偽典尼子軍記

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第48話  1547年(天文十六年)12月 出雲領内 いろいろ

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 ■12月3日 温泉津
 いやー日本海、いや出雲灘から吹きつける風がキツイこと、寒いこと。旅行に行った北海道では風邪を引かず出雲に帰ってきたら風邪を引いた親戚がいたが、出雲は寒いな。特に風だ。斐川平野で築地松ついじまつができたのも頷ける。
 故に、温まるため温泉が必要なのだ。銀山の過酷な労働で疲れ切った身体と心を癒す温泉街が必要なのだ!
 同時に温泉津の湊を整備して銀の積み出し量を増やす。大森一帯の開発の責任者は米原にして小笠原長雄を与力につける。
 源泉は今は一つだが近くにもう一つ湧くのでそこも掘らせる。銀山近くには鉱夫の居住区を整備し、銀山全体的に鉛毒を出来るだけ防げるような仕組みを作っていく。坑夫は三十歳まで生きることができれば赤飯を炊いてお祝いをしたという。なるべく寿命をのばす、そのための福利厚生を充実させていこう。開発もすすめて新しい間歩まぶ(坑道)も見つけていこう。

 ■12月10日 杵築
 坪内に頼んでいた蕎麦職人が信州からやって来た。早速杵築で蕎麦をつくる。杵築詣でにくる人々を饗す『釜揚げ蕎麦』だ。転生前の世界では出雲は釜揚げ、松江は割子と蕎麦の趣が違っていた。俺はどっちも好きだ。この世界ではまだ松江近辺の開発がされてないので杵築で両方作っていく。
 おー黒いそばだよ。やっぱ出雲そばは黒色だね。駅のホームで売っていた出雲そばが懐かしい。今日は菊も一緒だ。菊も食べる。
「三郎様、とても美味しゅうございます!」
 よっしゃー女子のお墨付きもらった。あとで割子も食べよう。よし、杵築名物、出雲そば誕生!

 ■12月12日 杵築
 坪内と楽市について話し合いをする。
「三郎様、杵築の楽市を始めた当初に比べてやってくる商人が三倍ほどになっております。今行っているのは五日市でございますが、来年四月からは三日市にする予定でございます。増え方で行きますと石見からの商人が一番増えておりまして、次に伯耆、因幡となります。数は少ないですが備後からも出入りはあります」
「そうか、今後伯耆商人は坪内のもとに吸収してほしいな。そして次は美作だ。美作も坪内が押さえてくれ。尼子領内の商いは坪内が筆頭となればいいと思っている」
「ありがたきお言葉。これからもしっかりと励まさせていただきます」
「うむ、これからのことで大事なことがある。塩冶、今市、大津を一つにして新しき町をつくる。杵築は少し狭いのでな。大内の山口以上の町にしたいと思っている」
「おお。それはなんという!」
「尼子の威信を知らしめる町だ。もちろん暮らす民が喜び、誰もが住みたいと思う町を作る。それとだ、銭を作る。明から持ってきている渡来銭もまだ使うが、いずれは尼子領内では尼子が作る銭が、主な銭となるようにする」
「三郎様、お話しがとてつもなく…」
「今すぐとはいかんからな。だがこれを目指して国を作っていくのだ。坪内、頼りにしてるぞ」
「はっ、ははーっ」
「話はかわるが、平田の新田で木綿を育てるとおもうが、責任者は誰だ」
「佐渡惣右衛門と申すものでございます。なかなか目端の利く者でございます」
 いやーいたよ。言ってみるもんだな。
「そいつに会いたいな。いつ連れてこれる?」
「明日にでも、連れてこれまする」
「よしっ。明日頼むぞ」
 次の日坪内が佐渡を連れてきた。今日は本田と菊と三刀屋を同席させている。
「佐渡惣右衛門と申します。若様直々のお呼び出し、恐悦至極にございます」
 頭を低く下げる惣右衛門は結構緊張している。
「うむ、そなたに聞きたいことがあってな。坪内と共に杵築での商いを上手く行っていると聞く。今は木綿の栽培と商いを担当しているのだな」
「はい。左様でございます」
「今後どのように進めていくのか考えはあるのか」
「はい、平田を木綿の産地として諸国に知られるように大きくしようと思っております」
 そうして惣右衛門は木綿の栽培から平田の町を作るところまで自分の考えを述べた。
「惣右衛門、お主の考え気に入った。坪内、惣右衛門を助けて平田の町を整備してくれ。それに加えて俺から一つ、惣右衛門に提案があるのだが」
「おお、何でございましょうか」
「塩冶、今市、大津を一つにして新たな町を作る。如何に町割りをするか、力を貸してほしい」
「は、新たな町でございますか…!」
「そうだ。山口以上の町をこの地に作る」
「す、凄きことにございます。その町割りに私を加えてくださると…」
「惣右衛門、お主ならきっといい仕事をしてくれる。話を聞いて確信した。忙しくなるが頼むぞ」
「よ、喜んておうけいたします」
 やったね。都市造りの名人ゲット! 
「三刀屋、お主を新たなる町の普請奉行に任ずる。惣右衛門と力を合わせて成し遂げるのだ。俺も一緒にやるぞ」
「ははっ。なんとも嬉しきこと、必ずや三郎様のご期待に応えてみせましょう」
 こうして新たな町、『出雲』建設が始まった。気合入れてくぞ!!


