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変わらない優しさ

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 ジュンの屋敷を訪ねて、ドアノックを叩く。

 緊張しつつ待っていると彼が扉を開けた。
 それだけで、胸がギュっとしてしまう。

 私が胸を押さえると、ジュンが「持病か?」と聞いてきた。

 今なら分かるよ。
 ジュンも私でいっぱい限界化してたんだね。

「早朝に何の用だ?」
「あ、あの、先日は医務室へ運んでいただき、それだけではなく、王様との諍いから守っていただき、ありがとうございました」
「そんなこともあったな」

 突然の訪問に驚いているのか、口調が素の時の彼で嬉しい。
 穏やかに話す彼も好きだけど、取り繕ってない彼も好きだ。
 素っ気ないところが可愛げに思える私は大概かもしれない。

「……と。申し訳ありません。侯爵令嬢相手に不遜ふそんな態度を」

 彼が距離を置こうとするので、思わず遠ざかっていく腕を掴んでしまった。

「あの……。今みたいに自然に接していただいた方が、私は嬉しいです。ジュンは大切な恩人ですから」
「……変わった令嬢だな。普通、こんな話し方をすると眉をひそめられるものだが。わざわざ礼を言いに来てくれたのか?」
「いえ、お風呂を借りに……」
「はぁ!?」

 おお、ジュンを驚かせてしまった。

 こんな風に驚く彼はあまり見たことがない。

「こんなところで身体を洗って誰と寝るつもりだ?」
「あ、いえ」
「事情を聞かせろ。貸すか貸さないかはそのあとで決める」

 違うんです!
 誤解なんです!

「私ではなくこの子の為に、お風呂を貸してください!」
「こんにちは」

 ドアの陰からひょこっとアリシアが顔を出す。

「……そうは見えないが、妹かなんかか」
「朝、公園で拾いました」
「だろうな。出来心で拾ってきたのか?」
「ちゃんと面倒は見るつもりです! 出来心じゃありません! どうか! お金はありますから!」
「まったく……」

 ジュンが呆れて後ろ頭を掻いた。

「てっきり礼でもしに来たのかと思ったら、ガキのお守りを手伝わせるなんてな」
「……すみません。でも、他に頼れる方がいないと思ったんです。王都の貴族は冷たいですから。あ、いかないでアリシア」

 アリシアが黙って逃げ出そうとするので、泥だらけの手を掴む。

 私とアリシアを見ていたジュンが、堪らないとばかりに吹き出して笑い始めた。
 いきなり笑われてポカンとしてしまう。

「……おかしすぎだろ」
「え、えっと?」
「お人よし加減は十分に伝わって来たよ。外に立たせておくわけにもいかないから中に入ってくれ」

 世界は変わってしまったけど、ジュンの優しさは変わってなかった。
 そのことが嬉しい。

「ありがとうございます」
「ん? ああ」

 思わず笑顔になった私から、ジュンが視線を逸らす。

 今のジュンは感謝されなれてないのかな。
 優しい人なのにな。

 ジュンに対する思いが溢れて、心がいっぱいだった。
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