夏緒

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33話 あきらと慎二 11

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「って、寝るんかい!」
 うちに着いて早々に慎二は寝た。俺の万年床で。ビール3缶めのプルタブを開けたところだった。狸寝入りとかそんなんじゃない。口開けて鼾掻いてる。折角の整った顔も台無しな、なんとも残念な寝顔だ。
「なんっじゃそりゃ」
 俺は慎二が開けてしまったビールを代わりに煽った。前から分かりきってはいたが、相変わらずなんというマイペース。俺はどうしてもお前に聞かなければいけないことがあったのに。もっと早めに聞いておくんだった。
 慎二お前、俺らのことうちの社長になんて言ってんの?
 昼間の牛丼屋の感じで洗いざらい全部話してしまっているんだろうか。こいつならあり得るよな。でも社長も別に変な態度じゃなかったしなあ。まああの人いつでも変だけど。取り敢えず俺、どこで寝よう。
 そんなことをつらつらと考えながら缶ビールを空にした。

 起きたら朝で、なんか身体痛いなと思ったら俺は畳に直に寝ていて、なんだか息苦しいなと思ったら慎二が俺の腹に頭を乗せるようにしてうつ伏せになって寝ていた。どんな体勢だそれ。よく寝られるな。俺はお前の重さで目が覚めたのに。
 時計を見ようとスマホを探す。ぐるりと見回しても床には転がっていない。机の上かなと、寝たまま適当に手が届く範囲を撫でると、スマホではなく空き缶が転がり落ちて、仕方なく慎二の頭を払い除けて起き上がった。慎二はごつんと畳に落ちたが、それでも起きることはなかった。
 机の上にスマホを見つけて、画面をつければ6時過ぎ。まずまずだ。二度寝はしないほうがいいなと立ち上がりトイレへ行く。冷蔵庫の中、なにがあったかなあ、朝飯どうしよう。昨日酒と一緒に適当に買っておけば良かった。
 トイレから出て流しで手を洗い、冷蔵庫を覗き見る。インスタント味噌汁発見。あと卵もある。
「ラッキー」
 ご飯を炊こうとごそごそ準備をしていると、そこでようやく慎二が起きた。唸りながら転がって伸びをしている。
「からだいてぇぇー……」
「おはようさん」
「はよ……」
「寝過ぎだろお前」
 米を研いでいると慎二が後ろをよろよろと歩いた。
「うーん、だって……」
 そのままトイレへ消えていった。
「なんだよ」
 戻ってきたところで声を掛けると、慎二はいくらか眠気が飛んですっきりしているようだった。炊飯器のスイッチを押す。慎二は俺と同じように流しで手を洗った。
 戸棚の取っ手に引っ掻けた手拭きタオルで手を拭いて、俺にコップと水を要求する。
「だってあきらが変なお願いするからさあ、我慢しようと思ったらもう寝るしかねえじゃん」
「は?」
 俺なんかお願いしたっけ。
 冷蔵庫のミネラルウォーターをコップに注いでやりながら考える。
 お願い、した? いや……してな、したな。したわ、昨日。相手慎二じゃなくて神様だったけど。

『慎二が襲いかかってきませんように』

「あれか……」
「だから良い子だったでしょ、俺」
「え、ああ、あの、うん、そうな」
 慎二は勝手に俺の手からコップを奪い取って水を飲んだ。
 ……なんか頭痛くなってきた。なるほどな。我慢のために寝てしまう作戦だったわけな。有り難いやら、いたたまれないやら……。俺はどんなリアクションを返すのが正解なんだろうか。
「朝飯作ってんの?」
と慎二が食べるのが当然のように聞いてくる。
「米炊いただけだよ。インスタント味噌汁と卵かけご飯でいいだろ」
「ええええ卵焼きがいい」
「洗い物増えるから嫌だ」
「けち」
「自分で作れや」
「嫌だよ面倒くせえ」
「おう俺も今まったく同じ気持ちだよ」
 結局卵かけご飯で押し通し、俺は仕事に行く準備をする。皿洗いは慎二に任せた。
「お前今日仕事は?」
「俺は今日は遅番だから11時からー。帰って準備しても間に合うから大丈夫だよ」
 機嫌の良さそうな様子で皿を洗いながら慎二は答える。
 いつもと同じなようで、俺の中にはなんだか違和感が残る。今までみたいな只の友達、には見れなくなりそうで、うーんこれはこの先どうしたもんかな、と頭を抱えたくなった。
「よっしゃー皿洗い終わり!」
「ありがとな。そんで、」
 作業着よし、財布よし、スマホよし、家の鍵よし、慎二の荷物よし。
「昨日の依頼、如何だったでしょうか」
 依頼終わりの挨拶忘れるとこだった。急に畏まって聞かれたほうの慎二も面食らっていたが、ちゃんと理解していつもの優男に顔を戻した。
「大満足です。有難うございました」

 慎二に大事なことを聞き忘れたのを思い出したのは、事務所に着いて社長の顔を見てからだった。
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