9 / 19
9 イファ、ぶちまける(色々と)
しおりを挟む
「ところで、わたくしのことは無視してますの?」
「無視だなんてとんでもないよ」
「オジサマ、ちゃんと推してくださらないと困ります。せっかくヒロト様と同じパーティに入れたのに、二人だけで話をされたら寂しいです」
「そうだね。見てのとおり彼女は君の熱烈なストーカーだよ。ジョブは『ヒーラー』って言ってるけど本当は『魔王』で、どちらかといえば企業側に所属すべき子なんだ。本人が冒険者になるって聞かないから、仕方なく研修っていう形でパーティに捻じ込んだんだけど、まさかヒロトの新パーティに加わるとはね」
魔王……。それは、ダンジョンの支配者が持つジョブだ。
その能力は、支配するダンジョンにおける全ステータスの向上。
それがなくても全魔法を最高の威力で使えるという十分なスペックで活躍できるけど、冒険者にしておくには勿体ない逸材だと思う。
自分のダンジョンを持たせるだけで、難攻不落の要塞が誕生するんだ。
企業側からしたら是非囲っておきたい存在だと思う。
「今のところ全社からスカウトを受けててね。引く手数多ってレベルじゃないくらいその能力を渇望されてる子なんだよ」
「連れてるだけで企業から恨まれそうな子ですね」
「間違いないよ。多分、彼女を連れてるだけで躍起になって君を潰そうとしてくるだろうね。魔王っていうのは本当に希少なジョブなんだ。勇者の十倍は珍しいし、現役だと一人しかいないんじゃないかな」
「あー……」
加入を断りたいけど、今さらだよね……。
「あの、ヒロト様?」
「ん?」
イファがおねだりをするように見上げてくる。
子犬のようで可愛いなと思ってたら、腕をガッチリと掴まれた。
「わたくし、裏切られることが一番嫌いなんです。過去に信じていた殿方に裏切られたことがあって、それがトラウマになっているんです。もしまた裏切られるようなことがあれば、その時は自分でも何をしてしまうか分かりません」
「そう……なんだ」
「はい。実は学生だった頃、一カ月かけて手紙まで書いて告白しようとしたのに、取り巻きのクズにブスだという理由で蹴りまで入れられてしまって、返事がもらえなかったことがあるんです。あの時はお腹がキューって痛くなって、立っていられなくなる程の辛さでした。結局、書いた手紙は読んでもらえず、その殿方はわたくしに手を差し伸べてくれませんでした。あんなに優しい言葉をかけてくださったのに、信じた瞬間に裏切られたんです」
胃が痛くなる……。その意中の殿方っていうのは、間違いなく僕のことだ。
「ふふ……まあ、当時のわたくしはお父様とお母様から過剰な寵愛を受けて、豚のように醜く肥えていました。告白をされて迷惑だったのは本当でしょうね」
「どうして、そんな話をしてくれたの?」
「あの方にあなたがソックリだったからです。声も、優しげな雰囲気も、全て……」
「恨んでるんだね……」
「はい。ですが、感謝もしています。最後に振り返ってくださったので、その心配げな眼差しだけで、わたくしには十分でした」
イファが空いた手でクシャクシャになって黒ずんだ手紙を差し出してきた。
血走った目が真っ直ぐに僕を見てる。
「ふふ……実は、その殿方というのはあなたのことなんですよ。わたくしのこと、もう裏切りませんよね? こんなにも綺麗になったんです。裏切る理由はありませんわよね? あなたの為に顔も身体も所作も言葉遣いも全部綺麗にしてきましたの。ヒロト様に受け入れていただく為に、わたくしは努力と研鑽を欠かさなかったのですわ。だから、ヒロト様には、二度とわたくしを裏切ってほしくありませんの。ヒロト様はどうお考えですか? わたくしはヒロト様にとって魅力的に映ってますか? 監禁して自分だけのお人形にしたいくらい可愛く感じてますの? ね、ヒロト様、答えてください」
ちょっと……痛い……。
ギリギリと爪が食い込んでくる。
「イファ、その辺にしておかないと怖いよ」
「こわ……!? 申し訳ありませんヒロト様! 脅かすつもりはなかったのです。ただ、こうして同じパーティで働けるのが嬉しくて、気持ちが盛り上がってしまいました」
「だ、大事な手紙は読ませてもらうよ。今さらだけど……」
「嬉しいです。お返事は一生お待ちしておりますので、きっと返してくださいまし」
一生って、スケールがでかすぎるよ。
でも、それだけ僕を思ってるのは本当みたいだ。
まだ腕の痛みが残ってる。
「シンさん、あらためてイファを紹介してくれてありがとうございます」
とんでもない事故物件を預けてくれてありがとうございますという気持ちを伝える。
シンさんはそっと目を逸らした。
「仲良くしてあげてね。根は良い子だから。少し感情をセーブできないだけで……」
「一度走り出したら止まれませんの。性分ですわ」
「無視だなんてとんでもないよ」
「オジサマ、ちゃんと推してくださらないと困ります。せっかくヒロト様と同じパーティに入れたのに、二人だけで話をされたら寂しいです」
「そうだね。見てのとおり彼女は君の熱烈なストーカーだよ。ジョブは『ヒーラー』って言ってるけど本当は『魔王』で、どちらかといえば企業側に所属すべき子なんだ。本人が冒険者になるって聞かないから、仕方なく研修っていう形でパーティに捻じ込んだんだけど、まさかヒロトの新パーティに加わるとはね」
魔王……。それは、ダンジョンの支配者が持つジョブだ。
その能力は、支配するダンジョンにおける全ステータスの向上。
それがなくても全魔法を最高の威力で使えるという十分なスペックで活躍できるけど、冒険者にしておくには勿体ない逸材だと思う。
自分のダンジョンを持たせるだけで、難攻不落の要塞が誕生するんだ。
