上 下
33 / 69

33 自由

しおりを挟む
 四肢が凍りついたように動かなくなった魔人は、羽根をもがれた蝶を連想させた。

「さて、名前から聞かせてもらうか」
「僕から情報を引き出そうとしても無駄だ。エルゴガーデン様は裏切りを許さない」

 ドーグが情報を吐いてすぐに始末されたことを思い出す。

(エルゴガーデンは裏切りを許さない非情な神とか言ってたっけな)

 魔人を鑑定し、リクという名前であることを知った。魔人としてのクラス適正はA+で、能力的にもかなり上位の魔人なんだろうと思う。

 俺であれば始末することは簡単だが、それだと情報が抜き取れない。
 どうしたものか悩んでいると、俺の探知範囲に新たな魔人が転移してきた。

(お仲間か?)

 アイスゲートによって付近一帯の転移は阻害している為、合流には数分を要するだろう。

「よかったな。仲間が来てくれたぞ」
「まさか、アルシュか……。来ちゃ駄目だ。今の僕達では敵うはずがない」

 魔人も人間と同じように仲間意識は持つらしい。
 これは利用できそうだな。

「良かったじゃないか。仲間に助けてもらえるぞ」
「ご無事ですか! リク様!」

 想定していたより遥かに速いご到着だ。加速の魔法でも使ったか。涙ぐましい努力だが、飛んで火に入る夏の虫だな。

「来るなアルシュ! 僕達じゃこいつには勝てない!」
「綺麗じゃないか」

 現れたのは美貌の魔人だった。スラリと手足が伸びた長身の魔人だ。肩に掛かるくらいの髪は漆黒で、宵闇を思い起こさせた。

 しかし、無防備だな。仲間の無事を発見して安堵したのか、隙だらけになっている。俺は即座に停止の権能を働かせ、アルシュの四肢を潰してやった。

「……え?」
「残念だったなアルシュ。お前達よりも遥かに俺の方が強いらしい」
「アルシュは関係ない! 彼女に手を出すな!」
「お前の恋人か?」
「大事な幼馴染なんだ! 彼女はまだ修行中で戦う力もない。どうか見逃してくれ!」
「それはお前の態度次第だ。エルゴガーデンはどこにいる」
「答えてはいけません! 神がお許しになりません!」
「南の果てにいる。……どうかアルシュだけは見逃して欲しい。あなたに攻撃を仕掛けたことは謝罪する」

 リクは女を見逃してもらう為に、膝をついて頭を深々と下げた。
 地面に額がつくことも気にしていない。
 そして、恐らくは自分の命すらも……。

 こういう男は嫌いじゃない。

「有益な情報が手に入るまで交互に質問をしようかと思ったが、見逃してやる。アルシュ、お前は逃げるがいい」
「……そうか。君に感謝する」

 見逃してやると言ったが、アルシュは逃げる素振りを見せない。
 まさか――

「エルゴガーデンの能力について話します。ですから、彼のことは見逃してください」
「馬鹿な……。死にたいのか! エルゴガーデンの能力は支……かふっ」

 リクが吐血する。

(来たな)

 俺は即座に鑑定を使い、リクの状態を調べた。主要な臓器に見慣れない刻印が刻まれている。どうやらこれが悪さをしたらしいな。

「うっ……」

 アルシュも同じように呻き声を上げたので鑑定し、刻印の位置を特定する。
 俺は破壊の権能を用いて刻印を同時に破壊してやった。

 胸を抑えていた二人がいくらか楽そうになる。

「これは……息が楽になった」
「あなたが救ってくださったのですか?」

 ここから先は二人の出方を探りながらの対応だ。
 俺は二人に治癒魔法を施してやった。

「さて、まだ戦う意思はあるか?」
「いや……僕達は君に命を救われた。君は師の仇だが……アルシュにも情けを掛けて見逃してくれようとした」
「そうか。ならばリク、敵を見誤るな」

 言いながら停止の権能を解除してやる。

「同じ時代に生を受けながら互いに命を奪い合うなど、俺に言わせれば兄妹でナイフを突きつけ合うようなものだ。あまりに虚しいと思わないか。お前が尊敬する師が、そんな不毛な戦いを望んでいたと思うか?」
「我が師は戦いが終わることを望んでいた……。だけど、エルゴガーデンの持つ『支配』の権能がある限り、魔人達に自由は訪れない」
「本心では自由を求めるんだな。なら、俺達は『解放』という名の旗の下で共に戦うべきなんじゃないか?」

 自分でもうすら寒いことを言っている自覚はあるが、二人は俺の話に興味を持ったようだった。戦意が削がれているのを感じる。

「まさか、僕達を味方に引き込むつもりなのか?」
「俺はこの国の次期国王だ。もしお前達が望むなら、同じようにエルゴガーデンの呪縛に苦しむ者を救ってもいい。俺の持つ破壊の権能でな」
「君もエルゴガーデンと同じように権能を持っているんだな……」

