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2話 ストーカー、覚醒する。2
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それ以来、吉崎 拓哉はライフワークのように珠里亜、いや、ジュリアを観察するようになった。
はじめは郵便受けだった。
吉崎 拓哉が住むマンションは、単身世帯用の中古の6階建てで、エントランスの壁に6階✕6部屋、計36部屋分の郵便受けが整然と並んでいる。
コンビニのシフトは夜ばかりなので、帰るのは早朝だ。
会社や学校に向かう住人たちと会うのに気後れを感じる吉崎 拓哉は、いつも彼らの通勤、通学時間のラッシュを外して帰宅している。
そう、吉崎 拓哉がエントランスにいるのは、常日頃からいつでも周りに人がいないタイミングなのである。
出来心だった。
自分の303号室の郵便受けに指を突っ込み、ゴミとしか思えないチラシの束を取り出し、ふと隣の郵便受けを見た。
302号室。
気安く挨拶をくれた彼女は、明るい茶色の髪が顔の周りでふわふわしていた。
見たい。
辺りをきょろきょろと見回し、自分の周りに人がいないことを何度も確認して、ごくりと生唾を飲み込む。
冷静に、そう、あたかもそこが自分の郵便受けであるかのように振る舞わなければいけない。
もしも誰かに見つかるようなことがあれば、……そう、間違えた、間違えたんだ。
誰にともなくそんなことを何度も言い聞かせ、緊張しながら震える指で名札もついていないその郵便受けに手をかける。
そ、と蓋を持ち上げると、中には自分のところと同じチラシの束が入っていた。
これがいけなかった。
それからというもの吉崎 拓哉は、頻繁に隣の郵便受けを覗くようになった。
いつも必ず周りに人がいないことを慎重に確認し、302号室の郵便受けを覗く。
来る日も来る日も入っているのはチラシだけだが、時たま運悪く住人とすれ違うことがあれば、吉崎 拓哉は盛大に舌打ちしたくなるのを必死に堪えながらその日は諦め、エレベーターを通り過ぎ外階段に向かう。
吉崎 拓哉はマンションのエレベーターを好まなかった。
赤の他人の住人と偶然にでも乗り合わせてしまえば、居心地の悪さは火を見るよりも明らかだからだ。
3階なら許容範囲だ。吉崎 拓哉は日常的に外階段を使って生活している。
2週間もそうやって報われない緊張の朝を繰り返していた時だったか。
報われない緊張がついに報われる瞬間がやってきた。
いつものように先に自分の郵便受けを覗くと、水道代の請求がきていた。
ペラペラの長細い用紙が今月の請求額と、先月の引き落とし額を表示している。
上の方には、“吉崎 拓哉”の名前。
吉崎 拓哉は、それを見た瞬間に体中の血が沸騰するかのような感覚を覚えた。
入っている。
隣の郵便受けに、彼女の名前が。
そこから吉崎 拓哉の目は完全に血走っていた。
人でも殺しかねない殺気を放ちながらいつもよりも入念に辺りの様子を伺う。
誰もいない。
間違いなくいない。
今しかない。
チャンスは今しかないんだ。
吉崎 拓哉は、緊張しすぎてもはや感覚のなくなりつつある指先で302号室の郵便受けを触った。
蓋をそっと、いや素早く持ち上げる。
中を覗く。
入っている!
2枚のゴミとしか思えないチラシの上に、彼女の名前が印字された長細いペラペラした紙が入っている!
吉崎 拓哉はもう夢中だった。
神業とも言える速度でそのペラペラした紙をそこから抜き取り、バッと音がしそうな勢いでその紙に食いつく。
そうして血走った目にはっきりと映ったのだ、“瀬戸 珠里亜”の文字が。
そこから先は、もうどうやっても誰も吉崎 拓哉を止めることはできなかったろう。
日常化する郵便受け覗きに加えて、吉崎 拓哉はいつからかジュリアの出したゴミも漁り始めた。
はじめは郵便受けだった。
吉崎 拓哉が住むマンションは、単身世帯用の中古の6階建てで、エントランスの壁に6階✕6部屋、計36部屋分の郵便受けが整然と並んでいる。
コンビニのシフトは夜ばかりなので、帰るのは早朝だ。
会社や学校に向かう住人たちと会うのに気後れを感じる吉崎 拓哉は、いつも彼らの通勤、通学時間のラッシュを外して帰宅している。
そう、吉崎 拓哉がエントランスにいるのは、常日頃からいつでも周りに人がいないタイミングなのである。
出来心だった。
自分の303号室の郵便受けに指を突っ込み、ゴミとしか思えないチラシの束を取り出し、ふと隣の郵便受けを見た。
302号室。
気安く挨拶をくれた彼女は、明るい茶色の髪が顔の周りでふわふわしていた。
見たい。
辺りをきょろきょろと見回し、自分の周りに人がいないことを何度も確認して、ごくりと生唾を飲み込む。
冷静に、そう、あたかもそこが自分の郵便受けであるかのように振る舞わなければいけない。
もしも誰かに見つかるようなことがあれば、……そう、間違えた、間違えたんだ。
誰にともなくそんなことを何度も言い聞かせ、緊張しながら震える指で名札もついていないその郵便受けに手をかける。
そ、と蓋を持ち上げると、中には自分のところと同じチラシの束が入っていた。
これがいけなかった。
それからというもの吉崎 拓哉は、頻繁に隣の郵便受けを覗くようになった。
いつも必ず周りに人がいないことを慎重に確認し、302号室の郵便受けを覗く。
来る日も来る日も入っているのはチラシだけだが、時たま運悪く住人とすれ違うことがあれば、吉崎 拓哉は盛大に舌打ちしたくなるのを必死に堪えながらその日は諦め、エレベーターを通り過ぎ外階段に向かう。
吉崎 拓哉はマンションのエレベーターを好まなかった。
赤の他人の住人と偶然にでも乗り合わせてしまえば、居心地の悪さは火を見るよりも明らかだからだ。
3階なら許容範囲だ。吉崎 拓哉は日常的に外階段を使って生活している。
2週間もそうやって報われない緊張の朝を繰り返していた時だったか。
報われない緊張がついに報われる瞬間がやってきた。
いつものように先に自分の郵便受けを覗くと、水道代の請求がきていた。
ペラペラの長細い用紙が今月の請求額と、先月の引き落とし額を表示している。
上の方には、“吉崎 拓哉”の名前。
吉崎 拓哉は、それを見た瞬間に体中の血が沸騰するかのような感覚を覚えた。
入っている。
隣の郵便受けに、彼女の名前が。
そこから吉崎 拓哉の目は完全に血走っていた。
人でも殺しかねない殺気を放ちながらいつもよりも入念に辺りの様子を伺う。
誰もいない。
間違いなくいない。
今しかない。
チャンスは今しかないんだ。
吉崎 拓哉は、緊張しすぎてもはや感覚のなくなりつつある指先で302号室の郵便受けを触った。
蓋をそっと、いや素早く持ち上げる。
中を覗く。
入っている!
2枚のゴミとしか思えないチラシの上に、彼女の名前が印字された長細いペラペラした紙が入っている!
吉崎 拓哉はもう夢中だった。
神業とも言える速度でそのペラペラした紙をそこから抜き取り、バッと音がしそうな勢いでその紙に食いつく。
そうして血走った目にはっきりと映ったのだ、“瀬戸 珠里亜”の文字が。
そこから先は、もうどうやっても誰も吉崎 拓哉を止めることはできなかったろう。
日常化する郵便受け覗きに加えて、吉崎 拓哉はいつからかジュリアの出したゴミも漁り始めた。
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