6 / 21
6話
しおりを挟む
俺はハルさんがその人と電話をしているときは、極力気配を消すように気をつけている。何故なら向こうがそうしているから。
俺がハルさんと電話で話しているときも、時々スマホの向こう側にその人の気配を感じる。こっちに気を使って自分を隠している。だから俺も同じようにする。
だって彼と俺は同じ立場みたいだし。
「昨夜俺の家行ったら留守だったからさ、心配したみたい」
「言ってないんだ、しょうたろうさんには」
「言わないよいちいち」
ハルさんは逆に、何も隠したりしない。
目の前でも堂々と電話するし、なんだったら明日は向こうと居るから会えないとか、明確にきっぱり断られることだってある。
名前しか知らないしょうたろうさんには特にどうとも思わない。会ったことないし。
いや違うな嘘だ。いろいろ思いすぎてなんかもうなんだかなあと思っている。
俺より先にハルさんと一緒にいたわけだから、それまでは実質ハルさんのこと独り占め状態だったわけだろ。なんか申し訳ないなとか、今は俺のところにいるんだよっていう優越感とか、ハルさんがあっちに会ってるときには劣等感とか、それでもお互いに恋人にはしてもらえないんだもんなっつー共感とか逆に憐れみとかその他もろもろを、全部ひっくるめての、なんかもうなんだかなあ、だ。
実際に会ったことないから、もし目の前に現れたらまた違うのかもしれないけど。
俺はまたハルさんの横に寝転がって、腕で頭支えながらハルさんの顔をまじまじと眺めてみた。そんなことばっかしてるから、エロいっていう印象しかないんだけど、この人本当はなに考えてんのかな。
俺らのことをなんだと思っているんだろうか。セフレか、そらそうか。友達以上恋人未満ってやつか。そらそうだわな。
「なんて言ってた?」
「早く会いたいって」
本っ当に包み隠さないんだよなあ。まあ隠す必要のある関係だと思われてないからだけどさ。
「へー。なんか悪いことしたな」
「別にいいんじゃん、帰ったらいつも通りだしさ」
思うに、そのしょうたろうさんとやらも、きっと腹の中のどっかではハルさんのことが好きなんではないだろうか。
だって俺と同じらしいし。
しょうたろうさんってさん付けするからには、年上なのかもしれないな。俺は呼び捨てされてるし。
でも多分、例えばこの均衡を抜け駆けしようとして、例えば俺がハルさんに一言でも好きだと伝えてしまったとしたら。
ハルさんはもしかしたら次からもう二度と、俺には会ってくれないんじゃないかな。なんかなんとなく、そんな気がしている。
「なに?」
ずっと顔を見ていたら不審だったらしく、ハルさんが俺の頬を指でつついてくる。
好きだ。言わないけど。
「どんな人?」
「なにが?」
「しょうたろうさん」
「ああ、気になるの?」
「うん」
ハルさんは、そこから先を答えることなく起き上がって、更には立ち上がってしまった。そしてそのまま部屋を出ていった。
やっぱりそこは答えてはくれないか。
と思っていたら、しばらくして冷蔵庫に入れていた菓子パンを持って戻ってきた。俺が昨日選んだジャムパンを放って寄越す。ハルさんは既にサンドイッチを頬張っていた。布団の上で食う気か。
「おじさんだよ。あ、んー、そうでもないか。3じゅう……2、くらいだったかな。だからお兄さんかな。嫁さんに浮気されてさ、離婚で揉めてるんだって」
と、ハルさんはまるで世間話でもするかのように普通に教えてくれた。
布団には戻って来ずに、よれよれの浴衣姿でサンドイッチをもぐもぐ咥えたまま家中の襖を開けていく。
外の光と熱と微かな風が部屋の中に差し込んで、それはそれは明るい朝だ。
「え、嫁さんいる人なの!? 浮気じゃん!」
俺はバリッと勢いよくジャムパンの袋を破った。
「いやー、それがさ、案外そうでもないみたいなんだよな。もう離婚が確定してて、結婚生活が破綻してたら法律上は浮気にはならないんだってさ。俺が知り合ったときにはもう揉めてたみたいだし、俺はそこには完全に無関係だから、どうでもいいけど」
「へー」
「別に、良い人だよ、ストーカー染みてるわけでもないし、どっちかといえば紳士的なほうなんじゃん。食事も誘ってくれるし、気前も良いしさ。俺からしたら、なんで浮気されちゃったか不思議」
「ふーん」
聞くんじゃなかった。なんか、ちょっと妬いてしまった。
そうか、ハルさん、誘えば普通にデートにも付き合ってくれるのか。どんなところ行くんだろうか。お高いディナーとかだろうか。だとしたら俺には無理だな。
「まあでも取り敢えず」
サンドイッチを食べ終わったらしいハルさんは、襖も全部開けきって満足したらしく、
「起きるか、10時だし」
とにっこり笑って、よれよれの浴衣姿のまま多分洗面所に向かった。