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 北島屋敷の奥座敷に三名が車座に座っている。北島国造、千家国造、藤林である。
 口を開いたのは藤林。
「山口への帝の行幸は真であるな。大内義隆は神辺城には見向きもせず、行幸の準備に邁進している。今年戻って来る遣明船で何とか財政面は賄えるだろう」
「むう…帝が山口に行幸するのはよろしくない。大内の権威と威勢がとてつもなく高くなってしまう。そうなった暁には尼子から大内に鞍替えする必要が出るかもしれん。しかし…」
 北島国造は考えにふける。
「それは難しい舵取りをせまられるな。大内にいかに杵築が食い込めるか…動くならば直ぐにでも動かねばならん」
 千家の顔が少し厳しくなる。しかし軽く笑みを浮かべ藤林が話す。
「…その心配は無用だ。行幸は行われない。なぜなら」
 そう言って藤林は二人の国造に目を向けた。三者の視線が交差し物言わぬ会話が進む。
「は、はは謀反とな。筆頭守護代の陶隆房が。これはいかなることか、藤林よ」
「陶は莫大な財政支出を伴う帝の行幸に反対している。得るものがなく負担だけが増え今後の大内領の経営に支障が出るのを懸念している。そればかりではなく、大内家内での長年に渡って積み重ねられてきた怨嗟が陶の中で大きくなっている」
「うむ、しかしそれだけでは主君を弑逆して権力を握るまで考えが及ぶのか?」
「千家の、その下地に抗うことが難しい権威が寄り添ってきたとしたどうなる」
「権威?…もしかして畿内、幕府か」
「そうだ、死に体の幕府が意地を見せ、なんとか己の延命をはかっている。それに阿波も賛同した」
「頭ごなしに大内が天下の差配をするのは我慢ができぬか。それに京の都を捨てるなどもってのほか。日の本の中心は京であらねばならぬとな」
 北島の言に二人は頷く。京が日の本の中心だと、戯言を。我が大王をだまし討ちにした大和の末裔共が作りし都など、滅んでしまえ。
「よって行幸はなく遷都もない。あとはこれを利用し朝廷に食い込めばよいかと思う」
「目星はつけているのだろう」
「ああ、事が起こるまで引き続き監視は行っていく」
「うむ、よろしく頼むぞ。藤林の」
「我は尼子の嫡男を続けて監視しようぞ」
 千家が口を開ける。
「なにやらまたやらかしてくれそうだ。あの嫡男は面白い。これからが楽しみだ。良きかな」
 北島の言葉に二人は頷き、それぞれ立ち上がり部屋を出ていった。
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