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55話 赤い糸 8
しおりを挟むもしかしてずるいこと言ったかな。慎二が期待する言葉ではなかったかもしれない。
「あのさ、悪い、なんか中途半端なこと言ったかも」
「それでもいい」
「ん?」
「それでもいい。あきらが、そう思ってくれるんなら、それでもいい」
「慎二……」
ごめん俺がよく分かってない。なにがいいんだろ。つまりどういうことだ。
「あきら、」
「なに」
「もっかい、キスしていい?」
「えっ、えと、」
俺が動揺している間に、慎二が顔を寄せてきて、今の会話的に嫌がったら変だよな、とか、どうしようどうしようと思っているうちに、唇に、慎二のそれが触れた。俺は半ば条件反射で目を閉じた。手ぇ握りあって、唇だけ寄せあって、まるで中学生みたいな、触れるだけの、本当に拙いキスをした。慎二が緊張しているのが伝わってくる。
「あきら、」
唇と唇の隙間で、慎二が俺の名前を呼んだ。
「ん?」
「ありがとう、ちゃんと考えてくれて」
「ああ、うん。いやでも、お前が欲しかったような感じじゃないと思うんだけど」
「それでもいいんだ、俺も、いつまであきらのこと好きか分かんないし」
「……は?」
は? 今なんつった? どういうこと? 俺なんか変なこと言われた気がするんだけど、どういうこと?
俺の顔つきが変わったのを見てとったらしい慎二は、少し慌てたように顔を離して、取り繕うようにへらりと笑った。
「いやだってほら、人間大体そんなもんじゃん?」
「は?」
「いや怒んなって、だってあれよ、俺もさ、気軽に永遠なんて誓えんわ」
なんだこいつ。なんか、俺が思ってたのと違う。なんだその物言いは。本気で腹立つ。
「なんっじゃそりゃ。お前さっきまでの俺の気持ち返せよ」
「いやいや違うって、ごめん言い方悪かった、お願い話し聞いて」
慎二が焦ったように抱きついてくるから、腹に一発拳を入れる前に一応言い訳だけは聞いてやるかと先を促す。慎二は、抱きついたまま耳元で小さく笑った。
「だってさ、先のこととか分かんねえよ。こんな話ししといて、もしかしたら明日大喧嘩して嫌いになるかもしれない。あきらがやっぱりお隣さんがいいとか言い出すかもしれないし、それが来週かもしれないし、半年後かもしれないし、3年後かもしれない。いつか嫌になるかもしれないし、もしかしたらいつまでもそんな日は来ないかもしれない。そんな先の話は分かんないけどさ、でも俺は、今、あきらのこと好きだから。だから、今は一緒にいたい。あきらもそう思ってくれてるならそれが嬉しい。そうやって、いつ来るか分かんない終わりまでずっと続けていけたら、それでいいんじゃないかなって、俺は思うわけよ。だからさ、いつか嫌いになるまでは、ずっと宜しく、あきら。って、言いたかった」
「………………お、おう」
あ、そう。なんだこれ。は、恥ずかしい。下手によく分からない愛を説かれるよりも余程恥ずかしい。
俺が次のリアクションに困って固まっていると、慎二が首筋に顔を擦り付けてきた。
「なああきら、俺実は今嬉しくて堪らないんだけどさ、多少、じゃないこと、してもいい?」
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