企業側からしたら是非囲っておきたい存在だと思う。
「今のところ全社からスカウトを受けててね。引く手数多ってレベルじゃないくらいその能力を渇望されてる子なんだよ」
「連れてるだけで企業から恨まれそうな子ですね」
「間違いないよ。多分、彼女を連れてるだけで躍起になって君を潰そうとしてくるだろうね。魔王っていうのは本当に希少なジョブなんだ。勇者の十倍は珍しいし、現役だと一人しかいないんじゃないかな」
「あー……」
加入を断りたいけど、今さらだよね……。
「あの、ヒロト様?」
「ん?」
イファがおねだりをするように見上げてくる。
子犬のようで可愛いなと思ってたら、腕をガッチリと掴まれた。
「わたくし、裏切られることが一番嫌いなんです。過去に信じていた殿方に裏切られたことがあって、それがトラウマになっているんです。もしまた裏切られるようなことがあれば、その時は自分でも何をしてしまうか分かりません」
「そう……なんだ」
「はい。実は学生だった頃、一カ月かけて手紙まで書いて告白しようとしたのに、取り巻きのクズにブスだという理由で蹴りまで入れられてしまって、返事がもらえなかったことがあるんです。あの時はお腹がキューって痛くなって、立っていられなくなる程の辛さでした。結局、書いた手紙は読んでもらえず、その殿方はわたくしに手を差し伸べてくれませんでした。あんなに優しい言葉をかけてくださったのに、信じた瞬間に裏切られたんです」
胃が痛くなる……。その意中の殿方っていうのは、間違いなく僕のことだ。
「ふふ……まあ、当時のわたくしはお父様とお母様から過剰な寵愛を受けて、豚のように醜く肥えていました。告白をされて迷惑だったのは本当でしょうね」
「どうして、そんな話をしてくれたの?」
「あの方にあなたがソックリだったからです。声も、優しげな雰囲気も、全て……」
「恨んでるんだね……」
「はい。ですが、感謝もしています。最後に振り返ってくださったので、その心配げな眼差しだけで、わたくしには十分でした」
イファが空いた手でクシャクシャになって黒ずんだ手紙を差し出してきた。
血走った目が真っ直ぐに僕を見てる。
「ふふ……実は、その殿方というのはあなたのことなんですよ。わたくしのこと、もう裏切りませんよね? こんなにも綺麗になったんです。裏切る理由はありませんわよね? あなたの為に顔も身体も所作も言葉遣いも全部綺麗にしてきましたの。ヒロト様に受け入れていただく為に、わたくしは努力と研鑽を欠かさなかったのですわ。だから、ヒロト様には、二度とわたくしを裏切ってほしくありませんの。ヒロト様はどうお考えですか? わたくしはヒロト様にとって魅力的に映ってますか? 監禁して自分だけのお人形にしたいくらい可愛く感じてますの? ね、ヒロト様、答えてください」
ちょっと……痛い……。
ギリギリと爪が食い込んでくる。
「イファ、その辺にしておかないと怖いよ」
「こわ……!? 申し訳ありませんヒロト様! 脅かすつもりはなかったのです。ただ、こうして同じパーティで働けるのが嬉しくて、気持ちが盛り上がってしまいました」
「だ、大事な手紙は読ませてもらうよ。今さらだけど……」
「嬉しいです。お返事は一生お待ちしておりますので、きっと返してくださいまし」
一生って、スケールがでかすぎるよ。
でも、それだけ僕を思ってるのは本当みたいだ。
まだ腕の痛みが残ってる。
「シンさん、あらためてイファを紹介してくれてありがとうございます」
とんでもない事故物件を預けてくれてありがとうございますという気持ちを伝える。
シンさんはそっと目を逸らした。
「仲良くしてあげてね。根は良い子だから。少し感情をセーブできないだけで……」
「一度走り出したら止まれませんの。性分ですわ」
0
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~
フルーツパフェ
ファンタジー
エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。
前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。
死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。
先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。
弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。
――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ミスリルの剣
りっち
ファンタジー
ミスリル製の武器。それは多くの冒険者の憧れだった。
決して折れない強度。全てを切り裂く切れ味。
一流の冒険者にのみ手にする事を許される、最高級の武器。
そう、ミスリルの剣さえあれば、このクソみたいな毎日から抜け出せるはずだ。
なんの才能にも恵まれなかった俺だって、ミスリルの剣さえあれば変われるはずだ。
ミスリルの剣を手にして、冒険者として名を馳せてみせる。
俺は絶対に諦めない。いつの日かミスリルの剣をこの手に握り締めるまで。
※ノベルアップ+様でも同タイトルを公開しております。
アルファポリス様には無い前書き、後書き機能を使って、ちょくちょく補足などが入っています。
https://novelup.plus/story/653563055
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる