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13話 そういう関係 6
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「おおい、高橋さーん、ばあちゃん、終わったよ庭の草むしり。ったくこんな天気の良い日に頼みやがって。おいこら縁側で寝んなばばあ、飯食ったのかよ、布団出してやっからちょっと待って。ついでに皿洗ってやっから5万用意しといてよ。……500円じゃねえよ! 5千円だよガキの駄賃じゃねぇんだからさあ!」
慎二には会うこともなく、1週間が過ぎた。恐ろしいくらいに何もなくて、静かだった。連絡がくることもないし、社長はいつも通りいい加減だし、得意先のばあちゃんは相変わらず縁側が好きだった。
「7月のはずなんだけどなあ」
灼熱。なのに紫陽花が咲いている。どうした四季。地球はそろそろ終わりかもしれない。
近所だからと自転車で来たのが間違いだった。作業着の長い袖を捲っても一向に涼しさは感じない。ハンドルを握る腕がちりちりと焼けていく。雲のない上空にはヘリコプターが爆音を響かせてどこかへ飛んでいた。
「あつ……」
物置みたいな雑然とした会社に汗だくで戻ると、社長は事務所のクーラーの前で悠々とソーダアイスを食べていた。
「よっ、おかえりー」
回転椅子をくるりとこちらに向ける。四角い顔に若干出てきた腹が本人曰くチャームポイントらしい。人の良い笑顔に迎えられて腹立たしさが込み上げる。
「俺もアイス頂戴」
仏頂面で手を出すと本気で嫌そうな顔をされた。
「ええー、嫌だよあといっこしかねえもん」
「それ昨日買ってきたやつっすよね。一人でどんだけ食ってんだよ」
汗水垂らして働いてきた唯一の社員に対してこの仕打ち。腹壊してしまえと念じながら自分で冷凍庫を開けると、昨日俺が買ってきたはずのソーダアイスは本当に1本しか残っていなかった。また買いに行かなくては。
「また買ってきといてよー」
間延びした調子で社長が最後の一口を食べ終わる。俺は自分の椅子に腰かけて個包装のビニールを破った。
「暇なら自分で買ってきてくださいよ。そんなに俺が事務所にいるの嫌ですか」
「嫌だなあ、そんなわけないだろう。あきら大好きなのにー」
軽口とはいえキモいわオッサン。ソーダ美味い。
大好き、ねえ。
「なあなあ社長、俺のどこが好きー?」
社長の口調を真似して聞いてみると、社長は真顔に戻って「どうした、暑さで頭やられたんか」と心配してきた。俺は冗談の一環だと分かっているので特に気にするでもなく、そうそう人生の路頭に迷いそうでさ、と適当な返事をした。社長はまたすぐに表情筋をゆるめて、そうねえ、と何故か少しだけなよなよとしてみせた。
「俺の代わりに馬車馬のように働いてくれるところだな」
「あっそ」
そうだな、あんたそういう人だよ。
「そういえばあきら」
「なんすか。あ、はいこれ5千円」
「慎二遊びに来てたよん、さっき」
なに。自分の意思とは無関係に肩が跳ねた。取り敢えず5千円渡す。
「……なにしに?」
努めて平静を装ったつもりだが、やべえアイス落とすところだった。
「だから遊びにだって。お前いなかったからすぐ帰ったけど。……なんだい喧嘩でもしてんの?」
「いや、別に」
動揺を隠そうとアイスを頬張る。俺があからさまに反応したせいで、社長は何か察しのついたような顔をした。
「ははーん。痴情のもつれだな」
「ははは馬鹿言ってんじゃねえや」
なに言ってんだかこの人は。
その通りだよ。
「慎二、何か言ってました?」
「いんや別に」
「そすか」
俺に直接連絡することなくいきなり会社来るとか。……なんだろ。
慎二には会うこともなく、1週間が過ぎた。恐ろしいくらいに何もなくて、静かだった。連絡がくることもないし、社長はいつも通りいい加減だし、得意先のばあちゃんは相変わらず縁側が好きだった。
「7月のはずなんだけどなあ」
灼熱。なのに紫陽花が咲いている。どうした四季。地球はそろそろ終わりかもしれない。
近所だからと自転車で来たのが間違いだった。作業着の長い袖を捲っても一向に涼しさは感じない。ハンドルを握る腕がちりちりと焼けていく。雲のない上空にはヘリコプターが爆音を響かせてどこかへ飛んでいた。
「あつ……」
物置みたいな雑然とした会社に汗だくで戻ると、社長は事務所のクーラーの前で悠々とソーダアイスを食べていた。
「よっ、おかえりー」
回転椅子をくるりとこちらに向ける。四角い顔に若干出てきた腹が本人曰くチャームポイントらしい。人の良い笑顔に迎えられて腹立たしさが込み上げる。
「俺もアイス頂戴」
仏頂面で手を出すと本気で嫌そうな顔をされた。
「ええー、嫌だよあといっこしかねえもん」
「それ昨日買ってきたやつっすよね。一人でどんだけ食ってんだよ」
汗水垂らして働いてきた唯一の社員に対してこの仕打ち。腹壊してしまえと念じながら自分で冷凍庫を開けると、昨日俺が買ってきたはずのソーダアイスは本当に1本しか残っていなかった。また買いに行かなくては。
「また買ってきといてよー」
間延びした調子で社長が最後の一口を食べ終わる。俺は自分の椅子に腰かけて個包装のビニールを破った。
「暇なら自分で買ってきてくださいよ。そんなに俺が事務所にいるの嫌ですか」
「嫌だなあ、そんなわけないだろう。あきら大好きなのにー」
軽口とはいえキモいわオッサン。ソーダ美味い。
大好き、ねえ。
「なあなあ社長、俺のどこが好きー?」
社長の口調を真似して聞いてみると、社長は真顔に戻って「どうした、暑さで頭やられたんか」と心配してきた。俺は冗談の一環だと分かっているので特に気にするでもなく、そうそう人生の路頭に迷いそうでさ、と適当な返事をした。社長はまたすぐに表情筋をゆるめて、そうねえ、と何故か少しだけなよなよとしてみせた。
「俺の代わりに馬車馬のように働いてくれるところだな」
「あっそ」
そうだな、あんたそういう人だよ。
「そういえばあきら」
「なんすか。あ、はいこれ5千円」
「慎二遊びに来てたよん、さっき」
なに。自分の意思とは無関係に肩が跳ねた。取り敢えず5千円渡す。
「……なにしに?」
努めて平静を装ったつもりだが、やべえアイス落とすところだった。
「だから遊びにだって。お前いなかったからすぐ帰ったけど。……なんだい喧嘩でもしてんの?」
「いや、別に」
動揺を隠そうとアイスを頬張る。俺があからさまに反応したせいで、社長は何か察しのついたような顔をした。
「ははーん。痴情のもつれだな」
「ははは馬鹿言ってんじゃねえや」
なに言ってんだかこの人は。
その通りだよ。
「慎二、何か言ってました?」
「いんや別に」
「そすか」
俺に直接連絡することなくいきなり会社来るとか。……なんだろ。
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