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65話 もっと。2
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side H
いろんな体液が乾いてカサカサになった頬をもう一度撫でる。細い髪が、汗で束になって張り付いている。疲れて眠るその目元は、まだ少し腫れている。
こいつさっきの、多分聞いてなかったな。別に良いか。
シャワーを浴びようと身体を起こす。完全に起き上がる前に、もう一度カサカサの顔を撫でて、意識のない唇にキスを落とした。無意識に緩んだその表情に、堪らない気持ちになる。
うん、好きだ。
だから向き合おう、今度は、ちゃんと。
本当に久しぶりなんだよ、自分以外の誰かをこんな好きになったの。
「ただいま、樹」
ちゃんと向き合うから、もっと大事にするから、ちゃんとこっちを向いていてくれ。
目を覚ましたらもう一度。聞こえるようにもう一度、ちゃんと言うからな。
side I
「……、ん」
あったかい。
好きな匂いに包まれて目を開けると、有って当たり前のように感じる腕の中にいた。
この感触、この温度。久しぶりだけど、なんの違和感もない。少し顔を上げると、静かに寝息を立てるヒカルの顔があった。
触ろうとして右手を出すと、薬指には銀の輪が嵌まっている。
「……夢?」
まさかこんなに急にこんな事になるなんて、全然思っていなかった。譲治に相談してから落ち着いて会いに行こうと思っていたのに。
自分から「好き」って言うタイミングを、また逃してしまった。
昨夜の、指を引かれた時の顔を思い出す。駆け引きなんて何も出来ないくらい、格好良かった。
「……気障め」
これで良かったのか、実はまだ少し迷っている。前に進んだ気は、正直、しない。
元に戻った。そのほうがしっくりくる。
きっとまたこれからも、自分達は同じ事の繰り返しだ。浮気して、されて、怒って、怒られて、今度こそ指輪も捨ててしまうかもしれない。
でもまぁ、それも良いか。浮気なんて今更だ。指輪捨てたら、次はもっと高いやつを買って貰おう。
何度だって繰り返してやる。こんな駄目な人に付き合えるような奴は、きっと自分しか居ない。
「はは。ばぁか」
目を覚ましたら、最初になんて言おう。
「もっと、大事にして。かな」
違うな。
もっと、もっともっと。
前より、もっとずっと、好きな気がする。だな。
いろんな体液が乾いてカサカサになった頬をもう一度撫でる。細い髪が、汗で束になって張り付いている。疲れて眠るその目元は、まだ少し腫れている。
こいつさっきの、多分聞いてなかったな。別に良いか。
シャワーを浴びようと身体を起こす。完全に起き上がる前に、もう一度カサカサの顔を撫でて、意識のない唇にキスを落とした。無意識に緩んだその表情に、堪らない気持ちになる。
うん、好きだ。
だから向き合おう、今度は、ちゃんと。
本当に久しぶりなんだよ、自分以外の誰かをこんな好きになったの。
「ただいま、樹」
ちゃんと向き合うから、もっと大事にするから、ちゃんとこっちを向いていてくれ。
目を覚ましたらもう一度。聞こえるようにもう一度、ちゃんと言うからな。
side I
「……、ん」
あったかい。
好きな匂いに包まれて目を開けると、有って当たり前のように感じる腕の中にいた。
この感触、この温度。久しぶりだけど、なんの違和感もない。少し顔を上げると、静かに寝息を立てるヒカルの顔があった。
触ろうとして右手を出すと、薬指には銀の輪が嵌まっている。
「……夢?」
まさかこんなに急にこんな事になるなんて、全然思っていなかった。譲治に相談してから落ち着いて会いに行こうと思っていたのに。
自分から「好き」って言うタイミングを、また逃してしまった。
昨夜の、指を引かれた時の顔を思い出す。駆け引きなんて何も出来ないくらい、格好良かった。
「……気障め」
これで良かったのか、実はまだ少し迷っている。前に進んだ気は、正直、しない。
元に戻った。そのほうがしっくりくる。
きっとまたこれからも、自分達は同じ事の繰り返しだ。浮気して、されて、怒って、怒られて、今度こそ指輪も捨ててしまうかもしれない。
でもまぁ、それも良いか。浮気なんて今更だ。指輪捨てたら、次はもっと高いやつを買って貰おう。
何度だって繰り返してやる。こんな駄目な人に付き合えるような奴は、きっと自分しか居ない。
「はは。ばぁか」
目を覚ましたら、最初になんて言おう。
「もっと、大事にして。かな」
違うな。
もっと、もっともっと。
前より、もっとずっと、好きな気がする。だな。
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