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45 共に歩く未来へ

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 見ると、そこには懐かしい顔が二つあった。
 かつてミイナと旅をしていたクオンと、水の精霊アクアスだ。

「いや、待て……。クオンは分かるがなんでアクアスまでいるんだ?」
「愚か者め! 全て貴様のせいだ」

 以前よりボロい装備をつけたクオンと、小柄な美少女アクアスの組み合わせだ。

 事情が分からないんだが、二人は俺に対し敵愾心を滾らせているようだった。

 が、クオンは俺に敵意を向ける前に、ミイナに向き合った。

「会いたかった……!」
「え、あ、はい。そうでしたか」

 俺の恋人になってるミイナは、昔の想い人の顔を見ても白けた様子だ。
 というか、少し引いてるようですらある。

「あの時、僕はタクマに敗れ、勇者としての至らなさ、そして、どれだけ君に甘えていたかを思い知った。僕は自分の弱さと向き合う為、聖剣への未練を絶ち新たな力を手にした。それが彼女、霊剣アクアスだ」
「タクマよ。貴様のせいで私は湖から引っ張り出されてこの男に付き合わされておる。早々にこの者を倒し、私を解放せよ」

 デコボココンビどころじゃないぞ。一方的な隷属契約だ。
 俺は呆れてしまった。今頃アクアスを失ったサルマンドでは水不足が起こってるかもしれない。仮にも元勇者が精霊を誘拐するなど、言語道断だろう。

「アクアスは聖剣より強いぞ……。さあ、僕と勝負しろ。そして、ミイナを返すんだ」
「あの、クオン。話を聞いてください。私はもうあなたの元に戻るつもりはないのです」
「それは僕に力がないからだろう!? 君はその男が敗れるところを黙って見ていてくれ! さあ、こっちだタクマ! 表に出ろ!」

 クオンが右手を水平に伸ばすと、アクアスが粒子化してクオンの剣となった。
 鑑定してみるが――幻想級、戦力値+40か……。

 そういえば課金ガチャでアクアスって剣を見た覚えがあったな。
 精霊関係の剣だと思ってたが、まさか精霊そのものだったとは……。

「ミイナ……」
「巻き込んで申し訳ありません。私の方に未練は一切ないので、倒してしまってください」
「分かった。クオンを倒して精霊を解放しよう」

 往来に出て、剣を構える。

 クオンの方はあの時よりレベルが4上がり、戦力値119だ。
 どういうレベリングをしたのか、ほぼ成長限界に達していただろうに、4つもレベルを上げてきた。それだけ、ミイナに対する思いが強かったということだろう。

 霊剣アクアス装備で、戦力値159……。

 対する俺の戦力値は、レベル42で145。
 聖剣装備で175だな。

 ラッキーシードを食べたメナンドを倒した影響か、俺のレベルもかなり上がっている。悲しいが、今回は変異体も変貌も要らないくらいの戦力差だ。

「行くぞタクマァ! 空よ泣き叫べ……!」

 霊剣アクアスを掲げたタクマが叫ぶ。すると、急速に空模様が変化し、晴天だった空からポツポツと雨が降り出した。雨は勢いを増し、やがて視界不良になる程の大雨に襲われた。

 念の為、俺はクオンを鑑定する。
 何の為に雨を降らせたのかと思ったが、奴にバフスキルが追加されている。

『水精霊の加護:戦力差+20』

 なるほど、さすが幻想級アイテム。
 これでクオンの戦力値は179。
 俺を上回ったわけだ。

 しかし、視界が悪くなったことは俺にとって好都合だ。
 往来に居た人々は俺達の戦いを見届けようとしていたが、今は軒先に散っていった。

 ミイナとリリカは近くで見守っているが、この視界の悪さだ。
 俺の変化には気づき辛いと思う。

 ――変貌しろ。

 形状、固さ、質感を人間に近づけて発動した。

(……上手くいったらしいな)