 ああ、持っているとも。それも二つな。

「よく考えるといい。生まれながらの奴隷であるお前達が救われる最後のチャンスになる。だが、同時にリスクのある賭けでもあるだろう」
「いや、僕は決めたよ。この戦いが終わるまで、君に命を預けたい。今、こうして僕は初めて自由を得た。この感覚、この感動を仲間と分かち合いたいんだ」
「私も、見逃していただいた恩義を返したいです」

 決まりだな。今日、この瞬間に得たチャンスを逃がしたくないという真剣さを感じる。この決断力は買うべきだな。

「まずはエルゴガーデンについて知っている限りの情報をくれ。それをもとに解放作戦を考えよう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

18禁ゲームの貴族に転生したけど、ステータスが別ゲーのなんだが? えっ? 俺、モブだよね?

ライカ
ファンタジー
【アルタナシア・ドリーム】 VRオンラインゲームで名を馳せたRPGゲーム その名の通り、全てが自由で様々な職業、モンスター、ゲーム性、そして自宅等の自由性が豊富で世界で、大勢のプレイヤーがその世界に飛び込み、思い思いに過ごし、ダンジョンを攻略し、ボスを倒す……… そんなゲームを俺もプレイしていた なんだけど……………、何で俺が貴族に転生してんだ!? それこそ俺の名前、どっかで聞いた事ある名前だと思ったら、コレ、【ルミナス・エルド】って言う18禁ゲームの世界じゃねぇか!? 俺、未プレイなんだが!? 作者より 日曜日は、不定期になります

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

かむら
ファンタジー
 剣持匠真は生来の不幸体質により、地球で命を落としてしまった。  その後、その不幸体質が神様によるミスだったことを告げられ、それの詫びも含めて匠真は異世界へと転生することとなった。  思ったよりも有能な能力ももらい、様々な人と出会い、匠真は今度こそ幸せになるために異世界での暮らしを始めるのであった。 ☆ゆるゆると話が進んでいきます。 主人公サイドの登場人物が死んだりなどの大きなシリアス展開はないのでご安心を。 ※感想などの応援はいつでもウェルカムです! いいねやエール機能での応援もめちゃくちゃ助かります! 逆に否定的な意見などはわざわざ送ったりするのは控えてください。 誤字報告もなるべくやさしーく教えてくださると助かります! #80くらいまでは執筆済みなので、その辺りまでは毎日投稿。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

グランディオスの剣姫たち 月華の章 ――復讐のために入学したのに女子と同居とは聞いてないッ!――

杉戸 雪人
ファンタジー
剣と魔法の学び舎――グランディオス第五学園に特待生として入学したアヴァルは、両親を殺された過去が原因で周囲と上手くなじめないでいた。広すぎる特待生寮で一人ぐらしをしていたある日、学園の教師からとんでもないことを提案される。「自分が嫌いな同級生の女子と同居すること」だった。 「――願い下げですよ!」 全力で拒んだものの、結局一つ屋根の下で暮らすことになる。彼女との交流がきっかけで他生徒とも関わるようになっていき、いつの間にか特待生寮の男女比率は逆転してしまうのだった。復讐の力をつけるためだけに学園に入ったアヴァルだったが、彼女たちとの共同生活という奇妙な試練に向き合っていく。 そんな一見華やかにも見える学園生活に、不穏な影が迫ろうとしていた。 しかし、研ぎ澄ませた剣鬼の刃で、少年は闇を切り開く―― 【本作について】 ※総文字数:10万字程度。 ※シリアス要素あり

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

聖十字騎士学院の異端児〜学園でただ1人の男の俺は個性豊かな女子達に迫られながらも、世界最強の聖剣を駆使して成り上がる〜

R666
ファンタジー
日本で平凡な高校生活を送っていた一人の少年は駅のホームでいつも通りに電車を待っていると、突如として背中を何者かに突き飛ばされ線路上に放り出されてしまい、迫り来ていた電車に轢かれて呆気なく死んでしまう。 しかし彼の人生はそこで終わることなく次に目を覚ますと、そこは聖剣と呼ばれる女性にしか扱えない武器と魔法が存在する異世界であった。 そこで主人公の【ハヤト・Ⅵ・オウエンズ】は男性でありながら何故か聖剣を引き抜く事が出来ると、有無を言わさずに姉の【サクヤ・M・オウエンズ】から聖十字騎士学院という聖剣の扱い方を学ぶ場所へと入学を言い渡される。 ――そしてハヤトは女性しかいない学院で個性豊かな女子達と多忙な毎日を送り、そこで聖剣を駆使して女尊男卑の世界で成り上がることを決める――

処理中です...