背中越しの温度、溺愛。

夏緒

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16話 身代わり。1

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side I

「もう高校生なんだし、してやればいいのに。子どもじゃないって本人が言ってるんだろ」
 すっかり入り浸るのに慣れた涼平のアパートで、壁に寄せられたベッドに腰掛けて、自分で持って来た烏龍茶のペットボトルを開ける。一緒に買ってきた缶ビール二本は、勝手に冷蔵庫に突っ込んでおいた。
 煙草を吸い終えた涼平がまだ明るいベランダから戻ってきて、握り潰してくしゃくしゃになった煙草のケースをごみ箱へ投げ入れる。
「高校生だからとか、我ながらよく言ったと思うけど、別に理由なんか何だっていいんですよ。ただあんま深入りさせて、嫌な思いをさせたくないんです」
「ふうん。で、その身代わりがおれな訳ね」
「あんただって同じでしょうが」
 飲もうと思っていた烏龍茶を当たり前のように手から奪い取られた。目の前に仁王立ちになった涼平にごくごくと喉を鳴らして飲まれていくのを半ば諦めた気持ちで眺める。まあ、ベランダは陽射しが直に当たって暑かっただろうしな。
 大胆に減らした中身を軽く揺らして、涼平は烏龍茶をこっちに返してくれることなく、ローデスクに置いた。
「樹さんだけですからね、俺にこの部屋のエアコンつけさせんの」
 言って、涼平は普段あまり使うことのないエアコンを稼働させてから、ベランダの窓を閉めた。
「それもどうかと思うよ、おれは。熱中症気を付けな」
「好きじゃないんですよね、喉が乾燥するし。一度つけたら消したくなくなるし。俺は別に開け放しでも問題ないんですけどね、樹さんが聞かれたくないでしょ、盛り上がっちゃってる声。うちは誰かさんちと違って、お高いマンションじゃないんだから」
「はいはい要らんこと言ってごめんって。今あいつの事思い出したくないからそれ以上言うな。あれ、チューブは?」
「クローゼットに隠してる。樹さん悪いんだけど、いつものタオル持ってきてくれません」
「いいよ」
 涼平がクローゼットの上のほうを漁り出したから、立ち上がってまずは持っていた烏龍茶の蓋を締める。ふらふら狭い部屋を歩いて洗面所の細長い戸棚を開けると、几帳面に畳まれた形跡のあるタオルが雑に押し込まれている。こういうの性格が出るよなと思いながら、一番上のバスタオルを除けて、手を突っ込んで目的のバスタオルを探す。見なくても触れば分かる。奥の方に隠してあるんだ、洗いすぎてごわごわになったやつ。
 手探りで目的のものを探り当てて、引っ張りだせばやはり合っている。戸棚を閉めて部屋に戻れば、効き始めたエアコンの風がふわりと額を撫でた。
「文明の利器って素晴らしいよな」
「タオルありました?」
「あった」
 裕太くんよくいつも扇風機だけで文句言わないな、と、ここに居ない人物に感心しながらタオルをベッドに放り投げる。涼平は涼平で見つけたチューブとゴムの箱を同じようにベッドに放り投げ、いつもの黒シャツを当然のように脱いだから、自分も着ているシャツに手を掛けた。

 全部脱いで、ベッドに広げたタオルの上に転がっていると、よく見ればゴムの箱がいつもと違うのに気がついてちょっと焦る。
「え、ちょっと待って、これ何、いつものと違うじゃん」
 パッケージの絵を見れば、何だか中身の表面がざらざらして刺激が強そうに見える。
「……何でこんなイボイボ買った?」
「面白そうだなと思って。樹さん尻こっち向けといて」
「痛くね? これ」
「大丈夫じゃないですか、知らんけど。心配なら一応多めに使っときます? チューブ」
「あ、是非。 ……っ、いや、急にさわんな、」
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