 見られることを警戒していたが、人間の腕に近づけて発動すればバレることはなさそうだ。今、俺のスライムの右腕は、人間の腕にしか見えない。

 しかし、体術向上の効果は発動し、俺の戦力値は合計205に達している。

「死ね! タクマ!」

 加護とアクアスによる二重の強化を受けたクオンが、地を蹴る。
 ニヤつきながら疾駆している様子が、俺にはスローモーションで見える。

 長引かせるような気も起きず、俺は聖剣の柄を振り下ろしてガツンとクオンの顔面を殴った。

「おべぇ!?」

 殴られたクオンが水溜りに倒れる。

「え……なん、で」

 鼻血塗れのクオンがヨロヨロと立ち上がる。
 ゴシゴシと鼻を拭って、クオンは剣を構えなおした。

「まだやるのか?」
「マグレだ。適当に振ったんだ! それが僕に当たった! 僕は負けてない! 見ててミイナ!」
「もう、諦めたらいかがですか……? 勝つのはタクマです」
「え!?」

 降り注ぐ雨の中、クオンがミイナを見つめる。

「どうしてそんなことを言うの? 僕が勝てば、きっと聖剣だって戻ってくる。仲間はいなくなったけど、また二人でやり直そうよ!」
「終わった時間は二度と戻らないんです」
「馬車の中で、よく目があったよね!? 何度か、キスもしかけたじゃないか。ほら、僕が君の手を握って――」
「やめてください! タクマの前でそんな話! 誤解されてしまいます!」

 ミイナが悲鳴のような声を上げ、俺に抱きついた。

「違うんですタクマ! 確かに手は握られました! でも、それ以上のことはなかったんです!」
「はっ……。どうだかな」

 少し、嫌な気分になってしまった。
 ミイナが、俺の首に腕を回してディープキスをしてきた。
 ピチャピチャと音を立てて、舌を絡めるようなキス。
 間近でキスをすると分かった。ミイナが俺に拒絶されて、絶え間なく涙を流していることが……。

 大司教にミイナを大事にすると誓ったのに、もうこのザマか。
 自分の至らなさに失笑したくなる。

「嫌いにならないでください……。タクマしかいないんです……。お願いだから捨てないで」
「ごめん……。ごめんな?」

 俺は何をムキになっていたんだ。傷ついたミイナを抱きしめ、もう離さないとしっかり背中に腕を回す。
 喜びに震えたミイナが再び自分からキスをしてきた。俺の舌に自分のを絡めて必死になっている。

「ん……ちゅむ……タクマ……」
「おい、何だよそれ! 嘘だろ! 嘘だと言ってくれミイナ!」

 ミイナがキスを邪魔されて不快そうにクオンを睨んだ。

「私とタクマの仲を邪魔しないで! 私は、タクマとセックスしました! 星の降りそうな夜に、タクマは何度も私をイカせてくれました! タクマのをしゃぶったこともありますよ!? この胸だって、お尻だって、大事なところだって、全部、全部タクマに許してます!」
「もうそれ以上言うなぁぁぁ……!!!!」

 クオンの霊剣アクアスが強烈に輝き、透明な水と光が竜の像を結ぶ。

「全部洗い流せ! 水竜斬――――ッ!!!!」
「俺とミイナの前から消えろ――――ッ!!!!!」

 ――スキル『神竜斬』を取得しました。

 頭のなかでメッセージが聞こえた気がした。
 俺の剣が閃光を纏い、全てを飲み込んだ。

 気がつくと、クオンの放った水の竜は消滅し、奴は往来で気を失っていた。

 霊剣アクアスを回収し、踵を返す。

 雨が止み、晴れ渡った空から虹が差している。
 後ろからリリカが追いかけてくるのを横目で確認してから、俺達は安宿ミライに向かって歩き始めた。

 火照った身体を更に燃え上がらせる為に――
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