14 / 60
14話 そういう関係 7
しおりを挟むと、思っていたのが今日の昼過ぎ。
夜になってアパートに帰ると、俺の部屋の前にそいつはいた。
「よお、遅かったな」
玄関ドアに凭れて座り込み、片手を上げる慎二は、いつも通りの弛い顔をしていた。後ろで一つに括っている中途半端な長さの茶髪も変わらない。あまりにもいつも通りで、それを見た俺は何だか急に怒りが込み上げてきた。
「あーあー、そういう奴だよお前は!」
「え、なに怒ってんの」
俺はこの1週間わりと真剣にお前のことを考えて落ち着かない毎日を過ごしたというのに! なんだその、なんかありましたかみたいな態度は! 完全に不意打ちで、どんな態度に出るべきか考えてた自分が阿呆みたいだ。
「……全然連絡ないから、どうしたもんかと思ってたんだよ」
「ああ悪い、俺さあ、なくしたんだよね、スマホ」
「はあ?」
なんだその理由。っつーか大丈夫かそれ。
「……馬鹿なのか」
「まあね。結構本気で焦ってた」
へらりとした顔のどこにも本気さは感じられないが、焦って、た? 俺が頭の上に疑問符を浮かべると、慎二はまたへらりと笑った。
「マットレスの下から出てきたわ。意味わかんねえだろ」
本当にな。どうやったらそんなとこに入るんだ。そしてよくそこから見つけたな。
「そりゃ良かったな。昼間会社来たんだって? お前いつからここ居んの」
言いながら、座り込んでいる慎二をそのままに、尻ポケットから出した鍵を玄関のドアノブに差し込む。慎二は上目遣いで微笑んできた。
「うん。会いたかったからさ」
「……」
数多くの女たち、いや中には男もいるんだろう、が、この表情にやられてきたのだろう。
そう思えるほどにあざとい。俺もうっかりときめくところだった。あーびっくりした。
「……そうくるか」
思うだけのはずの言葉は、小さく口から零れた。
「なにが? ……ああ、だって、」
慎二は、始めきょとんとしてから、すぐに俺の心中を察した。よっこいしょ、と腰を上げて、立ち上がり、玄関ドアとサンドイッチ状態の俺に向かって甘い声を出した。距離が近い。
「だって俺、まだ振られてないし。会いたかったから、会いに来た」
「……」
やべえ俺、完全に狙われている。
思い出すのは1週間前の夜。焦りが止まらない。
どうする。さあどうする。どうする俺。
この状況で今こいつを家に上げても良いものか。こないだと全く同じ展開になるんじゃないのか。どうしよう。
いやでももう鍵開けちまったし、ここで帰れって言ったら不自然じゃないのか。いや、もうこの際不自然でもいいんじゃ……あんなことされた後だし警戒するのも当然じゃないか、いや、でも、そんなにあからさまに警戒心剥き出しにしたら流石に慎二も傷つくんじゃ、いや、こいつは多少傷ついたほうがいいような、いやでも、そもそもこいつに俺がこんな調子狂わされてるなんて気づかれたくない、逆に調子に乗らせてしまう気がする。うおおどうしよう。
俺がぐるぐる考えながら固まったままでいると、右側からカンカンと鉄階段を上がる小気味良い音が聞こえ、ひょっこりとエリカさんが現れた。
「何してるの? 邪魔なんだけど」
一切悪意のなさそうな調子で軽く暴言を吐き、慎二にそこを退けとばかりに手をひらひらさせて動かそうとしている。
俺ははっと思い立って、慎二の傍をすり抜けると、ぐいっと思いきりよくエリカさんの肩を抱いた。
「おかえりなさい、遅くなってすみません」
「は?」
いきなりのことに目を丸くしているエリカさんに、これ以上喋らせないように慎二に早口で捲し立てる。
「悪い、俺ちょっと今日は用事があるんだ、またな」
そのまま慎二を通りすぎてエリカさんの部屋の前まで逃げた。自分ちの鍵を開けたままだが、そんなのは慎二が居なくなったあとでどうにでもなる。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です
鏑木 うりこ
BL
冤罪で処刑された「慈悲将軍」イアンは小さな白い子狐の中で目を覚ましてしまった。子狐の飼い主は両親に先立たれた少年ラセル。
「ラセルを立派な大人に育てるきゅん!」
自分の言葉の語尾にきゅんとかついちゃう痛みに身悶えしながら中身おっさんの子狐による少年育成が始まった。
「お金、ないきゅん……」
いきなり頓挫する所だったが、将軍時代の激しく濃い部下達が現れたのだ。
濃すぎる部下達、冤罪の謎、ラセルの正体。いくつもの不思議を放置して、子狐イアンと少年ラセルは成長していく。
「木の棒は神が創りたもうた最高の遊び道具だきゅん!」
「ホントだねぇ、イアン。ほーら、とって来て〜」
「きゅーん! 」
今日ももふもふ、元気です。
R18ではありません、もう一度言います、R18ではありません。R15も念の為だけについています。
ただ、可愛い狐と少年がパタパタしているだけでです。
完結致しました。
中弛み、スランプなどを挟みつつ_:(´ཀ`」 ∠):大変申し訳ないですがエンディングまで辿り着かせていただきました。
ありがとうございます!
オニネコ
鬱宗光
BL
仕事で心を病んで会社を辞めてしまったお兄さん。第二の人生を歩むため、一匹のラガマフィンの子猫を人生の転換点として飼い始めた。
甘えん坊で鈍臭く、一つ一つの行動にメロメロになって行くお兄さん。
このまま、他所の家と何ら変わらない、仲良く猫と暮らす日々を送るのだろうと思ってた。
しかし、この子猫には、お兄さんにしか見せない不思議な能力を持ち合わせていた。
これは、第二の人生を歩むお兄さんと、大好きな飼い主ことお兄さんを支えようとする1匹の猫の物語である。
キャラクター情報
ヨリくん。(0歳)
ラガマフィンの男の子。
色は、ブルータビー色。
ある日突然、猫の姿から猫耳ショタに変身できる様になり、世間からヨリくん正体を隠すため、お兄さん以外、家族でさえも秘密にしている。
近所の人に見られた時は、猫耳ショタのコスプレが大好きな親戚の子供として広まっている。
ヨリくんに取ってお兄さんは、パートナー兼、弟分であり、お兄さんの事が大好き過ぎて今では、"ライク"よりも"ラブ"な状態である。
普段の姿は、お兄さんと意思疎通が取れる猫耳ショタになっている日が多く、猫の姿で過ごす時は、自らゲージで寝る時、狭い所に入る時、お兄さん以外の人が家に居る時くらいである。
更に猫耳ショタの時は、お兄さんと遊んでお話をしたり、お兄さんと同じ物を食べたり、どさくさに紛れてお兄さんにセクハラしたりするなど、普通の猫では考えられないキャットライフを送っている。
大好きな玩具は、表向きは普通の猫じゃらしだが、本当はお兄さんの股下にぶら下がっている猫じゃらしが、お気に入りである。
しかし、狙ってしまうと絶対に怒られてしまるため、狙う時は慎重かつ重要な案件としてタイミングを伺っている。
お兄さん(28歳)
ヨリくんのご主人。
前職で心を病んでしまい、Web小説家へと転身。数年間の修行も虚しく、未だに収益化に至らず、蓄えた貯金で食いつないでいる。
愛猫のヨリくんに少し甘く、ヨリくんを実の弟の様に可愛がっている。
ヨリくんの耳と尻尾を触る事に幸福を感じている。
特に、ヨリくんが猫耳ショタの時は、耳をハムハムしながら尻尾を触り、そのまま屈服させては、情けなくメス顔を晒すヨリくんを観察したいと願う変態でもある。
身長175cm
体重非公開
黒髪短髪
どこにでもいる青年である。
ちなみに、ヨリくんを無意識にイケナイ子にしている元凶である。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました
かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。
↓↓↓
無愛想な彼。
でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。
それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。
「私から離れるなんて許さないよ」
見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。
需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。
伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜
にゃーつ
BL
大きなお屋敷の蔵の中。
そこが俺の全て。
聞こえてくる子供の声、楽しそうな家族の音。
そんな音を聞きながら、今日も一日中をこのベッドの上で過ごすんだろう。
11年前、進路の決まっていなかった俺はこの柊家本家の長男である柊結弦さんから縁談の話が来た。由緒正しい家からの縁談に驚いたが、俺が18年を過ごした児童養護施設ひまわり園への寄付の話もあったので高校卒業してすぐに柊さんの家へと足を踏み入れた。
だが実際は縁談なんて話は嘘で、不妊の奥さんの代わりに子どもを産むためにΩである俺が連れてこられたのだった。
逃げないように番契約をされ、3人の子供を産んだ俺は番欠乏で1人で起き上がることもできなくなっていた。そんなある日、見たこともない人が蔵を訪ねてきた。
彼は、柊さんの弟だという。俺をここから救い出したいとそう言ってくれたが俺は・・・・・・
王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?
人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途なαが婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。
・五話完結予定です。
※オメガバースでαが受けっぽいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる