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永遠の夜※お兄様視点

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 コレットが、俺の制止を聞かずに背を向けると、毒ナイフを自分の身体に刺した。

 頭が真っ白になる。
 俺は、コレットを決して傷つけないように、手放そうとした。

 コレットは俺を諦めず、自分の想いを伝えてきた。
 それを無視した俺の前で、コレットが、泣きながら死んでいた。

「嘘だろ」

 幸せになって欲しかった。
 俺が傍にいたら、いつかコレットを壊すと思った。

 だから、苦しみ抜いた末に身を引くことを選んだ。

 ずっと、コレットに未練があった。
 馬鹿で可愛すぎる弟を想い続けていた。
 愛していた。
 視界に入るだけで胸が痛くなって。
 同じ部屋で過ごしていた記憶が鮮明によみがえる。

「コレット……」

 近づいて、真っ赤に染まった胸を止血しようとする。
 止めるまでもなかった。
 コレットは出血をしすぎて、血が固まって止まっていた。

 弟に唇を重ねる。
 もう、息をしていなかった。
 コレットの唇から垂れた血を拭う。
 そして、上半身を起こす。
 力の抜けた身体は重くて、俺はその時になってようやく、コレットがもう死んでしまったという事実を受け入れた。

 その瞬間、俺は視界が真っ赤になって、絶叫していた。
 気が狂って、もう何も分からなくなっていた。
 俺はコレットの使った毒ナイフを拾って、それを自分の胸に刺した。
 シャコっとナイフの刃の部分が縮んで、俺はそれがただの玩具だということに気づいた。

「えへへ。お兄様の本音チェックしたんだよ」
「うああああぁぁっ!」

 俺の弟はどうしてこんなに馬鹿なんだ!?
 怒りのあまりコレットを押し倒し、股を開く。

「ああ、お兄様ぁ」
「お前なんか殺してやる!」

 コレットを狂ったように犯す。
 小さい身体を壊れるくらい強く抱いて、無茶苦茶にした。
 何度も小さい口を塞いで、キスをして。

 落ち着くまでの間に、何度も抱いて。
 失神したコレットを抱いて、ベッドに入れる。
 俺達はベッドすら使わず、床でコレットとまぐわっていた。

「コレット……コレット」

 何度も肩を揺すると、唇の端から涎を垂らして満足げなコレットがニッコリと俺を見た。

「お兄様の気持ちいっぱい伝わったよ」
「ごめん……!」

 失神するまで弟を犯すなんてどうかしてる。
 それでも、コレットは嬉しいと言う。

 歪な関係を脱却したかった。
 兄として弟の幸せを祈れるよう、瞑想して欲望からの脱却だって試みた。
 利害が一致した女と愛のない婚約だってして、弟の為に人生の何もかもを諦める努力をした。それなのに、結果がこのザマだ。弟を獣のように犯して、乱暴に扱ってしまう。それが、俺と言う兄の在り方なのだ。

「ふふ、僕は嬉しかったよ」

 コレットの雪のような肌にキスをする。どうしても、離れがたい。
 もっと大事にしたいのに。

「お兄様、僕がいなくなるの怖かった?」
「気が狂うかと思った」

 というか、あの瞬間、本当に俺は狂ってた。
 あれが弟を失う喪失なのだと、初めて知った……。

「僕がお兄様を失う気持ち、分かった?」
「……分かった」
「お兄様が本当に僕を拒絶するなら、次は冗談じゃ済まないかもね」
「頼むから、何か行動を起こす前には俺に相談してくれ」
「ずっと僕を拒絶してたのに?」

 拗ねるコレットを抱き寄せる。

「ごめんねお兄様。僕、お兄様と離れてる間に色んな婚約者にごめんなさいしたの」
「ああ、知ってるよ」
「皆、お兄様から捨てられた僕に同情してた。優しくしてくれたよ? 相談に乗ってもらおうとしたら、汚されたこともあった。抵抗したらお兄様に言うぞって言われて、無理やりされちゃった」

 俺だけのモノにしたくなる。
 強くコレットを抱く。
 俺の覚悟に何の意味があったんだ。
 結果は弟を傷つけ、踏みにじっただけだった。
 後悔で何も言えなくなる……。

「ふふ、なんてね。本当はエッチまではいってないよ。皆、お兄様に怯えてたから、タッチすらしてこなかった」
「……どうしてそんな、俺を騙すようなことを」
「もっと危機感を持たせる為! お兄様は想像力が足りないよ。もっと貴重なコレットの貴重さを感じてよ。僕が知らない男にキスされたり、無理やりされたりしたら、嫌でしょ? だったら、もう諦めてさ、自分の駄目さ加減を認めたら?」

 駄目さ……加減?

「結局、お兄様は自分で思ってる以上にダメダメなんだって。僕がいないともう駄目な風になってるの。どうせ難しく考えたって無意味なんだし、それだったら諦めて、僕を受け入れた上で、一緒に幸せになる方法を考えようよ」

 俺は変態で、実の弟に欲情していて、嫉妬深くショタコンなクソ兄貴だ。
 弟のケツを見るだけで発情する最低な狼兄貴だとも思ってる。

「ね、諦めよう。僕を幸せにする為に苦しむのはお兄様の義務。そういうことでよくない?」
「……そうだな」
「怖かったんでしょ。魔女の言ったことが」

 いきなり核心を突かれ、何も言えなくなる。

「でもそれ、たぶん僕の玉座を狙ったわけじゃないと思うよ」
「……はぁ?」
「僕がよその女に取られたのが悔しくて、発狂して殺したんじゃない?」

 ――弟の仮説にゾッとする。

「ね、もしも僕を遠ざけてさ。そのあと、キモイおっさんとかハンサムな若い男とかに僕が寝取られて。それでも幸せそうに蕩けてたら、お兄様、正常でいられた?」

 想像する。白髪に白い肌、透き通るような蒼い瞳にあどけない表情を浮かべた俺のコレットが、俺以外の男と幸せそうに身体をぶつけてじゃれあい、キスなんかしていたら。

 俺は気が狂って、その幸せを絶望で塗り潰そうとしたかもしれない。

「あ、ちなみに、お兄様が死んだら僕も死ぬよ。それも、きもーいオッサンに奴隷にされたあとでね」

 コレットは逃げ道を作らない。
 どこまでが天然か分からないその思考で、悪魔の如く俺の逃げ道を塞ぐ。

「ね、幸せにして。……そうじゃないと僕、この恰好のまま、上に薄い布だけまとって二度とお兄様の手が届かないところにいくよ」
「ああもう愛してる。ずっと傍に居て欲しい。結婚しよう。俺は嫉妬深いから、お前に傍にいて貰わないと駄目になるみたいだ」
「よく言えました。ふふ、おっぱいあげまちゅね?」

 ――プロポーズのタイミングでこんな馬鹿にしたことをのたまうコレットのことを、俺はベッドに押し倒す。吹っ切れたら、急にエッチがしたくなってきた。

「僕さー、お兄様にエッチ以外にあげられないって落ち込んでたんだけど。お兄様が僕のことしか欲しがらないのもいけない気がしてきた」
「……まあ、究極の愛がこれなんだから仕方ないだろ」

 弟が納得した顔で穏やかに微笑む。

 弟をどうにかしようと思っていた俺だが、ふと今日はこのまま甘えていたくなった。

「今日は挑発とかしないで、ぎゅっとさせててくれるか?」
「いいよ? 安心したら甘えたい気分になったの?」

 頭を抱えて抱きしめる。
 髪を撫でてやってたら、すぐに弟は寝落ちしそうになった。

「こうしてると落ち着くの。だからもう、意地悪しないでね」

 人間の愚かさを凝縮したような俺に、コレットの傍にいる資格はないのだとしても。……この手を離さないことだけは、約束させて欲しい。

 弟の表情が曇らないように、俺はいつまでも大切な身体を抱いていた。
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