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「誰だよお前。名前を言えよ」

 アルニスが女を睨む。

「わいか? せやなー。起動したばかりで名前もないんやけど、勇者さんどない思います?」

 俺に振られても困る。
 神がスキルを届ける為に用意したNPCだろうか。
 それよりも――

「スキルを運んできたのか?」
「せやったせやった! まぁ、まずは見本を見せたるさかい、よう見とき?」
「だが、お前の戦力値は――」

 20しかないだろ。
 言い終わる前にアルニスが仕掛けた。

「君も姉上のレイプパーティーに誘ってやるよ。気絶してくれるかな」

 アルニスの手刀が女に迫る。
 だが、アルニスの拳は女の身体をすり抜けるだけだった。

 一体、今何が……。

「ふ、ふざけるな!」

 アルニスがガムシャラに拳を叩き込むが、全てすり抜けて女には一発も届かなかった。

「これが『色即是空』。存在を一時的に消すことで攻撃を空回りさせるスキルや。そしてこれが、『唯我独尊』っちゅうてな」

 実体化した女の拳がアルニスを捕らえる。
 しかし、彼我の戦力値の差は222。
 攻撃は命中するどころか、当ててもダメージを与えるに至らないはずだった。

 だが、女に腹部を殴られたアルニスが腹を抑えて蹲った。

「バカな……。ぼ、僕がこんな女に負けるはずが……」
「見ての通り、『唯我独尊』は格上の敵を殺す為のスキルやな。それともう一点、『六道輪廻』っちゅうスキルもあんねんけど、これは発動条件が自分の「死」やから使わんでええよな」

 ポン、と俺の肩を叩いてスキルが譲渡される。

「はーしんどかった。スキルの容量が大きすぎてわいが自壊する寸前やったわ。親父も人使い荒いなぁ。まあええわ、ほんで、わいはこの後どうしたらええんやろ? 分からへんから姫様の護衛一緒にしたるわ」
「いや、いいのか? 俺を手伝っても……」
「ん? 別にかまへんちゃう? 神様が直接干渉するんはルール違反やけど、わいは神様やあらへんし。いいとこ使い魔? とにかく親父が止めん限り遊ばせてもらうわ。『ドッペルゲンガー』ゆうて仲間のスキルを借りる能力もあんねん」

 超過剰な戦力が味方になってしまった。
 戦力値は低いが、これほど心強い味方もいない。

 一緒に姫を守るギルドマスターの戦力値は最高峰の120。
 二人で姫を守ってくれるとありがたい。

 俺は手に入った三つのスキルを確認する。

 『色即是空』は自分の身体を「無」の状態にして攻撃を避けるスキルだ。ただし、発動中はこちらからの攻撃も不可となる。それでも絶対回避のメリットはデカすぎる。

 『唯我独尊』は自分より格上の戦力値を持つ敵と対面している間、自分がその戦力値を常に+5上回るという壊れスキルだった。最強のバフだ。これ、魔王にも有効なんじゃないか? いや、アンチスキルを使われる可能性はあるか。相手が対抗策を持たなければそのまま勝利が確定するのが恐ろしいが。

 最後に、『六道輪廻』は死亡時に人間界に蘇生すると共に、自分の戦力値を+60するスキルだった。また、一度強化された戦力値はリセットされることもなく永続的に強化されたままらしい。その代わり、発動して復活するまでに60秒掛かるデメリットがあり、また、日に一度しか使用できないようだった。つまり24時間のインターバルは健在だということだ。また、このスキルをセットしていると自害の類はできなくなるらしい。

 変異体の代わりにスキルをくれると言っていたが、とんでもないのを三つもくれたな……。

「スキルっちゅうんは容量使うから、フツーの人間やとでかいスキルは一個しか入れられないんや。でもあんちゃんの容量は底が知れんくらいやったから、凄いのが三つも入れられたわけやな」
「ありがとう。お陰で何とか戦えそうだ」

 俺は『唯我独尊』を発動させる。

 俺の戦力値は247となった。
 アルニスの戦力値は242。

 『唯我独尊』を発動している間、装備による戦力値の強化は行われないらしい。
 だが、十分すぎる。目の前のクズ野郎を叩きのめしてやるにはな。

「アルニス……。レイナを輪姦させると言ったな。俺の女に手を出した奴は例外なくぶっ殺すことにしてるんだが、知ってたか?」
「ヒィィィィ……!」

 肌で感じたのだろうか? 明確な力の差を……。
 俺は奴の攻撃を避けながら近づき、股間を思いきり蹴り上げてやった。

「ああああぁぁぁぁ!!!!」
「レイナを殴って遊びたかったんだってな。お前に欠けてるものを教えてやろうか? 共感能力だ」

 徒手空拳のアルニスを拳で圧倒する。
 そして、最後にはアクアスを四連続で突き出して四肢を砕いてやった。

「あが……っ! お、お前ら、姉上はいい……。勇者を……殺せ」

 惨めに地を這いながらアルニスが命じる。

 俺は霊剣アクアスをアルニスの腰に突き立てた。

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 アクアス、頼めるか?

『旦那様も残酷なことを考えるのじゃな』

 色即是空は俺が装備している剣なども「無」としてしまう。
 だが、床に突き立てた霊剣は装備を外された状態になる。

「王子を助けたいんだろ? 助けられるか試してみろよ」

 武器を手放した俺に騎士達が殺到した。が、誰一人として俺に触れることはできない。そして、一方的な攻撃が始まる。アルニスに突き刺さったアクアスが、水刃をばら撒き始めたのだ。

「うあぁぁぁ!!! 剣が独りでに!」
「なんで攻撃が当たんないんだよ!」

『んー。タクマに装備されてる時よりも威力が下がるのう。何より寂しいのじゃ』

 分かった。アクアスを悲しませることは俺の本意じゃない。

『旦那様は優しいのう』

「ギィィィ!?」

 アルニスの身体からアクアスを回収してやる。
 そして、俺は神竜斬を実体化の瞬間に放って騎士達を閃光の彼方に消した。
 一応、加減はしたから生きてはいるはずだ。

「勇者様……僕が……僕が間違ってました。だから助けてください……。私の負けです」
「いいや、まだ諦めるには早いんじゃないか? まだまだ罰は受けてもらうぞ」
「もう無理だぁ……」

 アルニスは完全に戦意を失って腰が砕けてる。
 いや、実際に砕けてるかもしれないが。
 何か匂うと思ったら王子がお漏らししていた。

「良かったな。最後に痛みに共感できて」
「あ、悪魔ぁ……」
「悪魔はお前だろうが」

 頭を踏み潰して気絶させる。

 残りはアルジャン、そしてアルニス一派だな。
 連中の罪を暴かせてもらおう。

「見ろ。ここにダイババが書き残してくれたリストがある。ここに書かれているのはダイババの奴隷売買に加担した連中の名前だ。当然、アルニスとアルジャンの名前もある。俺達はこのリストを元に簡易裁判を行うが、まだ抗う奴はいるか?」
「私も……私も参りました! 老い先短い老骨にどうか寛大なご慈悲を――」
「うるせえよ」

 アルジャンは顔面骨折パンチの餌食にした。

「あが……っ」
「てめえの下らない欲望の為にどれだけ他人を犠牲にしてんだ」

 思いきりアルジャンの男の部分を踏み潰してやる。

「……イギィィィィ!?」

 運が良ければポーションで治るんだ。お前も痛みを知れ。

 さて、ようやくこれで少しは片付いたかもな。
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