夏緒

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14話 そういう関係 7

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と、思っていたのが今日の昼過ぎ。
 夜になってアパートに帰ると、俺の部屋の前にそいつはいた。
「よお、遅かったな」
 玄関ドアに凭れて座り込み、片手を上げる慎二は、いつも通りの弛い顔をしていた。後ろで一つに括っている中途半端な長さの茶髪も変わらない。あまりにもいつも通りで、それを見た俺は何だか急に怒りが込み上げてきた。
「あーあー、そういう奴だよお前は!」
「え、なに怒ってんの」
 俺はこの1週間わりと真剣にお前のことを考えて落ち着かない毎日を過ごしたというのに! なんだその、なんかありましたかみたいな態度は! 完全に不意打ちで、どんな態度に出るべきか考えてた自分が阿呆みたいだ。
「……全然連絡ないから、どうしたもんかと思ってたんだよ」
「ああ悪い、俺さあ、なくしたんだよね、スマホ」
「はあ?」
 なんだその理由。っつーか大丈夫かそれ。
「……馬鹿なのか」
「まあね。結構本気で焦ってた」
 へらりとした顔のどこにも本気さは感じられないが、焦って、た? 俺が頭の上に疑問符を浮かべると、慎二はまたへらりと笑った。
「マットレスの下から出てきたわ。意味わかんねえだろ」
 本当にな。どうやったらそんなとこに入るんだ。そしてよくそこから見つけたな。
「そりゃ良かったな。昼間会社来たんだって? お前いつからここ居んの」
 言いながら、座り込んでいる慎二をそのままに、尻ポケットから出した鍵を玄関のドアノブに差し込む。慎二は上目遣いで微笑んできた。
「うん。会いたかったからさ」
「……」
 数多くの女たち、いや中には男もいるんだろう、が、この表情にやられてきたのだろう。
 そう思えるほどにあざとい。俺もうっかりときめくところだった。あーびっくりした。
「……そうくるか」
 思うだけのはずの言葉は、小さく口から零れた。
「なにが? ……ああ、だって、」
 慎二は、始めきょとんとしてから、すぐに俺の心中を察した。よっこいしょ、と腰を上げて、立ち上がり、玄関ドアとサンドイッチ状態の俺に向かって甘い声を出した。距離が近い。
「だって俺、まだ振られてないし。会いたかったから、会いに来た」
「……」
 やべえ俺、完全に狙われている。
 思い出すのは1週間前の夜。焦りが止まらない。

 どうする。さあどうする。どうする俺。
 この状況で今こいつを家に上げても良いものか。こないだと全く同じ展開になるんじゃないのか。どうしよう。
 いやでももう鍵開けちまったし、ここで帰れって言ったら不自然じゃないのか。いや、もうこの際不自然でもいいんじゃ……あんなことされた後だし警戒するのも当然じゃないか、いや、でも、そんなにあからさまに警戒心剥き出しにしたら流石に慎二も傷つくんじゃ、いや、こいつは多少傷ついたほうがいいような、いやでも、そもそもこいつに俺がこんな調子狂わされてるなんて気づかれたくない、逆に調子に乗らせてしまう気がする。うおおどうしよう。
 俺がぐるぐる考えながら固まったままでいると、右側からカンカンと鉄階段を上がる小気味良い音が聞こえ、ひょっこりとエリカさんが現れた。
「何してるの? 邪魔なんだけど」
 一切悪意のなさそうな調子で軽く暴言を吐き、慎二にそこを退けとばかりに手をひらひらさせて動かそうとしている。
 俺ははっと思い立って、慎二の傍をすり抜けると、ぐいっと思いきりよくエリカさんの肩を抱いた。
「おかえりなさい、遅くなってすみません」
「は?」
 いきなりのことに目を丸くしているエリカさんに、これ以上喋らせないように慎二に早口で捲し立てる。
「悪い、俺ちょっと今日は用事があるんだ、またな」
 そのまま慎二を通りすぎてエリカさんの部屋の前まで逃げた。自分ちの鍵を開けたままだが、そんなのは慎二が居なくなったあとでどうにでもなる。
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