俺がハルさんと電話で話しているときも、時々スマホの向こう側にその人の気配を感じる。こっちに気を使って自分を隠している。だから俺も同じようにする。
だって彼と俺は同じ立場みたいだし。
「昨夜俺の家行ったら留守だったからさ、心配したみたい」
「言ってないんだ、しょうたろうさんには」
「言わないよいちいち」
ハルさんは逆に、何も隠したりしない。
目の前でも堂々と電話するし、なんだったら明日は向こうと居るから会えないとか、明確にきっぱり断られることだってある。
名前しか知らないしょうたろうさんには特にどうとも思わない。会ったことないし。
いや違うな嘘だ。いろいろ思いすぎてなんかもうなんだかなあと思っている。
俺より先にハルさんと一緒にいたわけだから、それまでは実質ハルさんのこと独り占め状態だったわけだろ。なんか申し訳ないなとか、今は俺のところにいるんだよっていう優越感とか、ハルさんがあっちに会ってるときには劣等感とか、それでもお互いに恋人にはしてもらえないんだもんなっつー共感とか逆に憐れみとかその他もろもろを、全部ひっくるめての、なんかもうなんだかなあ、だ。
実際に会ったことないから、もし目の前に現れたらまた違うのかもしれないけど。
俺はまたハルさんの横に寝転がって、腕で頭支えながらハルさんの顔をまじまじと眺めてみた。そんなことばっかしてるから、エロいっていう印象しかないんだけど、この人本当はなに考えてんのかな。
俺らのことをなんだと思っているんだろうか。セフレか、そらそうか。友達以上恋人未満ってやつか。そらそうだわな。
「なんて言ってた?」
「早く会いたいって」
本っ当に包み隠さないんだよなあ。まあ隠す必要のある関係だと思われてないからだけどさ。
「へー。なんか悪いことしたな」
「別にいいんじゃん、帰ったらいつも通りだしさ」
思うに、そのしょうたろうさんとやらも、きっと腹の中のどっかではハルさんのことが好きなんではないだろうか。
だって俺と同じらしいし。
しょうたろうさんってさん付けするからには、年上なのかもしれないな。俺は呼び捨てされてるし。
でも多分、例えばこの均衡を抜け駆けしようとして、例えば俺がハルさんに一言でも好きだと伝えてしまったとしたら。
ハルさんはもしかしたら次からもう二度と、俺には会ってくれないんじゃないかな。なんかなんとなく、そんな気がしている。
「なに?」
ずっと顔を見ていたら不審だったらしく、ハルさんが俺の頬を指でつついてくる。
好きだ。言わないけど。
「どんな人?」
「なにが?」
「しょうたろうさん」
「ああ、気になるの?」
「うん」
ハルさんは、そこから先を答えることなく起き上がって、更には立ち上がってしまった。そしてそのまま部屋を出ていった。
やっぱりそこは答えてはくれないか。
と思っていたら、しばらくして冷蔵庫に入れていた菓子パンを持って戻ってきた。俺が昨日選んだジャムパンを放って寄越す。ハルさんは既にサンドイッチを頬張っていた。布団の上で食う気か。
「おじさんだよ。あ、んー、そうでもないか。3じゅう……2、くらいだったかな。だからお兄さんかな。嫁さんに浮気されてさ、離婚で揉めてるんだって」
と、ハルさんはまるで世間話でもするかのように普通に教えてくれた。
布団には戻って来ずに、よれよれの浴衣姿でサンドイッチをもぐもぐ咥えたまま家中の襖を開けていく。
外の光と熱と微かな風が部屋の中に差し込んで、それはそれは明るい朝だ。
「え、嫁さんいる人なの!? 浮気じゃん!」
俺はバリッと勢いよくジャムパンの袋を破った。
「いやー、それがさ、案外そうでもないみたいなんだよな。もう離婚が確定してて、結婚生活が破綻してたら法律上は浮気にはならないんだってさ。俺が知り合ったときにはもう揉めてたみたいだし、俺はそこには完全に無関係だから、どうでもいいけど」
「へー」
「別に、良い人だよ、ストーカー染みてるわけでもないし、どっちかといえば紳士的なほうなんじゃん。食事も誘ってくれるし、気前も良いしさ。俺からしたら、なんで浮気されちゃったか不思議」
「ふーん」
聞くんじゃなかった。なんか、ちょっと妬いてしまった。
そうか、ハルさん、誘えば普通にデートにも付き合ってくれるのか。どんなところ行くんだろうか。お高いディナーとかだろうか。だとしたら俺には無理だな。
「まあでも取り敢えず」
サンドイッチを食べ終わったらしいハルさんは、襖も全部開けきって満足したらしく、
「起きるか、10時だし」
とにっこり笑って、よれよれの浴衣姿のまま多分洗面所に向かった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
専業種夫
カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる