の軍勢を包囲していた。そこに隆元は向かった。
「出雲守殿、大丈夫でござるか」
「毛利殿、尼子は大丈夫です」
「それは僥倖。してあの陶軍の将は誰ですか」
「弘中隆包殿とご子息です」
義久は陶本隊が崩れさっても統率を保ち、抵抗を行う弘中隊に対して、遠巻きに包囲を行い攻めかかるのを止めていた。
「出雲守殿、大殿がこられるまでこのまま待っていただくことは可能でござるか」
隆元が義久に問うた。
「分かりました。弘中殿は右馬頭殿にお願いいたします」
「かたじけない。では某は若山城に進みます」
「御武運を」
隆元はその場を離れ城へ向かっていった。
三村家親は敗走する陶軍を薙ぎ倒しながら若山城に向かう。しかし陶軍の大混乱が三村軍の速度を減衰させた。そして陶晴賢は若山城にたどり着いた。城にはどんどん逃げてきた兵たちが入ってくる。
「父上、ご無事でしたか!」
城を守っていた息子の陶長房が駆け寄ってくる。
「早く父上を中にお通ししろ。毛利が来る前に城門を閉めるのだ!!」
陶晴賢は柿並隆正と伊香賀房明に両脇を抱えられ力なく城の中に入っていった。
「ええい、邪魔だ、どけーぃ!」
陶長房の怒号が飛び、程なくして城門が閉められる。逃げてきた陶軍の足軽たちは城門前で右往左往するばかり。そのうち迫る三村軍を見て城を捨てさらに東へと逃げていく者たちが増える。
若山城の主郭の城主の部屋に辿り着いた陶晴賢は、まだ正気に戻っていなかった。頭は普段の三分の一程しか動いていない。思考能力がガタ落ちだ。柿並隆正が水を持ってきた。グイと飲み干す。器を差し出しもう一杯要求する。新たに運ばれてきた水をまた飲み干し、フーっと息を吐いた。
「城内には如何ほど兵がおるのだ」
「長房様の兵千と逃れてきた兵が二百ほどでしょうか」
「…外の様子は」
「三村兵が城に取り付こうとしています。城門は閉まっております」
「三村だけか、来ているのは」
「申し訳ございません。把握できておりません」
「そうか…」
陶晴賢はだいぶ動くようになった頭で考えた。このままでは討ち取られる。三村の後ろから毛利本隊が来るのは明白。須々万沼城からも毛利がやってくる。城を抜け若山を北東に向かい小畑を経て津浦ケ峠を越えるか…それしか道がなさそうだ。
「よいか、城を抜け山口に戻る。足軽の装備を持ってくるのだ。着替えるぞ」
「はっ」
近習二人が立ち上がり部屋を出ようとしたとき、扉が勢いよく開いた。
そこに立つのは内藤隆春と十名以上の鎧武者。柿並隆正が声を上げる。
「隆春、何用だ」
内藤家当主、内藤隆世は主君大内義長を守るため山口に残っている。今回の戦いに参加しようと内藤隆春は百程の人数を率いて、陶の下に駆けつけた。陶は参陣を許した。その隆春がここに現れたということは…
「逆臣、陶晴賢!お命頂戴いたす!!」
その声を合図に鎧武者が一斉に走り出す。近習二人は身を投げ出すも、武者に囲まれすぐに事切れた。陶晴賢の前に内藤隆春がやってきた。
「武士の情け。ご自身で腹を召されよ。介錯つかまつる」
ここまでか。
『何を惜しみ 何を恨みん 元よりも この有様に 定まれる身に』
辞世の句を読み、陶晴賢は切腹した。
息子の陶長房も討ち取られた。
やってきた毛利隆元に内藤隆春は陶親子の首を差し出した。
「よくやった、内藤殿。引き続きよろしく頼むぞ」
「ははっー!」
天文二十三年六月十日。若山城は陥落し、陶晴賢は毛利に内通した内藤隆春に若山城内で討たれた。
