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18 食事

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「あたし、これにするわ」
「私も同じのがいいです」

 仲良く服を見ていた二人が選んだのは、令嬢が着るようなドレスではなくメイドが着るようなエプロンドレスだった。試着した二人はとても愛らしく、女騎士も「似合うな」と呟いている。

「これ、仕事をしてるあたし達にピッタリだと思うのよね」
「ああ、よく似合ってるよ」
「私も似合ってますか?」
「もちろんだ。二人とも自慢の彼女だよ」

 そう言って頷くと、アイスは嬉しそうに腕を取ってきた。空いた腕にはフレアが収まる。両手に花だな。

 その場で支払いを終えた俺は、二人を連れて食事にすることにした。

「二人とも、何か食べたいものはあるか?」
「私は何でも大丈夫です。ハジメさんが食べたいものが食べたいです」
「あたしはお肉の気分かしら」
「ねえ、服まで買ってもらったのに、食事まで主張するのは気遣いが足りないんじゃないかしら」
「あたしは希望を言っただけよ。別に、お肉以外でもいいわ」

 そんなことを言いつつ、フレアは落ち込んでしまっている。
 気遣いが足りないと思ったんだろうな……。

 俺はアイスサークルと鑑定を使い、食事処を探すことにした。俺の求める条件にあう店は見つかり、なんとか店が決められたと思った俺だが、シディアは「本当にここに入るのか?」と聞いてきた。

 俺が選んだのは庶民的な店だ。高級な店だとドレスコードとかがうるさそうだし、無理を言って店側を困らせたくもない。

「王都にはもっと高級な店もあるんだがな」
「味は俺が保証するよ」
「初めてくる店だよな?」

 来たことはないけれど、店主の料理人としての評価はSだ。腕は保証されてるようなものだと思う。この店の保管してる食材には肉もあったし、フレアの期待にも応えられるだろう。

「いらっしゃいませー!」

 当たりのはずなんだが……席が空いている。

「メニューが決まったらお声がけください!」

 ハキハキとした声で、厨房にいるシェフの格好をした娘が伝えてくる。彼女が店主のようだが、この若さで独り立ちをした料理人か。俺が想像してた店主の風貌とは少し違ったなと思った。実力からしてもっと年がいってると思っていたのだ。

「おい店主、彼は……」
「ちょ、何を言おうとしてるんだ!?」

 慌ててシディアを止める。

「先に料理を運ばせようとしただけだ。女王の客人だと伝えれば手厚くもてなしてもらえるぞ」

 店内には少ないが他の客もいる。老夫婦や家族連れの客が数組入っていたのだ。彼らを押しのけてまで先に料理を口にしようなんて思わない。

「俺はただの客でいい。あんたも席についたらどうだ」
「なるほど」

 何が「なるほど」なのかは分からないが、彼女は同じテーブルについてメニューを決めた。

「へぇ。お肉があるわよ」
「私はデザートにしようかしら」
「デザートは逃げないわよ。人間はご飯を食べてからデザートにするんだからね」

 恥ずかしそうにしたアイスがシチューを選ぶ。見たこともない文字のはずなのに、俺もハンバーグのメニューを選ぶことができた。恐らく、転生時に言語系のスキルが備わっていたのだと思う。今まで自然に話せすぎて気づいてなかったな。

 数分してメニューが運ばれてきたのだが、運んできた少女に猫耳と尻尾がついていたので驚いてしまった。この世界には獣人がいるんだな……。

「どうぞ」

 自信なさげに料理の乗ったトレイを運んできた娘が、不安そうに皿を並べた。そんなに不安そうな顔をしないでほしいと思う。なんだかこっちまで不安になるじゃないか。

「ありがとう」
「……っ!」

 普通に礼を言っただけなのに、彼女は驚いていた。心なしか嬉しそうに厨房に引っ込んでいく。

「ふむ。料理人が年若い娘というのも驚いたが、まさか獣人を雇っているとはな」
「そんなに珍しいのか?」
「この国は亜人を排斥している。特に獣人は畜生以下の扱いを受けていてな。まずまっとうに職につけること自体が珍しいのだ。亜人の入店を断る店もあるなかで獣人を雇うというのは逆風だ。いくら味と値段はよくても、余裕があったら私だって別の店を選ぶ」

 あまり気持ちのいい話じゃないな。

「俺は気に入ったよ」

 できることは少ないが、常連になれたらなと思う。厨房で姉妹のように喜びを分かち合ってる二人を見て、俺はそんなことを思った。
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