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9 イファ、ぶちまける(色々と)

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「ところで、わたくしのことは無視してますの?」
「無視だなんてとんでもないよ」
「オジサマ、ちゃんと推してくださらないと困ります。せっかくヒロト様と同じパーティに入れたのに、二人だけで話をされたら寂しいです」
「そうだね。見てのとおり彼女は君の熱烈なストーカーだよ。ジョブは『ヒーラー』って言ってるけど本当は『魔王』で、どちらかといえば企業側に所属すべき子なんだ。本人が冒険者になるって聞かないから、仕方なく研修っていう形でパーティに捻じ込んだんだけど、まさかヒロトの新パーティに加わるとはね」

 魔王……。それは、ダンジョンの支配者が持つジョブだ。
 その能力は、支配するダンジョンにおける全ステータスの向上。
 それがなくても全魔法を最高の威力で使えるという十分なスペックで活躍できるけど、冒険者にしておくには勿体ない逸材だと思う。

 自分のダンジョンを持たせるだけで、難攻不落の要塞が誕生するんだ。
 企業側からしたら是非囲っておきたい存在だと思う。

「今のところ全社からスカウトを受けててね。引く手数多ってレベルじゃないくらいその能力を渇望されてる子なんだよ」
「連れてるだけで企業から恨まれそうな子ですね」
「間違いないよ。多分、彼女を連れてるだけで躍起になって君を潰そうとしてくるだろうね。魔王っていうのは本当に希少なジョブなんだ。勇者の十倍は珍しいし、現役だと一人しかいないんじゃないかな」
「あー……」

 加入を断りたいけど、今さらだよね……。

「あの、ヒロト様?」
「ん?」

 イファがおねだりをするように見上げてくる。
 子犬のようで可愛いなと思ってたら、腕をガッチリと掴まれた。

「わたくし、裏切られることが一番嫌いなんです。過去に信じていた殿方に裏切られたことがあって、それがトラウマになっているんです。もしまた裏切られるようなことがあれば、その時は自分でも何をしてしまうか分かりません」
「そう……なんだ」
「はい。実は学生だった頃、一カ月かけて手紙まで書いて告白しようとしたのに、取り巻きのクズにブスだという理由で蹴りまで入れられてしまって、返事がもらえなかったことがあるんです。あの時はお腹がキューって痛くなって、立っていられなくなる程の辛さでした。結局、書いた手紙は読んでもらえず、その殿方はわたくしに手を差し伸べてくれませんでした。あんなに優しい言葉をかけてくださったのに、信じた瞬間に裏切られたんです」

 胃が痛くなる……。その意中の殿方っていうのは、間違いなく僕のことだ。

「ふふ……まあ、当時のわたくしはお父様とお母様から過剰な寵愛を受けて、豚のように醜く肥えていました。告白をされて迷惑だったのは本当でしょうね」
「どうして、そんな話をしてくれたの?」
「あの方にあなたがソックリだったからです。声も、優しげな雰囲気も、全て……」
「恨んでるんだね……」
「はい。ですが、感謝もしています。最後に振り返ってくださったので、その心配げな眼差しだけで、わたくしには十分でした」

 イファが空いた手でクシャクシャになって黒ずんだ手紙を差し出してきた。
 血走った目が真っ直ぐに僕を見てる。

「ふふ……実は、その殿方というのはあなたのことなんですよ。わたくしのこと、もう裏切りませんよね? こんなにも綺麗になったんです。裏切る理由はありませんわよね? あなたの為に顔も身体も所作も言葉遣いも全部綺麗にしてきましたの。ヒロト様に受け入れていただく為に、わたくしは努力と研鑽を欠かさなかったのですわ。だから、ヒロト様には、二度とわたくしを裏切ってほしくありませんの。ヒロト様はどうお考えですか? わたくしはヒロト様にとって魅力的に映ってますか? 監禁して自分だけのお人形にしたいくらい可愛く感じてますの? ね、ヒロト様、答えてください」

 ちょっと……痛い……。
 ギリギリと爪が食い込んでくる。

「イファ、その辺にしておかないと怖いよ」
「こわ……!? 申し訳ありませんヒロト様! 脅かすつもりはなかったのです。ただ、こうして同じパーティで働けるのが嬉しくて、気持ちが盛り上がってしまいました」
「だ、大事な手紙は読ませてもらうよ。今さらだけど……」
「嬉しいです。お返事は一生お待ちしておりますので、きっと返してくださいまし」

 一生って、スケールがでかすぎるよ。
 でも、それだけ僕を思ってるのは本当みたいだ。
 まだ腕の痛みが残ってる。

「シンさん、あらためてイファを紹介してくれてありがとうございます」

 とんでもない事故物件を預けてくれてありがとうございますという気持ちを伝える。
 シンさんはそっと目を逸らした。

「仲良くしてあげてね。根は良い子だから。少し感情をセーブできないだけで……」
「一度走り出したら止まれませんの。性分ですわ」
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