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29話 あきらと慎二 7
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作業を中断した慎二は、一瞬ぐるりと店内の様子を伺ってから、店の外まで出てきた。
「お疲れさん、遅かったな」
「すまん、無駄に世間話に付き合ってたら長くなった。今日何の依頼? 俺先にちょっと飯食ってきてもいい?」
どうせ力仕事だろうし、と思いながら店内に目をやると、慎二は、え、駄目だし。と俺の昼飯を却下してきた。
「え、そんな急ぎ?」
「違う違う。先に飯食われたら依頼の意味ない」
「は? 今日の依頼なに?」
なんだかちょっとよく分からない。
慎二は少しの身長差を利用するようにして顎を上げて、にやりと歯を見せた。
「俺とデート」
「……は?」
「店長ー、俺行くわー!」
慎二が店の奥に向かって声を投げると、奥のほうからはいよー、と返ってきた。店長さんの声だ。動く気はないらしい。お客さんがいるのかもしれない。
「よし、じゃあ行くか」
慎二はそのまま店を出て歩き出そうとしている。待て待て話が見えない。
「おう。いいけど、店どうすんだ」
「俺今日休みなんだよ。待ってる間暇だから手伝ってただけ」
「はあ?」
ちょっと待ってくれ。何がなにやらよく分からない。慎二は混乱した顔丸出しであろう俺に、にっこりと笑ってみせた。
「あきら勘違いしてるんだよ。依頼主、俺」
まさか。
「社長さんと共謀してみた」
そういうことか。俺はそこまで言われてようやく理解する。店は待ち合わせ場所だっただけってことか。俺が絶対嫌がると読んで騙したな。あの糞オヤジ。そういやラインがどうとか言ってたな。
「あきらの今からの仕事は、今日の残りの時間、俺とデートすることです」
言っとくけど俺より背の高い男がどんだけ頑張っても一切可愛くはないからな。
「すいませんお客さん、うち性的なサービスに於いては堅くお断りしております」
「違うから違うから!」
努めて真顔で注意すると、慎二は店の前ということもあってか、猛烈に狼狽えた。
「性的なこと要求してないから! 仲直りに遊びに行こうやってだけだよ!」
慎二は慌てたように店から離れていく。仕方がないから後をついて歩いた。
「ったく、あほか。しょうもない依頼しやがって。金額いくらにしたんだよ、っていうかどこ行く訳? 俺この格好でこの辺歩くの嫌なんだけど」
謀られたのが自分で思っている以上に不服だったみたいで、そんなつもりはあまりないのに声が尖ってしまう。でも取り敢えずこの汚い作業着でこんな街中を歩くのは嫌だ。慎二は俺の不機嫌についてはさっぱり気にしないみたいだった。
「金額については社長さんとの秘密。服買う? ごはん行こ」
「いやいや一旦帰って着替えようや」
それでまずは、そのまま家に帰った。慎二がいいって言うから待っててもらって軽くシャワーもして、日常あまり着ることのないTシャツに腕を通す。昼飯どうする、なんて話をしたのは昼をとっくに過ぎてからで、どこに向かったかといえば近所の牛丼屋だった。
「お疲れさん、遅かったな」
「すまん、無駄に世間話に付き合ってたら長くなった。今日何の依頼? 俺先にちょっと飯食ってきてもいい?」
どうせ力仕事だろうし、と思いながら店内に目をやると、慎二は、え、駄目だし。と俺の昼飯を却下してきた。
「え、そんな急ぎ?」
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「は? 今日の依頼なに?」
なんだかちょっとよく分からない。
慎二は少しの身長差を利用するようにして顎を上げて、にやりと歯を見せた。
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「……は?」
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慎二が店の奥に向かって声を投げると、奥のほうからはいよー、と返ってきた。店長さんの声だ。動く気はないらしい。お客さんがいるのかもしれない。
「よし、じゃあ行くか」
慎二はそのまま店を出て歩き出そうとしている。待て待て話が見えない。
「おう。いいけど、店どうすんだ」
「俺今日休みなんだよ。待ってる間暇だから手伝ってただけ」
「はあ?」
ちょっと待ってくれ。何がなにやらよく分からない。慎二は混乱した顔丸出しであろう俺に、にっこりと笑ってみせた。
「あきら勘違いしてるんだよ。依頼主、俺」
まさか。
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そういうことか。俺はそこまで言われてようやく理解する。店は待ち合わせ場所だっただけってことか。俺が絶対嫌がると読んで騙したな。あの糞オヤジ。そういやラインがどうとか言ってたな。
「あきらの今からの仕事は、今日の残りの時間、俺とデートすることです」
言っとくけど俺より背の高い男がどんだけ頑張っても一切可愛くはないからな。
「すいませんお客さん、うち性的なサービスに於いては堅くお断りしております」
「違うから違うから!」
努めて真顔で注意すると、慎二は店の前ということもあってか、猛烈に狼狽えた。
「性的なこと要求してないから! 仲直りに遊びに行こうやってだけだよ!」
慎二は慌てたように店から離れていく。仕方がないから後をついて歩いた。
「ったく、あほか。しょうもない依頼しやがって。金額いくらにしたんだよ、っていうかどこ行く訳? 俺この格好でこの辺歩くの嫌なんだけど」
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「金額については社長さんとの秘密。服買う? ごはん行こ」
「いやいや一旦帰って着替えようや」
それでまずは、そのまま家に帰った。慎二がいいって言うから待っててもらって軽くシャワーもして、日常あまり着ることのないTシャツに腕を通す。昼飯どうする、なんて話をしたのは昼をとっくに過ぎてからで、どこに向かったかといえば近所の牛丼屋だった。
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