上 下
37 / 69

37 種火

しおりを挟む
 俺はシロナから『武技』という技術について聞いたことがあった。

『端的に言えば、魔法とは別の体系の魔力の活用法だよね。肉体の動きにあわせて適切なタイミングで魔力を消費して、技にする感じかな。精霊と契約しなくても使えるっていうメリットはあるけど、技を一つ修得するのに三ヵ月とか平気でかかる技術だから、使ってるのはトリテアとかミナガルデくらいじゃないかな? 私も勿論使ってるよー』

 っていう説明だったと記憶してる。武技は使いこなせれば強力な武器になるが、才能が左右する技術だとも言われている。才能がなければ一生をかけても身につかない技もあるとかで、武技を自在に扱えるシロナはまさしく天才だ。クワハラも只者じゃないよな……。

「こんな技術、タダで受け取ってしまっていいのか? だいたい、聖域にこもってたなら俺の資質だって分からないだろ。王に相応しいと本気で思ってるのか?」
「お前さんのことは大体分かっておる。タダで受け取るのが心苦しいというなら、わしの遊びに付き合ってくれればいい。この刀、今のもてる力で奪ってみせよ」

(偉そうに吹っ掛けてきて強かった試しがないんだよな)

 反射的に時を止める。
 停止のスキルを働かせて刀を奪おうとしたが、彼は静止した時のなかで悠然と刀に手を伸ばした。

(……は?)

「こっちへ来い。妹を巻き込みたくはなかろう」

 クワハラの背後が見通しのいい岩肌へと変わっていく。
 今まで一度たりとも破られたことのない時間停止があっさり破られた。
 スキルを解除し、改めて向き合う。

(この人は、別格かもしれない)

 久しく感じていなかった、ひりつくような緊張を感じる。

「せっかくだ。お前さんが神を殺すに足る器か見てやろう」

 俺は聖剣を構える。そして、ユウスケも使っていた縮地を使い接近を試みた。

「不用意だな」

 クワハラが燃え盛る炎をまとう。近づいた俺を燃やす気か? しかし、俺には炎の類は一切効かない。精霊王と契約したことで得た王の権能は、様々な恩恵をもたらしてくれる。

「炎は効かん。そう思っておるだろ」
「な……」

 まとっていた炎が雷に変わり、瞬きの内に刀が一閃された。
 抜いた瞬間が視えない程の、強烈な斬撃だった。
 俺の下腹部が斬られ、咄嗟に時間停止を使って傷口を塞ぐ。
 まだ止まれない……。

「くたばれ!」

 俺が刺し違える覚悟で放った鬼気迫る一撃は、あっさり刀で防がれた。

「時間停止を傷口に使うとはの。やはり戦闘のセンスがある。だが、実力に差がありすぎたのう」

 水のクッションが召喚され、俺は遥か後方に弾き飛ばされた。

「兄さん……!」
「大丈夫だアカリ。悔しいが、まだ本気じゃないらしい」

 遊ばれている。殺そうと思えば今の戦いでも10回くらいは余裕で殺せていたはずだ。
 俺は本気を出し、まずはアイスとの契約で『停止』の権能を働かせた。四肢を奪った上でさらに『煉獄』を発動させ、クワハラを破壊しようとする。だが、この二つの権能を受けたにも関わらず、彼は何も変化を感じていなかった。

「終わりかのう。精霊王の権能を真似たところで、本物には程遠い。それでは脅威と言えんな」

 刀を構えもしない。ただ散歩でもするように近づいてくる。
 いつだったかの騎士団長との戦いを思い出した。
 あの時以上の実力差があるかもしれない。

 フレアボム、アクアカッター、アイスコフィン。
 あらゆる魔法をクワハラは無傷で受け流す。
 炎は彼を焦がさず、水の刃は水滴となって受け流される。
 足止めにつかった氷の棺はあっさりと砕け散り、破壊と停止の権能は無視される。
 時間停止は……無効。剣の冴えでも大人と子供以上の隔絶した差を感じる。

(なんてことだ……)

 正直、戦いに関しては自信があった。
 精霊王から得た魔法と、権能の力。
 女神の加護によるステータスアップ。
 剣聖から継いだ武技……。
 死角などないと思っていた。
 だが、現実には何一つ通じていない。

「もっと自由に力を振るってみるがいい」

 クワハラが棒切れを放ってきた。

「ただの木の棒だ。それでわしに一太刀与えてみよ」
「できるはずがない」
「いいや、できるとも。目をつむり、世界を感じるのだ。そして、世界のなかにある自分に意識を向けるがよい。お前さんの才能なら、本当の力を見つけられるはずだ」
「しかし……」
「頭で考えるな。やって、感じて、ものにする。もっとシンプルでいい。騙されたと思ってやってみるのだ」

 疑う気持ちはありつつも、今のままでは勝てないのも事実だ。

(少し乗せられてみるか)

 俺は目をつむり、深呼吸をした。魔法も使わず、ただ五感で世界を感じる。
 世界の広さ、どこまでも広がっていく雄大さ。
 ああ、こんなにも世界は自由で開かれている。

 次に、俺は自分の身体へと意識をもっていった。
 俺の内に眠るアイスとフレアとの契約。
 それと、女神から授かった加護達。
 そしてもう一つ……なんだ?
 俺のなかに眠っていた、この力強い輝きは……。

「根源術式。わしが手に入れた森羅万象と同じように。お前さんの魂に刻まれた根源があるはずだ」
「根源……術式……」

 ――星火燎原。

 魂の奥底で眠っていた自身の根源を言葉にする。
 瞬間、俺の背後に白光が産まれた。白い炎の揺らめきだ。
 それは背中を押してくれる陽射しのような暖かさだった。

 不思議な感覚だ。
 何が起こっても大丈夫だという万能感が強まっていく。
 一秒前の自分よりも、今の自分の方が確実に強いという自負が生まれる。

「無限に成長する光か。もっと見ていたいが、そろそろよかろう。天叢雲剣……」

 空から雨が降ってくる。
 雷鳴が轟き、雷と共に一閃が走る。
 俺は無限に成長していく力強い炎の猛りを背に感じながら、棒を振るった。

 棒切れと刀、力と力がぶつかりあい、激しい鍔迫り合いになる。

「うおおおおおお!」
「おおおおおおお!」

 聖域が崩壊する程の力が衝突し、視界がまっさらに染まっていく。
 白く塗り潰されていく世界のなか、クワハラの身体は灰と化していった。

「おい、まだ勝負の途中だろ!」
「すまんな」

 ――あとは託した。

 戦う前から『不死』の権能を返上していたのだろう。
 やっと巡り合えた好敵手は、俺のことなんて眼中にもなかったのだ。

 残ったのはやるせなさだった。
 最後まで戦い、俺を負かして欲しかった。

 国を託されたが、知ったことか。
 お前が好きに生きたように俺も好きに生きる。

 刀を受け取り、俺は聖域を立ち去った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...