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11話 そういう関係 4
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俺が浮かんだ疑問をそのまま口に出してその万札を受け取ると、あのね、と話し出しながら、エリカさんは長財布を、それとあまり変わらない大きさのバッグにしまった。
「準備して出ようと思ってたんだけど、ちょっと早く来てって急かされちゃって、陽平のごはんがないのよ。10時くらいに帰ってくるから、それくらいに何か用意してやって欲しいの。うち今、すぐに食べれるものなくって。ピザとかそんなんでもいいよ、あきらくんの好きなものでいいし。余ったお金はあげるから。ごめんねお願い! 行ってきまーす」
と、俺の返事も聞かずにエリカさんは、ベージュのハイヒールで忙しない音を響かせながら階段下へ消えて行ってしまった。俺の手に万札1枚渡したまま。
「……なんじゃそりゃ」
取り敢えず部屋に戻り、受け取ったそれを机の上に置く。仕事柄、人に頼られるのは嫌いじゃない。でも10時って。何時間あると思ってんだよ。
で、結局俺がどうしたかというと、わざわざピザ屋までピザを買いに行った。
理由は3つあった。
ひとつは、簡単に言えば何を買えばいいか分からない。陽平さんの好みとか、量とか、一切なにも言わずにエリカさんは去って行ってしまい、選ぶものに困ったから。
ふたつめは、単純に暇だったから。
みっつめは、預かっている他人の金なんだから、浮かせる部分は浮かすべきだと判断したからだ。店に直接買いに行けば、2枚目がちょっと安くなる。
そんな訳で俺は少しばかり涼しい夜道を、歩いて15分の距離にあるピザ屋までお使いに行った訳だ。
家に着いたのは9時半を少し過ぎた頃だった。隣の部屋にはまだ明かりがついていなくて、しゃあない後でもっかい様子を見に出るしかないか、と自分の部屋へ入った。
結局陽平さんが帰ってきたのは、それから1時間経った頃だった。玄関を開ける音が聞こえたから、すっかり冷めてしまったピザを持って隣のインターホンを押す。出てきた陽平さんは一瞬だけ誰だお前みたいな顔をしてから、おうお前か、どうした、と、驚いた様子を見せた。
「エリカさんに頼まれてお使いしてきました。はいこれ、夜メシ。冷めてますけど」
貰った包装そのままにまるごと渡すと、陽平さんは一気に顔が綻んだ。分かりやすいなー。
「まーじか、助かった、有難うな」
「いえいえ、あとこれ、お釣りです」
「はいよ」
陽平さんは受け取った金額を確認する素振りを一切見せず、小銭だけポケットに放り込んだ。そして渡したうちの千円札5枚を、ババ抜きのようにして俺の前に開いて見せた。にやり、片頬だけで笑う。
「いくらにする?バイト代」
「うーん」
エリカさんは全額くれると言った。でも恐らく陽平さんはそれを知らない。
「じゃ、ありがたく」
俺は2枚抜き取った。
「謙虚なやつだな。まあ入れや、一緒に食おうぜ」
そう言って陽平さんはドアを更に開いた。そんなつもりは毛頭なかったから断ると、陽平さんはあからさまにしょげた。
「なんだよお前付き合えよ。想像してみろ、仕事帰りの疲れたオッサンが一人寂しく冷めたピザ食ってる姿」
「ああー……」
軽く想像出来て、思わず嘆息してしまった。それは確かに……
「ヤバいっすね」
「だろ、ついでだからお前ちょっと相手しろって」
陽平さんは楽しそうに親指をくいっと部屋の中へ向けた。仕方がねえなあ、タダ働きすっか。
「んじゃ、遠慮なくお邪魔します」
「準備して出ようと思ってたんだけど、ちょっと早く来てって急かされちゃって、陽平のごはんがないのよ。10時くらいに帰ってくるから、それくらいに何か用意してやって欲しいの。うち今、すぐに食べれるものなくって。ピザとかそんなんでもいいよ、あきらくんの好きなものでいいし。余ったお金はあげるから。ごめんねお願い! 行ってきまーす」
と、俺の返事も聞かずにエリカさんは、ベージュのハイヒールで忙しない音を響かせながら階段下へ消えて行ってしまった。俺の手に万札1枚渡したまま。
「……なんじゃそりゃ」
取り敢えず部屋に戻り、受け取ったそれを机の上に置く。仕事柄、人に頼られるのは嫌いじゃない。でも10時って。何時間あると思ってんだよ。
で、結局俺がどうしたかというと、わざわざピザ屋までピザを買いに行った。
理由は3つあった。
ひとつは、簡単に言えば何を買えばいいか分からない。陽平さんの好みとか、量とか、一切なにも言わずにエリカさんは去って行ってしまい、選ぶものに困ったから。
ふたつめは、単純に暇だったから。
みっつめは、預かっている他人の金なんだから、浮かせる部分は浮かすべきだと判断したからだ。店に直接買いに行けば、2枚目がちょっと安くなる。
そんな訳で俺は少しばかり涼しい夜道を、歩いて15分の距離にあるピザ屋までお使いに行った訳だ。
家に着いたのは9時半を少し過ぎた頃だった。隣の部屋にはまだ明かりがついていなくて、しゃあない後でもっかい様子を見に出るしかないか、と自分の部屋へ入った。
結局陽平さんが帰ってきたのは、それから1時間経った頃だった。玄関を開ける音が聞こえたから、すっかり冷めてしまったピザを持って隣のインターホンを押す。出てきた陽平さんは一瞬だけ誰だお前みたいな顔をしてから、おうお前か、どうした、と、驚いた様子を見せた。
「エリカさんに頼まれてお使いしてきました。はいこれ、夜メシ。冷めてますけど」
貰った包装そのままにまるごと渡すと、陽平さんは一気に顔が綻んだ。分かりやすいなー。
「まーじか、助かった、有難うな」
「いえいえ、あとこれ、お釣りです」
「はいよ」
陽平さんは受け取った金額を確認する素振りを一切見せず、小銭だけポケットに放り込んだ。そして渡したうちの千円札5枚を、ババ抜きのようにして俺の前に開いて見せた。にやり、片頬だけで笑う。
「いくらにする?バイト代」
「うーん」
エリカさんは全額くれると言った。でも恐らく陽平さんはそれを知らない。
「じゃ、ありがたく」
俺は2枚抜き取った。
「謙虚なやつだな。まあ入れや、一緒に食おうぜ」
そう言って陽平さんはドアを更に開いた。そんなつもりは毛頭なかったから断ると、陽平さんはあからさまにしょげた。
「なんだよお前付き合えよ。想像してみろ、仕事帰りの疲れたオッサンが一人寂しく冷めたピザ食ってる姿」
「ああー……」
軽く想像出来て、思わず嘆息してしまった。それは確かに……
「ヤバいっすね」
「だろ、ついでだからお前ちょっと相手しろって」
陽平さんは楽しそうに親指をくいっと部屋の中へ向けた。仕方がねえなあ、タダ働きすっか。
「んじゃ、遠慮なくお邪魔します」
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