回りを囲む尼子兵。尼子がその気になれば即座に全滅させられるであろう。あの連弩と鉄砲が一斉に放たれれば、成すすべはない。しかし尼子兵にそのような素振りはなかった。
どれくらい時がたったであろうか。囲みの一部が割れてその中を一人の武将が歩いてくる。見知った歩き方だ。弘中隆包はやはりそうかと思い、自身もその武将に向かって歩き出した。
「父上!」
叫ぶ息子を制してそのまま真っ直ぐに歩いていく。毛利元就を目指して。
「弘中殿。貴殿はもう十分戦われた。ここらで鉾を収めてくれんじゃろうか」
元就は穏やかな口調で話しかけた。隆包も落ち着いた声で答える。
「毛利殿、あいも変わらず見事な戦。感服いたしました。拙者の未熟さを思い知りましたぞ」
「なにをおっしゃるか。この段になっても一糸乱れぬ軍勢、並の軍ではありませぬ。まだまだこの世で成すべきことがあると、拙者は思いますぞ」
「いや、主君に従うことが武士の本分。最後まで全うしたいと思います」
元就はしばし無言になった。
「弘中殿。拙者は生き抜くことこそが武士の本分だと思っております。主君に尽くすも大事ですが生き残らなければそれもできますまい。朝倉宗滴は『武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候』と言ったそうですが儂も似たような考えです。それに陶殿はなぜ御屋形様を討たれたのか。御屋形様は何をしようとしていたのか、弘中殿はご存知でしょう」
隆包はこの戦の大元の始まり、大寧寺の変を思い出していた。御屋形様の意志、陶殿の考え…
「それらには畿内の考えが深く関わっておる。なぜに儂らが畿内の都合で争わねばならんのか。そのような目に合わぬためにも、儂は強く生き抜くことが必要と思うております」
隆包は目を瞑ったまま頭を上げた。この戦、勝ち目は薄かった。そのとおり戦に負けた。負けると分っている戦になぜなったのだ…自分は納得して、心置きなく戦に臨んでいたのか。。毛利殿はそもそも見ているものが違う。性根が違うのだ。
そのことに気づいた隆包は目を開け、元就を見た。
「毛利殿、少しわかりました。某も武士についてさらに考えてみようかと思います」
「儂もまだまだ考えることがあります。できれば共に考えていきましょうぞ」
「そうですな…」
弘中隆包は戦うことをやめた。尼子兵は囲みをとき毛利軍と弘中軍は若山城に向かう。その後ろを尼子軍が続いた。
周防国は毛利の領国になり、毛利はすかさず長門侵攻を行う。
家親に毛利の世鬼衆が知らせをもたらす。
「陶の軍勢一万余騎、夜市にて尼子軍を囲むも攻めあぐねております」
「かたじけない。直ぐに陶を討ちに参る所存。御屋形様と大殿に伝えて下され」
入れ替わりに毛利隆元からの伝令がやってきた。
「急ぎ陶の背後を突くべし。好機を逃すでないとのこと」
「相わかった。御屋形様に良しなにお伝え下され。船を降りた者からそのままついてまいれ!」
三村軍はすぐに進軍できるような態勢を整え船に乗っていた。降りたそばからすぐに進軍を始める。戸田湊から陶と尼子の戦場まで距離にして一里と二町。四分の一刻後には三村兵二千は陶軍を捉えた。とても速い!
「見えたぞ!全軍突撃ー!!」
三村家親は吠えた。今まで毛利と尼子の戦いの中でなんとか生き残り備中をほぼ掌握した。しかしその二家の大名は今や中国地方を二分し、お互いに利を求め結びつき、己の野望を満たすため動き出している。儂はどうなのだ。備中一国かろうじて纏めたに過ぎん。足りぬ、足りぬぞ。この戦を足がかりとして三村の版図を拡げるのだ!
