背中越しの温度、溺愛。

夏緒

文字の大きさ
上 下
64 / 67

64話 もっと。1

しおりを挟む
side I

 どさり。
 濃紺のシーツの上に倒れるように雪崩れ込んで、舌同士が離れないままにお互いの髪に指を絡める。うなじの生え際を撫でて、そのまま背中へ。

「もっと、」

 もっと近くに来てほしい。
 もっと触ってほしい。
 もっと見てほしい。
 名前を呼んでほしい。
 好きって言ってほしい。
 触ってほしい。
 触ってくれ。
 もっと触ってくれ。
「なぁもっと」
「顔見てるだけで興奮する」

 苦笑いを見たのが嬉しくて、そういえばこんな気持ちで身体を合わせたのはいつぶりだろうかと数ヶ月前の記憶を辿ろうとして、どこまで辿れば良いか分からなくなってきた頃、舌を緩く噛まれて考えるのを止めた。
 お互いの釦を外す指はどちらもスムーズで、それはつまりこの慣れ親しんだ行為に時間が空かなかった事を示しているようだった。
 焦ったような荒い息使いだけが部屋中に響く。シャツに隠れていた肌同士が触れ合って、酷く熱くて、自分のベルトはもう既に外されていて、唇だけは重ねたまま。
「ん……、なにも…」
「ん?」
「なにも考えられない」
「考えなくて良い。黙ってろ」
「っ、んぁ……」

 こんなに気持ち良かったっけ。こんなに欲しがった事あったっけ。
 正直、ヒカル以外の人とした時も、素直に気持ち良いと思った。結局誰としたってやる事は同じなんだから当たり前かって。
 でも違う。
 違った。だって今日はひときわ心臓が煩い。痛いのすら気持ち良い。触られて嬉しい。名前を呼ばれるとくらくらする。求めて貰ってると思うと目頭が熱くなる。鼻の奥がツンとしてしまって、気を逸らそうと思ったらヒカルの足が目に入った。
「スーツ汚れるから……」
 手を掛けようと伸ばすと、ベルトに触れた手に手が重なった。
「悪い、今、あんまり触らないでくれないか」
 切羽詰まった苦笑いと目が合って、自分でベルトを外した音が聞こえて、意味を理解してつい笑ったら、中に入れられたままの指がまた奥を抉った。
 代わりに指で示されたので、勝手知ったる頭もとの宮から使いかけのコンドームの箱を手探りで取り出す。他の誰との使いかけでも構わない。そんな事今は関係ない。
 震える指でひとつ包装を破り開ければ、体制を変えて少しだけこちらに身体を寄せられた。そこに片手で装着出来るのは、やっぱり慣れた証。
「力抜いてろ」
 脚の間に全神経を集中させていると、汗とか体液とかいろんなものでべとべとになった手で頬を撫でられた。悩まし気な顔で笑い掛けられる。
「樹、」
 うん、と返事をしようとして、痛みに近い圧迫感と、入り込んできた違和感と息苦しさで言葉を失った。
「っ、は……」
「樹、なあ、」
 耐えるのに必死で、気持ち良いしか無くて、頭の中が真っ白だった。だからヒカルがさっきから何て言ってるのか、本当はよく分かってなくて、息をするのに必死で、ひたすら訳も分からないままに頷いた。
「樹、なあ、」
「な、に、……んぁ、あ」
「好きだろ、俺の事」
「あ、ひか、ちょっと待っ」
「もう何処にも行くなよ」
「待っ、いき、が」
「お前は俺だけだろ」
「ヒカル、あ、うん、うん、待っ」
「これでも一応、俺」
「あっ、……っ、や」
「愛してるつもりみたいなんだ、お前の事」
「や、やっ あ、くるし……」

 もっと言ってくれ。
 もっともっと。
 もっとくれ。
 全部くれ。
 そしたらもう死んでも良い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

浮気を許すとかそういう話じゃなくて

ニノ
BL
 お互いを思い合っていた筈なのに浮気を繰り返す彼氏………。  要はそんな彼氏に捨てられたくない気持ちが強くて、ずっと我慢をしていたけど………。 ※初めて書いた作品なのでだいぶ稚拙です。 ※ムーンライトに投稿しているものをちょっと修正して上げています。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

男とラブホに入ろうとしてるのがわんこ属性の親友に見つかった件

水瀬かずか
BL
一夜限りの相手とホテルに入ろうとしていたら、後からきた男女がケンカを始め、その場でその男はふられた。 殴られてこっち向いた男と、うっかりそれをじっと見ていた俺の目が合った。 それは、ずっと好きだけど、忘れなきゃと思っていた親友だった。 俺は親友に、ゲイだと、バレてしまった。 イラストは、すぎちよさまからいただきました。

処理中です...