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24話 あきらと慎二 2
しおりを挟む「好きだ好きだうるせえわボケぇ!」
「っ、んだとこの野郎!」
「俺が俺がって、俺の気持ちを無視すんな!」
「してねえわ! してねえから黙って耐えてたんだろうがよ!」
「俺だって困ってんだよいきなりこんなことになって、勝手に好きになったくせに俺にどうしてほしいって言うんだよお前は!」
「俺だって別に好きでお前のこと好きになろうと思って好きになったんじゃねえわ! 誰がわざわざ好き好んでお前のことなんか好きになるか!」
「はあああああああああ!?」
もはや支離滅裂だ。
二人して胸ぐら掴み合ってお互いに腹から怒鳴り散らした。
「お前よくそれで俺に好きだのなんだの言えたな!」
「言えたよ! 言えるわ! だって好きだもん! 好きになっちまったもんは仕方がねえじゃねえかよ!」
「っ、……」
そこで俺は言葉に詰まって、怒鳴り合いが止まって、お互いに胸ぐら掴んだまま荒くなった呼吸だけが残った。
「……、だ」
慎二が何かを言おうとして、俺はそれを聞こうと思って、意識を向けたとき、不意にエリカさんちの玄関が開いた。
「ねえ、いつまで見つめ合ってんの」
「え、」
二人で目線を向ければ、エリカさんが開けたままの玄関ドアに怠そうに凭れて腕組みをしながら、呆れたようにこっちを見ていた。見つめ合っているわけではない。
「あんたらさあ、何なの? 馬鹿なの? 聞いてるこっちが恥ずかしいわ」
言われて改めて自分たちを俯瞰で見る。アパートの玄関の外で好きだのなんだの大声で怒鳴りながら、今まさに近距離で掴み合っている。煩いし近すぎる。理解した瞬間にすぐに手を離した。お互いに。
エリカさんは本当に呆れ果てたように、外だよ? よく恥ずかしくないね、と鼻で笑った。恥ずかしいわ。
今まさに恥ずかしくなってきて、頬の辺りに熱が集中していく。どんぐらい響いたかな、今のやりとり。
「すみません、お騒がせしました……」
慎二はすっかりいつもの調子に戻っていて、眉を下げながら赤くなってエリカさんに謝った。
「別にいいけど、結構響いたね、今の痴話喧嘩」
「だから痴話喧嘩じゃないって」
堪らず俺が訂正しようとすると、エリカさんは苦笑いをした。
「そうだねぇ、惜し気もなく好きだ好きだ叫んでたから、のろけていたのかな」
「だああもう! 違いますってば!」
「いつぞやもこうやってあんなことになったのねぇ、なるほどねぇ」
「違いますってば!」
躍起になって否定を繰り返す俺を、エリカさんはいつもの楽しそうな声であははははと笑い飛ばした。
「まあ取り敢えずさぁ、部屋の中入ったら? 君ら煩いし」
「いや、その、」
「あたし今日は用ないからね、あきらくん」
にっこりと先手を打ってエリカさんはひらひらと手を振った。扉を閉めきる直前、もう一度こっちを見てからウインクをしてくる。あれ多分癖なんだろうな。
エリカさんが静かに部屋に入ってまた慎二と二人になると、辺りに気持ちが悪いほどの静寂が訪れた。慎二も目を逸らしたまま何も喋ろうとしない。
……どうしよう、気まず……。
時間の経過と共に重苦しくなっていきそうな空気に耐えきれず、仕方なく俺は自分の部屋の鍵を開けた。丁度目線に当たる場所に、2ヶ所の窪みの出来た玄関ドアだ。
ドアノブを回して、ドアを開けて、迷った末に慎二を振り返る。慎二は慎二でばつの悪そうな顔をしていて、それでも黙ってドアに手を掛けた。
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