溜まりに溜まった鬱憤、憤怒、焦りを目の前に陣取る陶晴賢に全てぶつけるべく三村家親は先頭を切って走っていった。
「尾張守様、まだでございます。しっかりと周りを囲み押していけば尼子を潰すこと、可能でございます」
近習の柿並隆正が必死になって動かぬ陶に声を掛ける。伊香賀房明も同じく懸命に話しかける。
近習の声を聞いていたのか、聞こえていなかったのか。陶の頭はゆっくりと動き出した。
須々万沼城の陥落。これが一番効いた。あり得ない。何故だ。このままでは毛利がやってくる。どうする。若山城で籠城し跳ね返すか。いや、山口まで戻り軍を再編後、改めて毛利に対峙するか。目の前に陣取る尼子をどうする、ほうっておくか…
世は無情であり無常でもある。陶晴賢の命運を断ち切ろうとする者が西から現れた。
「申し上げます!西より軍勢が、備中の三村家親が向かってきます!!城へお戻りください!!」
備中の三村だと…ははっ、そうか。そうなのか。元就がやってきたか。ついに元就が…
尋常ならざる快速で陶晴賢の軍勢に突撃した三村軍は陶の中央の軍をかち割り、一気に本陣に迫った。
「急げ。殿をお守りしろ。城に引くのじゃ!」
近習たちが必死に体を張り三村兵を食い止める。弘中隆包は新手の尼子に手一杯で本陣に向かう余裕などない。青景隆著が本陣に向かおううとしたが、八幡宮に陣取る尼子兵から連弩と鉄砲をうけ、崩れていく。そのうち尼子兵が八幡宮から降りてきて、さらに猛烈な射撃を浴びせかけてきた。混乱が極みに達し‥爆ぜた。青景隆著が率いた軍勢は若山城に向けて潰走を始めた。
中央に位置していた陶の軍は三村の一撃を受け何もできずただ討ち取られるばかりであったが、やっと動き出した。というよりは逃げ出した。青景旗下の軍勢が潰走するのに釣られるように若山城に逃げていく。その波になんとか乗り陶晴賢と近習たちも逃げていく。後ろから三村軍が追いかけてくる。捕まってはならない。
続々と戸田湊に毛利軍が上陸する。毛利隆元は逐次世鬼からの報告を受けている。
「よし、若山城に向けて進軍する。今日が陶晴賢の最後の日ぞ!」
上陸済みの五千の兵を率いて若山城に向かう。夜市に着いたとき尼子軍が陶の軍勢を包囲していた。そこに隆元は向かった。
「出雲守殿、大丈夫でござるか」
「毛利殿、尼子は大丈夫です」
「それは僥倖。してあの陶軍の将は誰ですか」
「弘中隆包殿とご子息です」
義久は陶本隊が崩れさっても統率を保ち、抵抗を行う弘中隊に対して、遠巻きに包囲を行い攻めかかるのを止めていた。
「出雲守殿、大殿がこられるまでこのまま待っていただくことは可能でござるか」
隆元が義久に問うた。
「分かりました。弘中殿は右馬頭殿にお願いいたします」
「かたじけない。では某は若山城に進みます」
「御武運を」
隆元はその場を離れ城へ向かっていった。
三村家親は敗走する陶軍を薙ぎ倒しながら若山城に向かう。しかし陶軍の大混乱が三村軍の速度を減衰させた。そして陶晴賢は若山城にたどり着いた。城にはどんどん逃げてきた兵たちが入ってくる。
「父上、ご無事でしたか!」
城を守っていた息子の陶長房が駆け寄ってくる。
「早く父上を中にお通ししろ。毛利が来る前に城門を閉めるのだ!!」
陶晴賢は柿並隆正と伊香賀房明に両脇を抱えられ力なく城の中に入っていった。
「ええい、邪魔だ、どけーぃ!」
陶長房の怒号が飛び、程なくして城門が閉められる。逃げてきた陶軍の足軽たちは城門前で右往左往するばかり。そのうち迫る三村軍を見て城を捨てさらに東へと逃げていく者たちが増える。
若山城の主郭の城主の部屋に辿り着いた陶晴賢は、まだ正気に戻っていなかった。頭は普段の三分の一程しか動いていない。思考能力がガタ落ちだ。柿並隆正が水を持ってきた。グイと飲み干す。器を差し出しもう一杯要求する。新たに運ばれてきた水をまた飲み干し、フーっと息を吐いた。
「城内には如何ほど兵がおるのだ」
「長房様の兵千と逃れてきた兵が二百ほどでしょうか」
「…外の様子は」
「三村兵が城に取り付こうとしています。城門は閉まっております」
「三村だけか、来ているのは」
