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第21話 1547年(天文十六年)1月 吉田郡山城
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毛利元就は松の内が終わるやいなやすぐに動き出していた。まずは年末に先送りしていた書状を広げる。隆元もそれにならう。去年家督は息子に譲った。今の毛利家当主は長男の毛利隆元だ。実権はまだ元就が握り息子に帝王学叩き込み中である。隆元も真剣に学んでいる。
三男隆景の小早川家への養子入りは上手くいった。これにより小早川家は毛利の傘下に加わった。安芸をしっかりと手中に収める作戦は上手くいっている。毛利が戦国乱世を生き延びる為、今は力を蓄えることが肝要だ。大内の配下にあり力を借りることは出来るが、それではいつまで経っても属国のままだ。下手をすれば使い潰される。尼子と敵対して数年経つがまだ毛利単独で尼子と戦える力は無い。これからの数年どこまで力を付けることが出来るかが毛利の未来を決める。
書状の山が低くなって来た頃、小姓が一通の文を持ってきた。元就はすぐさま封を開き文を読んだ。送り主は和田坊栄芸。鍔淵寺と杵築、尼子との間に起こっている異変を伝えてきた。読み終えた文を隆元に渡す。隆元は読み続けていくうちに、ますます文から目が離せなくなっていった。
「父上、このようなことが…和田坊殿はどうされるおつもりでしょうか」
元就は短く答える。
「強訴じゃ」
「な、強訴ですと!誰に向かって行うのですか」
「杵築と尼子じゃ。文を読んだであろう」
「し、しかし強訴とは。尼子はともかく、寺が神社を訴えましょうや。仏が神と争うなど聞いたこともありませぬ」
「寺同士でも争い合うのだ。寺と神社が争ってなにが不思議か。八百万の神は仏の写し身ぞ」
そういって内心この息子まだまだだのう、と軽くため息をつく。
「隆元よ。この強訴が起きるとして毛利はいかにすべきじゃ」
元就は息子に問う。師匠が情け容赦なく弟子を鍛えるように。
「…尼子が混乱するのは毛利にとって利なれば、ここは静観し事の成り行きを見守るのが良いかと」
「ほかには?」
「安芸掌握の予定を早めること可能かもしれませぬ」
間違ってはいない。だがもの足りん。出来る出来ないは別として、まずは多様な策を思い付けねばならぬ。
「隆元、少し遊んでみるか」
「は?誰とでございますか」
「たわけ。もちろん尼子とじゃ」
元就は立ち上がり小姓を呼び茶を二つ用意させた。
「此度の件、我らになんの不利益もなく利しかない。ならば利を更に増やすように動くが肝要じゃ。ちいと扇いでやれば良い。後は勝手に燃え広がろうぞ」
「どの様に扇ぐのでございますか」
「大内に逃げ込んだ尼子の一門がおろう。強訴の件、教えてやればいかにするかのう…」
元就は顔色一つ動かさず、ゆっくりと茶を飲んだ。
「あーなるほど。では早速御屋形さまに文を」
「まてい!いきなり御屋形様に文を書いてなんとする。もう少し頭を使わんか!」
あー、こやつは。まだまだしごきまくらなアカンわい。
元就は困った顔を一瞬浮かべた後隆元に策を授けるべく向き直った。
三男隆景の小早川家への養子入りは上手くいった。これにより小早川家は毛利の傘下に加わった。安芸をしっかりと手中に収める作戦は上手くいっている。毛利が戦国乱世を生き延びる為、今は力を蓄えることが肝要だ。大内の配下にあり力を借りることは出来るが、それではいつまで経っても属国のままだ。下手をすれば使い潰される。尼子と敵対して数年経つがまだ毛利単独で尼子と戦える力は無い。これからの数年どこまで力を付けることが出来るかが毛利の未来を決める。
書状の山が低くなって来た頃、小姓が一通の文を持ってきた。元就はすぐさま封を開き文を読んだ。送り主は和田坊栄芸。鍔淵寺と杵築、尼子との間に起こっている異変を伝えてきた。読み終えた文を隆元に渡す。隆元は読み続けていくうちに、ますます文から目が離せなくなっていった。
「父上、このようなことが…和田坊殿はどうされるおつもりでしょうか」
元就は短く答える。
「強訴じゃ」
「な、強訴ですと!誰に向かって行うのですか」
「杵築と尼子じゃ。文を読んだであろう」
「し、しかし強訴とは。尼子はともかく、寺が神社を訴えましょうや。仏が神と争うなど聞いたこともありませぬ」
「寺同士でも争い合うのだ。寺と神社が争ってなにが不思議か。八百万の神は仏の写し身ぞ」
そういって内心この息子まだまだだのう、と軽くため息をつく。
「隆元よ。この強訴が起きるとして毛利はいかにすべきじゃ」
元就は息子に問う。師匠が情け容赦なく弟子を鍛えるように。
「…尼子が混乱するのは毛利にとって利なれば、ここは静観し事の成り行きを見守るのが良いかと」
「ほかには?」
「安芸掌握の予定を早めること可能かもしれませぬ」
間違ってはいない。だがもの足りん。出来る出来ないは別として、まずは多様な策を思い付けねばならぬ。
「隆元、少し遊んでみるか」
「は?誰とでございますか」
「たわけ。もちろん尼子とじゃ」
元就は立ち上がり小姓を呼び茶を二つ用意させた。
「此度の件、我らになんの不利益もなく利しかない。ならば利を更に増やすように動くが肝要じゃ。ちいと扇いでやれば良い。後は勝手に燃え広がろうぞ」
「どの様に扇ぐのでございますか」
「大内に逃げ込んだ尼子の一門がおろう。強訴の件、教えてやればいかにするかのう…」
元就は顔色一つ動かさず、ゆっくりと茶を飲んだ。
「あーなるほど。では早速御屋形さまに文を」
「まてい!いきなり御屋形様に文を書いてなんとする。もう少し頭を使わんか!」
あー、こやつは。まだまだしごきまくらなアカンわい。
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