夏緒

文字の大きさ
上 下
4 / 60

4話 へんな人たち 4

しおりを挟む
「あ、社長? ごめん俺今起きた。ごめん。10時には行くわ。うんごめん。じゃ」
 くっそ寝坊したじゃねえかよ。
 あれもこれも全部慎二のせいだ。液晶画面にでかでかと主張する時計。
「9時じゃん」
 やべー。ま、今日は確かまだ確定した仕事なかったはずだし、いいか。社長も別に怒ってなかったしな。朝飯コンビニで買ってこ。
 ワンルームの部屋の中はいつも通りだ。窓から風が入ってきてカーテンを揺らしている。壁際の小さめのテレビはつける気にならない。取り敢えず会社の作業着に着替えて、顔洗って歯みがきして、眩しすぎる朝日に向かって玄関ドアを開けた。
 ボロいドアノブに鍵を閉めていると、ガチャリと右隣の部屋のドアが開いた。
 そういや会ったことねえんだよな。生活時間帯が違うんだろうけど、こんな時間からお出掛けとはどんな生活してんだか。
 自分のことを棚上げにしてそう思いながら好奇心半分に隣のドアに目をやると、中から出てきたのは昨夜の厳ついオッサンだった。髪は整えてるけど無精髭はそのまんま。Tシャツにジーパンで、なんっつー楽そうな格好。
「戸締まりしとけよ」
 オッサンが中に向かって声をかける。
「取るもんないわよー。あたし今夜店に顔出しに……あれ?」
 続けて出てきたのは、いかにも寝起きといわんばかりの装いの、昨夜のお姉さん、もといエリカさんだった。昨日の服そのまんま。
「昨日のお兄さんじゃん」
 まじか。
 隣の部屋だったんか。
「おはようございます。隣だったんですね」
 取り敢えず朝の挨拶。
 おはよう、奇遇だね、と返したエリカさんの声は、昨夜聞いたよりも少しだけ掠れていた。
「おう青年。おはよう。今から仕事か」
 見た目にそぐわず笑顔の爽やかなオッサンだな。
 何歳だろこの人。結構年上に見える。30代後半、40代かもしれない。
「ああ、はい、寝坊しちまって。そちらはお出掛けですかっていうか、なんかすいませんでした、昨日」
 取り敢えずやっぱキスしたことは謝るべきかと思って、軽く頭を下げると、二人はなにが? とでも言いたそうにぽかんとした。
 え、なにもう覚えてないわけ? この人ら。
「あ、もしかしてちゅーのこと? 全然気にしてないよ、ねえ陽平」
 エリカさんが笑うとオッサンも軽くああ、と返す。
「あ、そっすか」
 もうちょっと気にしてくれよ、と思わないでもなかったがまあいいか。へんな人たちだ。
「っていうかね、ちょっと待って」
 エリカさんは途端になにか考え込むように額に指をつけた。昨日も思ったけど今改めて見てつくづく思う。すっげえ美人だな、この人。っつーか俺仕事行きたいんだけどな。
「昨日の……お隣さん……」
 ぶつぶつと呟くエリカさんに、オッサンもとい陽平さんは「あ!」とデカイ声を上げてエリカさんを見た。エリカさんまでが同じように「あああ!」とデカイ声を出して、それから二人同時に俺を見て指を指した。

「「昨日のケツ掘られてたほうだ!」」

「…………………………はい?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

処理中です...