「申し訳ございません。把握できておりません」
「そうか…」
陶晴賢はだいぶ動くようになった頭で考えた。このままでは討ち取られる。三村の後ろから毛利本隊が来るのは明白。須々万沼城からも毛利がやってくる。城を抜け若山を北東に向かい小畑を経て津浦ケ峠を越えるか…それしか道がなさそうだ。
「よいか、城を抜け山口に戻る。足軽の装備を持ってくるのだ。着替えるぞ」
「はっ」
近習二人が立ち上がり部屋を出ようとしたとき、扉が勢いよく開いた。
そこに立つのは内藤隆春と十名以上の鎧武者。柿並隆正が声を上げる。
「隆春、何用だ」
内藤家当主、内藤隆世は主君大内義長を守るため山口に残っている。今回の戦いに参加しようと内藤隆春は百程の人数を率いて、陶の下に駆けつけた。陶は参陣を許した。その隆春がここに現れたということは…
「逆臣、陶晴賢!お命頂戴いたす!!」
その声を合図に鎧武者が一斉に走り出す。近習二人は身を投げ出すも、武者に囲まれすぐに事切れた。陶晴賢の前に内藤隆春がやってきた。
「武士の情け。ご自身で腹を召されよ。介錯つかまつる」
ここまでか。
『何を惜しみ 何を恨みん 元よりも この有様に 定まれる身に』
辞世の句を読み、陶晴賢は切腹した。
息子の陶長房も討ち取られた。
やってきた毛利隆元に内藤隆春は陶親子の首を差し出した。
「よくやった、内藤殿。引き続きよろしく頼むぞ」
「ははっー!」
天文二十三年六月十日。若山城は陥落し、陶晴賢は毛利に内通した内藤隆春に若山城内で討たれた。
回りを囲む尼子兵。尼子がその気になれば即座に全滅させられるであろう。あの連弩と鉄砲が一斉に放たれれば、成すすべはない。しかし尼子兵にそのような素振りはなかった。
どれくらい時がたったであろうか。囲みの一部が割れてその中を一人の武将が歩いてくる。見知った歩き方だ。弘中隆包はやはりそうかと思い、自身もその武将に向かって歩き出した。
「父上!」
叫ぶ息子を制してそのまま真っ直ぐに歩いていく。毛利元就を目指して。
「弘中殿。貴殿はもう十分戦われた。ここらで鉾を収めてくれんじゃろうか」
元就は穏やかな口調で話しかけた。隆包も落ち着いた声で答える。
「毛利殿、あいも変わらず見事な戦。感服いたしました。拙者の未熟さを思い知りましたぞ」
「なにをおっしゃるか。この段になっても一糸乱れぬ軍勢、並の軍ではありませぬ。まだまだこの世で成すべきことがあると、拙者は思いますぞ」
「いや、主君に従うことが武士の本分。最後まで全うしたいと思います」
元就はしばし無言になった。
「弘中殿。拙者は生き抜くことこそが武士の本分だと思っております。主君に尽くすも大事ですが生き残らなければそれもできますまい。朝倉宗滴は『武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候』と言ったそうですが儂も似たような考えです。それに陶殿はなぜ御屋形様を討たれたのか。御屋形様は何をしようとしていたのか、弘中殿はご存知でしょう」
隆包はこの戦の大元の始まり、大寧寺の変を思い出していた。御屋形様の意志、陶殿の考え…
「それらには畿内の考えが深く関わっておる。なぜに儂らが畿内の都合で争わねばならんのか。そのような目に合わぬためにも、儂は強く生き抜くことが必要と思うております」
隆包は目を瞑ったまま頭を上げた。この戦、勝ち目は薄かった。そのとおり戦に負けた。負けると分っている戦になぜなったのだ…自分は納得して、心置きなく戦に臨んでいたのか。。毛利殿はそもそも見ているものが違う。性根が違うのだ。
そのことに気づいた隆包は目を開け、元就を見た。
「毛利殿、少しわかりました。某も武士についてさらに考えてみようかと思います」
「儂もまだまだ考えることがあります。できれば共に考えていきましょうぞ」
「そうですな…」
弘中隆包は戦うことをやめた。尼子兵は囲みをとき毛利軍と弘中軍は若山城に向かう。その後ろを尼子軍が続いた。
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